第二章 草原の戦い 4-9
時を同じくして公都北部に位置するバッテルン広場には、現大公アーディン子飼いの、リム・サイレン家の騎士達『ハルンバート流星騎士団』が待機していた。
リム家は三つあるサイレン家の中でも一番規模が小さく、いままでも滅多に大公を輩出していない地味な家柄であった。
拠ってその経済基盤も貧弱で、サイレン家の騎士団としては六千騎と兵数も少なかった。
しかもいまトールンに滞在しているのは、大公護衛を目的とした側近としての三千騎に過ぎなかった。
残りの半数三千騎は、リム家の領地であるハルンバートに残してある。
指揮官クライシェス・フォン=ライダー侯爵は、主家であるリム家以上の広大な領地を保有する大貴族で、経済的にも軍事的にも主家に大きな貢献をしていた。
しかしリム家に対する忠誠心は篤く、リム家あってのライダー家との家訓を固く守り、常に主家を立てることを忘れていない。
しかもクライシェスは〝鬼神〟の異名を持つほどの武将でもあった。
彼の所有する精鋭『ライダー鬼甲騎士団』八千騎は、烈将ドレン将軍及び一門で形成する『アンテーヌ四騎士団』四千騎ともども、領地のアンテーヌの居城にあった。
主人であるアーディンから、大公不介入を理由にトールンへ呼び寄せることを禁じられていたのである。
彼は此度の状況に、当初から大いなる不満を抱えていた。
トールン宮廷と聖龍騎士団が兵を挙げたのならば、大公もそれを支持し、ともに上洛軍を叛逆者と名指しして討伐するべきだとの考えを持っていたのだ。
個人的にも縁戚関係のある、聖龍騎士団第一大隊指令のオリヴァーとは親友でもあった。
彼のすぐ上の姉リリアンナが嫁いでいるのが、親友であるオリヴァーだった。
そもそも此度の争いを、家臣同士の利権をめぐる小競り合いだとして、大公としてはどちらにも助勢せぬことをアーディンへ吹き込んだのは、ウェッディン家の当主ジョージイーであった。
アーディンとジョージイーは同じ齢で、子供の頃から双子のように親しく育ってきた仲だった。
そのジョージイーの熱心な勧めもあって、アーディンは大公不介入を宣言したのである。
しかし実際にはそのウェッディン家が上洛軍に加わっているのだ、それはどうにも理屈に合わぬ話しだった。
宣言直後から、多数のウェッディン家の者たちが大公宮へ入りアーディンを囲い込み、大公宮から一歩も出さぬようにしてしまっていた。
大公の側近たちもみな建物から追い出され、侍従長のエ二グロス以外誰一人主人と会うことも出来ずにいた。
時折ウェッディン家の家臣から〝余は息災にしておる、此度の騒動が収まるまでは大公宮に籠るゆえ心配いたすな〟等という、真偽のほども分からぬ大公の言葉を聞かされるだけであった。
クライシェスはこの一月あまり、主人である大公アーディンとは面会する事も出来ず、歯噛みする日々を送っていた。
主人と会えさえすれば、身を挺してでもことの理非直曲を説き、即時出陣を直訴するつもりであった。
こんな異常な状況の中、クライシェスは幾度か大公宮への強硬進入を計ろうとしたが、その度に機先を制し〝わが直臣であろうと、無暗に大公宮へ入ることは相ならん〟という大公からの言葉が告げられ、その度に思いとどまらざるを得なかった。
読んで下さった方皆様に感謝致します。
ありがとうございます。
応援、ブックマークよろしくお願いします。
ご意見・ご感想・批判お待ちしております。




