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第三章 バミュール邸での密議 2-3



「新大公に兄上が? そんな甘言に乗って、あなたは簡単に陰謀の片棒を担ぐ気になられたのか。御兄弟以上のアーディンさまを裏切ろうというのですか。このような兄を持ってわたしは恥ずかしい、もうわたしはあなたを兄だとは思いたくない。やるのならば勝手にやられるがいい、わたしは一切関係せん。兄上、貴方の才覚で一族を差配されればよい、この件がどう決着するかは知らんが、わたしは館に引き籠る。わたしが気に喰わんのなら、さっさと一族から勘当なされるがよかろう」

 父は怒りのあまり、そう怒鳴り散らしていた。


「か、勘当などとそんなことまで思ってはおらん。此度の話しがそんなに気に入らんのなら、お前は手を貸さずとも構わん。その代わりわたしが大公となったらば、右腕としてアルファーと二人して政を支えて行ってほしい。他にも弟はおるが、お前ほど信頼できる者はどこにもおらん、頼むぞフェリップ」

 兄弟の情を絡めながら、阿るように言ってくる。


「そんな汚れた政などに加わりたくない、どうとでも勝手にされよ」

 突き放すように冷たく拒否する父の態度に、ヴィクターは少なからず嬉しくなった。


 やはり父は立派な人だった、間違ったことの嫌いな清廉な方だったのだとほっとしたのだ。


「三月も前にすでに話しは決まっていたのか──、しかしお父上と家令のアルファー殿は、その話しには反対しておられたのだな」


「ああ、二人とも大反対だった。しかし──」

 クエンティに応えるようにして、ヴィクターはさらに話を続ける。


 主がすでに誓書を交わしてしまったことを知ると、アルファーは諦めたように話しの趣旨を変え始めた。


「ジョージイーさま、もしヒューガンさまたちの企てが失敗に終わったときには、どうなさるお積もりなのです。ザンガリオスとワルキュリア両家が味方に付いたとしても、宮廷側は聖龍騎士団、近衛騎士団、バロウズ騎士団、殉国騎士団を始め、大貴族連合の各騎士団が相手なのです。とても勝ち目があるようには思えません」


「そこは大丈夫だ、こちらには戦略の魔術師ヴィンロッドがついておる。まずバロウズ騎士団にはワルキュリア鉄血騎士団の半数を割き、対応に当たらせる。グリッチェランドへ先制攻撃を掛け、徹底的に決着を長引かせ、遠く湖水地方に足止めさせる作戦だ。そして命さえ顧みず突撃してくる黒い悪魔のような殉国騎士団には、ザンガ―朝・フェリキアをぶつける」


「フェリキアを? 敵国と闘わせるというのですか」

 アルファーが思わず声を上げた。


「そこがヴィンロッドの凄い所だ。すでにフェリキア大王へ向けて幾人もの間者が放たれている、『近々サイレン国内にて大規模な内戦が勃発する、その隙を突きノインシュタインへ進行すれば、念願の第一歩であるトラストラ台地の奪還は容易なことでしょう』という伝言を持たせてな」


「な、なんと自分たちの企みのためには領地さえ売ろうと言うのか。人非人のすることだ、それでは売国奴ではないか」

 父は激怒して伯父に詰め寄った。


「わたしがしておるわけではない、すべてはヒューガンとヴィンロッドの陰謀だ。しかしわが方が勝つにはその位せねばならんのだ」


「わが方などと言う言葉は使うな、わたしは一切こんな企てには加担せんぞ。兄上は頭がおかしくなったのではないか、大公の座が欲しくて国を売るなど本末転倒だ。そのような者たちが治める国などやがては滅んでしまう、貴方はサイレンを潰す気か」


 父は理を説き伯父へ翻意を促すが、なんの効果もないようだった。



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