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第三章 バミュール邸での密議 1-4



「そうかい、助けて欲しいかい。じゃあこっちの頼みも聞いて貰おうか、あなたのお父上と話しをしたいんだ。まずは手紙を書いてくれませんかね」


「父と?」

「ああ、わたしたちはあなたのお父上と、是非話したいことがあってね。息子の命と引き換えであれば、さすがの雲の上にお住いのサイレン家のお方でも、耳を貸してくれることでしょう」

 落ち着いた口調でクエンティが言う。


「手紙を書けというのならすぐにでも書こう、一体どんなことを書けばいい。それでファンティーヌや仲間を助けてくれるのならばなんでもする。それとチュウーイは大丈夫なんだろうな、馬鹿な奴だが気の良い男なんだ。これ以上酷い真似はしないで欲しい、俺の友達なんだよ」


「友達か――、いい言葉だな。安心しろ命に別状はない、左耳それと手の指三本と足の指を二本ばかり失くしただけだ。目を抉られる寸前に、他のお友達がすべてを喋ったよ。あいつは最後まで若さまには恩がある、絶対になにも喋らないと啖呵を切ってたそうだ。結構骨のある律義者じゃねえか」


「チュウーイ、俺を庇って――。すまない――」

 ヴィクターが顔を歪めながら呟く。


「おい、若さまの縄を解いてやれ」

 クエンティが若い衆に命令する。


 縄を解かれたヴィクターは、小さな机の前に座らされた。

 机の上にはあらかじめ準備されていた羊皮紙とペンとインク、それに印璽用の蝋までが用意されていた。


「さあ、なんでも言ってくれ、その通りに書こう。命乞いをする言葉がいいか、それともただただ泣き言を綴ろうか。あんな恥知らずな親父だ、好きなだけ身代金でもなんでも取ればいい」


「随分とお父上に対して酷い言葉を使うな、一体親子の間に何があった」

 ヴィクターの言葉に興味を覚えたクエンティが、訊いてみる。


「あんたらみたいな方たちには関係のない話しだ、言っても仕方がない。さっさと書かせたいことを喋ってくれ」

「おやおや、わたしたちをただのならず者だと馬鹿にしてるのかい若さま。わたしたちにだってそれなりの頭はあるし、考えもあるんだ。もしかしたら貴方の憤懣をどうにかしてやれるかもしれないじゃないか」


「じゃあ訊くが、あんたらいまトールン、いやサイレンがどうなろうとしているか知っているか」

 急に改まった表情になる。


「まあな、もうすぐ戦が起ころうとしてることくらい分かってるつもりだ。わたしたちだとて馬鹿ではない、今度の戦の勝敗が、なにを意味するのかくらいは承知している」


「そうさ、サイレンに仇なす叛逆者どもが、そこまで迫っている。話しによるとトールン守護軍とイアン将軍は圧倒的に不利だと聞く。このままトールン軍が敗れれば、サイレンはカーラム家とその取り巻きによる、独裁国家になってしまうんだ。それもこれもすべてはわが父が不甲斐ないからこうなった。大公さまをお支えする立場のサイレン一族である、わがウェッディン家が叛逆者に加担するとは。なんとも嘆かわしい限りだ──」


 思いがけずヴィクターの口から出た言葉に、クラークスとクエンティは驚きの表情を見せた。

 ただの高貴な家柄の、我儘な放蕩息子だとばかり思っていたのだが、国を憂える心を持った青年らしかった。


「そりゃ一体どういうことだい、詳しく聞かせちゃくれねえか。もしかしたら俺たちと若さまは手を組めるかもしれねえ」

 クラークスはヴィクターの両肩を掴み、自分の方を向かせた。


「手を組む?」

 なんのことやらわからず、自分に熱い視線を送っている目の前のやくざの親分に問い返した。


「俺たちが若さまの父上に会いたい理由は、身代金目当てなんかじゃねえ、いま口にされたその戦に関する話しなんだよ。あなたの父フェリップさまが、トールン軍勝利の鍵を握っておいでなのだ。若さまも宮廷側にお味方するお気持ちであるのなら、ここは互いに協力して叛逆者どもに天罰を下そうじゃありませんか」


「父上が鍵を握っている? どういうことだ、それにあんた方はなにをしようとしている。ただのやくざじゃないのか」


「なあにね、俺と聖龍騎士団総司令のイアンは義兄弟でね。ちょうどあんたら位の頃に契りを交わした、今回の戦にも俺は乾分を引き連れて、イアンを扶けるために参陣するつもりだ」

 どこか気恥ずかし気に、クラークスが顔を赤らめる。


「義兄弟! やくざと聖龍騎士団の総司令が──」

 ヴィクターが目を大きく見開いて、口をぽかんと開けたまま唖然となっている。



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