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第三章 バミュール邸での密議 2-1



「わがウェッディン家とリム家は、まるで同じ一家のように近しい関係にあった。伯父である当主のジョージイーと、リム家当主で現大公のアーディンさまは特に仲が良く、兄弟と言うより双子といっていいほどの間柄だった。そういった事情から、普段から互いの家族は遠慮なしに相手の屋敷に、自由に出入りしていたんだ。アーディンさまが大公になられてからは、屋敷だけではなく星光宮の大公殿にもよく行ったものだ」

 ヴィクターは、まずは両家の関係から説明する。


「同じサイレン三家と言っても、カーラム家は別格だった。長い間大公位を独占して、他の二家をまるで家臣のように見下していたんだ。前大公もその息子のヒューガンもいけ好かない、厭味な人間だった。親しく話した記憶さえなかった、だからその分他の二家が接近して行ったのかもしれない」


 こうして内情を聞いてみると、庶民からしてみればサイレン家などどれもみな同じようにしか見えないが、実際は色々とあり普通の親戚間のごたごたとなんら変わりがないのだと分かった。


「俺は伯父のことはあまり好きではなかった、とにかく優柔不断で当主としても頼りなく感じていたんだ。しかし従兄妹たちとは仲が良かった、特に一つ年下のジョアンナとは本当の兄妹のように付き合っていた。周りでは俺とジョアンナを結婚させようなどと考えているようだったが、二人にはそんな気はまったくなく、ただなんでも相談し合える一番の親友といった関係だった」


「どこでも大人たちは勝手なことを考えるもんだ、貴族さまでも同じなんだな」

 ババルディがふんふんと、訳知り顔で頷いている。


「その日も俺はジョアンナから呼ばれて、伯父の館を訪れていた。彼女がとある貴族の息子に恋をしてしまったと告白してきた。どうすればいいのか相談に乗って欲しいと言われ、長々と彼女の部屋で喋っていた。結論としては、俺の知っている限り相手の野郎は、あっちこちの女に手を出している浮気男だから諦めろという話しになった。ジョアンナはひどく落ち込んで、しくしくと泣いていた。世の中に男などいくらでもいるからそう哀しむな、そういう俺に〝もうわたしは恋なんかしない、他に好きな人など作らない〟そういって俺を睨み付けた」


「世間知らずのお姫さまだからしょうがねえよ、恋は一度きりだなんて思い詰めるもんだ」

「一々お前が口を挟むんじゃねえ、話しが先に進まねえだろ」

 クラークスからババルディが怒られる。


「すんません親分、それでそれからどうなったんですかい若さま」

 謝りながらも根っからのお調子者なのか、身を乗り出して訊いて来る。


「じゃあ俺が良い男を紹介してやるって話しになった。実をいうと仲間のリッティオンが、前からジョアンナに惚れているのを知っていたんだ、隣の部屋にいる背の高い方のやつだよ」

 それを聞いたババルディが、又なにか喋ろうとしたが、クラークスから睨まれたため、額を軽く叩いて黙って首を竦める。


「どうにか従妹の気を静めた俺は彼女を部屋に残し、帰るために二階の廊下に出た。そうしたら下の広間から気を昂らせた父の声が聞こえたのだ。

「兄上、あなたは大公殿下を裏切るのか。まるで兄弟のように育ったあのお方を陥れようというのですか」

 父が大声でそう怒鳴っていた。



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