第二章 草原の戦い 1-3
ウェッディン家の当主は再び話しの輪の中に戻り、それまで通りに適当に相槌を打っている。
「なにをひそひそとお話しなさっていたのですか、まだ戦況をご心配になっているのでしょうか。しかしもう安心です、どう転んでもわが軍の勝利は動きますまい。アルファー殿もそう暗くならずに、みなと今後のことでも語り合いましょう」
アルファーはリネルガに促されて、家臣たちの集まる一画に加わる。
「アルファー殿はなにやら朝から心配ばかりなさっているようですな、もうじき宰相とも丞相ともなろうというお方がそれでは、戦勝気分が台無しですぞ」
それまであまり口を開かなかったロンゲルの腹違いの弟キリウスが、兄に似ず涼し気な顔立ちでアルファーの肩を叩く。
リネルガとほぼ同年齢の、爽やかな好青年である。
「ははは、わたしは根っからの心配性でして、いまも主から〝そんな顔ばかりして場が暗くなってしまう〟と叱責されていた所です。貴殿の兄上さまのロンゲル殿くらいに、肚が据わっておればいいのですが──」
家臣団の中から唯一、主たちの輪に混じっているロンゲルの方を見ながら、アルファーは山盛りの葡萄の房から一粒実を捥いで口に入れる。
その時、葡萄の房の回りに飛んでいる小蠅をさっと一匹捕まえて、掌に隠したのに気づいた者は一人もいなかった。
「なにを深刻そうに話しておられるのかと思ったら、ジョージイーさまに叱られておいでだったとは知りませんでした。主の身を思っているのに、家臣とはいつも損な役ですな」
ホワイティン男爵がおどけてみせる。
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