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第二章 草原の戦い 4-1



「わが殿がとうとう出陣されたようだな」

 騎士団正旗が挙がったのを見て、ザンガリオス六勇将のカルロが同僚のサムソニオに顔を向ける。


「殿らしい、兵の損耗を減らすために自ら出馬されたのだろう。出来ればわれらもご一緒したかったな」

 サムソニオがぼそりと呟く。


「そうだな、昔は嫌というほど無茶な戦に付き合わされたが、この頃はあのお方の戦う姿を見ておらん。側におるウォーホーたちが羨ましい」

 丘の上の帷幕を守護する将兵たちは、他人事のように激しい戦闘が始まった戦場を見降ろしている。


「おいカルロ、わがザンガリオス鉄血騎士団の旗が戦場に挙がったということは、バッフェロウ自らが出陣したのだな」

 カルロはいまさらながら決まり切ったことを聞いて来る当主ペーターセンの、青白い貴族顔をうんざりした気持ちで見返した。


「はい大殿、バッフェロウさまが敵将イアンの陣へ乗り込んだ模様です。じきに決着が着きましょう、勿論わが方の勝利は間違いありません」

「お聞きになったか方々、とうとうバッフェロウが自ら戦場に立ったようだ。こうなれば後はイアンの首がわれらの前に差し出されるのも時間の問題、やっとこんなむさくるしい場所から解放され星光宮へと入れますな」

 ペーターセンが満面の笑みを浮かべている。


 いままでヴィンロッドとワルキュリア兵の手柄話しのみであっただけに、やっと最後になって自分の家臣が動き出したことが嬉しくてたまらないらしい。


「やはり最後は〝サイレンの英雄〟が締め括ることになるのだな。さすがはバッフェロウだ、総大将としての器が一枚上だ」

 ヒューガンがバッフェロウを褒め称える。


「奴めにはどんな褒美をお与えになるのです。一方の将ヴィンロッドに参政権をお与えになるのであれば、彼にもそれ相応のものが必要でございましょう」

 謀臣ロンゲルが進言する。


「まずはサイレン元帥府の総指揮権を任せよう。そして国軍及びサイレンに属するすべての騎士団を動員することのできる大権を与えようと思う」

「そのような力を持つ役職は、どこにもございませんが・・・」

「なければ新たに造ればよいではないか」


「それに各領主が所有する騎士団は個人の持ち物、星光宮や宮廷といえど従わせることは出来ません」

「従わぬやつらは滅ぼせばよい、これからはサイレン家が国のすべてを支配する。彼の大国ヴァビロンの皇帝のようにな」


「はっ、御意のままに」

 ロンゲルが恭しく頭を下げる。


「それには近衛騎士団も含まれるのでしょうか」

 ワルキュリアの当主フライデイが尋ねる。


「いや、近衛騎士団はあくまで大公直轄の騎士団だ、例外である」

 きっぱりとヒューガンが言い切る。


「爵位を侯爵とし、それ相応の領地も持たせるつもりだ。此度の乱に加わりし馬鹿どもの領地を没収すれば、いくらでも土地は確保できる」

「バッフェロウもヴィンロッドも、爵位は侯爵に進ませるとして、扱いはどうされる。独立した家を持たせるのか、それともいままで通りに、両家の家臣として一族一門にお加えになるのか」


 ロンゲルが面白げな顔つきで、ペーターセンとフライデイに究極の問いをする。


「あくまでもバッフェロウはわが家臣だ、立場を一門に格上げしようとも手放すつもりはない。又あ奴自身、自分の家門を立てようなど夢にも思っておるまい」

 自信たっぷりにペーターセンが応える。


 それに対しフライデイは少し浮かない表情を見せている。

「ヴィンロッドが参政権を持つとなると、単なる一門扱いにも出来ぬ。かと言ってわが手から離してしまうわけにもいかぬ。ここはワルキュリアの家名を名乗らせ、一族として遇せねばならんだろうな」


「それは破格な扱いですな、単なる田舎貴族から大公家の一族になるとは。しかしあの切れ者のことだ、それくらいの処遇をせねば納得すまいな。あ奴は武人というよりも政治家ですからな、あまりに才が有り過ぎるのも頭痛の種となり痛し痒しだ。その点バッフェロウは根っからの武人、ある程度好きに戦をやらせておけば、それで満足しておるから気楽なものです」

 フライデイの悩みを他所に、ペーターセンはにこやかに笑っている。


 一同が談笑する一画の隅で、本来なら場の中心となってもいいはずの次期大公になるべきジョージイーは、居たたまれない気持ちでそれを聞いている。


 誰も彼を見向こうともしない。

 みなの歓心はヒューガン一人に注がれていた。


〝やはりアルファーの読みは当たっているようだ。このままわたしが大公に就任した所で、やがてはこやつ等に滅ぼされてしまう。なんとか致さねばわが身もウェッディン家も破滅だ〟

 この場に及んで、自分のしてしまったことに後悔の念を募らせている。


〝もしヴィンロッドからの甘い誘いに乗らず、弟フェリップの勧め通りに大公アーディンに陰謀を知らせ、宮廷と一丸となりこの叛逆者どもを叩いておれば、こんな大事にはならなかった。いっそのこと、次期大公の話しは辞退するというのはどうだろう。そうすればヒューガンもわたしを滅ぼそうなどとは考えぬのではなかろうか〟


 いつまでも戻らぬアルファーを待ちかねて、妙な思案をし始める。



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