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第二章 草原の戦い 3-8



「その姿から察すると、あんたはザンガリオス鉄血騎士団のウォーホーだろ。噂は聞いてる、強いんだってね」

「まあな、だが噂は信じないことだ。わたしはそのなん倍も強い」


「自信家だな、いままでもそんな奴をなん人も見て来た。いまじゃ誰一人この世には残っていないがな」

「お互い自分が一番強いと思っているようだな」

 ウォーホーの表情はあくまで平静そのものである。


「いいや、俺の腕はまだまだだ。だから今日まで一日として鍛錬を怠ったことがない、眠ってからでさえ夢の中で槍を振るってるくらいだ。それもこれもアームフェルに勝つための修練だった、だがあ奴はもうこの世にはおらぬ。俺の生き甲斐もここに終わった、これ以上強さを求めても、それを試せる相手がおらぬのでは張り合いがない」

 オギィロスが天を仰ぎながら嘆息する。


「アームフェルってのはそんなに強かったのか、あんたがそれほど哀しむほどに」

「強かったのか? ははは、俺など問題ではなかった、いままで十度以上挑んで一度も勝ったことがない。底が知れない懐の深さと、卓越した技量。人並み優れた膂力に俊敏さ、どれをとっても叶うやつなど誰もいやしない」


「・・・・・」

 あまりの誉め言葉の羅列に、ウォーホーは言葉が出ない。


「それにな、人格者で優しくて、寛容で男でも惚れちまいそうないい男で、それでいて笑顔が可愛くて・・・。そう、非の打ち所のないやつだったよ。やがてはサイレンの守護神になる男だった、それをお前たちは殺しちまったんだ。叛逆者の手先どもが国の宝を名誉も糞もない、矢の雨を降らせて一瞬にしてこの世から消しちまった。それだけでお前たちには死ぬ理由が十分にある、サイレンを守護する神が本当におられるのならば、俺に乗り移って叛徒どもに報復してくれるはずだ」


「それは貴殿の立場でのものの見方だ、われらにはわれらの義がある、戦とはそのようなものだ。確かなことはただ一つ、強い方が勝ち弱い者は破れ死んでゆくのみ。そして善悪は勝った方が歴史に記す、敗ければすべては無に帰するのみ。後世には負けた側が叛乱者として語り継がれることになる」


「だったらなおのこと、この戦は敗けられない。何故ならばわれらこそ真の愛国の士だからだ」

「これ以上の問答は無意味、われら武人はただ戦うのが本分。いざお手合わせ願おう」

 ウォーホーは真っ黒な、野太い鉄柱をゆらりと構える。


 刃も穂先も棘もなにもない、ただの一本の太い鉄の棒である。

 その鉄柱が徐々に仄赤く光り出す。

 鉄柱の周りの空間が陽炎のようにゆらめき、まるで蛇のようにまとわり始めた。


「まさか、ヘラクリウス神刀か──」

「太刀ばかりがヘラクリウスではないのだぞ、この金剛神柱・ジ―クシードは〝四代真赫〟が戯れに鍛えた逸品だ、世に二本とない」

 ウォーホーが馬上で赤く光る、ジ―クシードを横一文字に構える。


「相手にとって不足はねえ、俺のロッドゲヌスも〝神匠ロードガイザー〟がこの世に残した二十四振りの中の一本だ。けっして劣りはしない」


 その時、辺り一面に空間が歪むほどの衝撃が走った。

 いよいよオリヴァーとシュベルタ―の戦いが始まったようである。


「さあ、こっちも負けずに派手にやろうかい」

 ロッドゲヌスを右脇に手挟み、基本通りの攻撃態勢でオギィロスが突進する。


 突き出される槍先を、ウォーホーが右上段に構えた鉄柱を降り降ろし、力任せにへし折ろうとする。

 オギィロスは瞬時に槍を引いてその攻撃を躱す。


 一進一退の攻防が始まった。

 そうした将軍たちの一騎打ちを固唾を飲んで見守る叛乱軍に、いきなりざわめきが巻き起こった。

 将兵たちが、まるで波が引くように左右に分かれる。


「この辺で最後の片を付ける、いざイアン殿に大将同士の一騎打ちを所望する」

 満を持して叛乱上洛軍の総大将、バッフェロウ・ド=サッカルズが堂々たる風格で馬上から(おめ)き放った。



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