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激章(イアンの最期) 1




 聖龍騎士団総司令のみに許されている、黒と金の鎧を身に纏ったイアンとその旗本隊は敵の奇襲を受け混乱状態の中にあった。


 乱戦の中にあっても、彼の姿はすぐにそれと知れる。

 真っ黒な甲冑には、所々に金の文様や縁取りがなされ、胴にはデュマ家の家紋が美々しく象嵌されている。


 同じく黒と金の兜には両頬部分に各々斜めに三本の真紅の隈取りがあり、極楽鳥の長く美しい羽が飾られ、どこからみても一目瞭然でその存在は隠しようがない。


 思いも掛けぬ奇襲であったために、イアンは乗馬することも出来ずに地に立って闘っている。

 ひっきりなしに殺到する敵兵を、腰の剣を引き抜き、なんとか防いでいる。


 クルーズを助けるために愛槍・聖グリフォンは手放しているために、槍や戦鉾相手に太刀で対応しているのだ。

 戦場での乱戦において、太刀はあまりに非力すぎる。

 打撃力が格段に落ちるのである。


〝びゅうんっ〟


〝どがっ〟


「ぐはあっ!」

 後方で悲鳴が聞こえた。


 振り向くと大(まさかり)を上段に構えた兵が、聖グリフォンに串刺しにされていた。


「いま参りますぞ、イアンさま」

 大斧〝阿修羅〟で次々と敵を薙ぎ倒しつつ、クルーズが奔ってくるのが見える。


 しかし立ち塞がる兵の数が多すぎて、イアンに近寄ることは出来ない。

 イアンは〝漣〟を腰の鞘に戻すと敵兵の胴を貫通し、大地に深々と突き立っている槍を右手一本で軽々と引き抜き、返す穂先ですぐに敵を屠って行く。


 その槍捌きは荒々しく、洗練された手並みとは程遠かった。

 しかし膂力は素晴らしく、向かってくる兵たちを力任せに槍先にかけて行く。


「トールン防衛騎士隊大隊長、セルジオラス討ち取った」

 高らかに声が挙がった。


「セルジオラスの首を取ったは、カーラム家家臣レッセル騎士団のクラ―ゼンなり」

 遠くから敵軍の歓声とともに、セルジオラス討ち死にの報がイアンの耳に届いた。


「セルジオラスが・・・」

 炎のような真っ直ぐな魂を持つ勇将の死の報は、イアンの心を揺さぶった。

 そこへ瀕死の状態の伝令が跪いた。


「カーベル城主オズワルドさま討ち死にされました、第五、第八大隊は未だに奮戦中なれど、わが軍は各所で崩れ出し、もはや勝負の帰趨は付いてしまいました」


 体中になん本もの矢を受けた伝令はそれだけ告げると、その場に突っ伏し息絶えてしまった。


〝近衛騎士団はまだ来ないか・・・〟

 遠くトールン市内の方角を眺め、イアンが呟いた。


「聖龍騎士団総司令イアン殿とお見受けする、貴殿に恨みはないがここで首を頂戴する。お覚悟あれ」

 そこへ三人の騎馬武者が現れた。


 いずれも美々しく馬を飾っている所を見ると、一廉(ひとかど)の武人と思われる。


「いかにも俺はイアンだ、お前らなに者だい。名を名乗りやがれ」

 恐れる風もなく、イアンは三人を見上げた。


 面頬の目の部分だけが開くようになっており、イアンは〝カチャリ〟と金属のつまみを開き、相手へ突き刺すような鋭い眼光を向けた。


「ヒューガンさまの家臣、ゲーベル領主のデルシュミット伯爵と申す」

「同じくエンベルス騎士団のオハラ男爵」

「拙者は侯爵エオヴェルドが家臣、ベッテル騎士団騎士長のヘッセと申します」


「ふうん、知らねえな。まあいいからとっとと掛かって来な、欲しいならこの首取って見なよ」

 面頬を降ろしているために表情は確認出来ないが、声から察すると笑っているようにも聞こえる。



読んで下さった方皆様に感謝致します。

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