第二章 草原の戦い 4-6
互いの武具が交差した瞬間に気が昂まり、双方の肉体にも辺りの空気にも影響を及ぼしたウォーホーとオギィロスとの戦いとは違い、シュベルタ―とオリヴァーは対峙した時点で空間をも震わせていた。
何からなにまで対照的な二人だった。
いかにもトールンの名門貴族といった優雅な佇まいのオリヴァーに対して、シュベルタ―は纏っている甲冑からして一兵卒とまったく同じものだった。
なんの飾りもなく、むさ苦しい無精ひげを伸ばし飄々とそこに立っている。
「なぜいままで貴方のような方が、世に知られていなかったのか不思議だ」
「ふふん、俺はたかが田舎村の取るに足らねえ小郷士の三男だ。少しばかり腕が立つってだけの、一族の厄介者さ。幼馴染のヴィンロッドがたまたま出世しちまったんで、こうして一端の将軍さまとなったって訳だ。世に知られるもなにもねえよ、ただの田舎もんだよ」
「ご謙遜を、貴方から漂ってくる気はあそこでクルーズと睨み合っている、総大将殿に勝るとも劣るとは思えぬ。魔術師ヴィンロッドの陰には貴方がいたってことなのですね」
「はは、ガキの頃から役割分担がはっきりしていてな。やつが頭を使い俺は身体を使う、表の手柄や出世はすべて奴に任せて、俺は好きにやらせてもらう。だがな、互いに納得しねえことは譲らない、二人の時は上下関係もない。俺たちは友達なんだよ」
「それは羨ましいご関係だ。しかしこれからヴィンロッド殿がもっと出世されれば、そういう訳にもいかなくなるのではありませんか。その時はどうなさるお積もりか」
「なあに簡単なことだ。俺があいつを殺すか、あいつが俺を殺すか二つに一つさ。俺たちが離れることは金輪際ない、離れる時はどちらかが死ぬ時だけだ」
「益々羨ましい、切っても切れぬ絆ということですね」
「絆なんて難しい言葉は要らねえ、いまも言ったように俺たちは友達なんだよ」
「ではあなたの行動原理は〝友情〟ということになりますね」
「あんたら貴族は一々言葉がまどろっこしくていけねえ、そういうあんたはなんで動いている」
「わたしは〝義〟で動きます。義に生き、義に殉じて死すは武人の本望。美しく生き、美しく死ねれば思い残すこともない。自らに恥じることなく生きよ、そう子どもの頃から言われて育ちました。裏返せば〝美しく死ね〟という典型的な武人一族の教えです、しかしわたしはそういう生き方しか選べぬ。貴方のおっしゃる友情に死するというものにも、なんとなく惹かれる気もするが」
「いいねえ、あんたは見掛け通りに美しいお方だ。こんな俺が命の遣り取りの相手にするには勿体ねえくらいにな。だけど俺も負ける訳にはいかねえんでな、しっかりと命は頂くぜ」
「こちらもそれは同じことだ、この戦の〝義〟は当方にある。不義の者どもに敗ける訳にはゆかんのだ」
二人が睨み合う。
「われら二人もなん度打ち合っても簡単には決着はつくまい、ならばオギィロスたちのように一撃での勝負を致そうではないか」
「一瞬で死ぬか生きるかを決めるってんだな、面白れえなやろうじゃねえかい。なんの恨みもねえが、その美しい槍ともどもあんたを叩き折ってやるよ」
「わが義の戦いを見せて進ぜよう」
互いに間合いを推し量ることも、気を昂めることもなく突然二人はぶつかり合った。
〝ぐおぉーっ〟
シュベルタ―は槍を突き出すのではなく、大上段から相手の脳天に向かって渾身の力で叩きつけるように振り降ろす。
それをオリヴァーは手綱を離し、両手で槍を真一文字に構え受け止める。
「ぶち折れろーっ!」
シュベルタ―が雄叫びを挙げた。
〝がずうんっ〟
空気が震え、最前列で見ていた兵たちがその圧力で吹き飛ばされる。
最高の一撃を放ったシュベルタ―が、驚きの表情を浮かべた。
折れたのはオリヴァーの持つ〝ロッドゲヌス〟ではなく、自分の野太い鉄槍であった。
〝ずざっ〟
次の瞬間ロッドゲヌスの穂先がシュベルタ―の胸を深々と貫いた。
「へへ、やっぱり田舎鍛冶屋の槍じゃ無理だったか・・・」
口から血を吐き出しながら、シュベルタ―が呟いた。
〝どさり〟
シュベルタ―の身体がまるで人形のように地に落ちた。
〝よかった、これでお前を殺さずに済んだよヴィンロッド〟
それがシュベルタ―の心に、最期によぎった思いだった。
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