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第二章 草原の戦い 3-6



「おい、みな手を引け。お前たちでかなう相手ではない、命を粗末にするな」

 自分の甲冑と同じく白地に金で美々しく飾った愛馬をうたせて、オリヴァーが姿を現した。


 手にしている槍も同じく白柄に金で象嵌がされている、なんとも雅な(しつら)えである。


「そいつが〝冥槍リムゲイル〟かい。名前に似合わず綺麗な槍だな」

「お褒めに預かり痛み入る。貴殿の得物も中々の業物のようですが」


「あーっはっは、俺の槍は無銘だ。俺は大層な名匠が鍛えた名のある物なんかにゃ興味がなくてな。こいつは俺の郷の鍛冶屋のオラン親父に造らせたもんだ、だが中々てえしたもんだぜ。ガキの頃から知ってる俺のために、他の仕事をほっぽらかして、三月も掛けて鍛えに鍛えて造ってくれたんだ。そんじょそこらの名槍だなんだのにゃ引けは取らねえ。飾りなんざ一切付いてねえけどよ、親父の名前だけは彫ってもらったよ」


 本人のいう通りに、地の黒鉄そのままで装飾らしきものは皆無の槍であった。

 通常の槍より三周りは太い豪槍だ。


 柄の先端に小さく申し訳程度に〝ORAN〟と下手な字で鍛冶屋の名が刻まれている。


「あんたのその宝石のような槍を、こんな無粋なもんでへし折っちゃ気の毒な気がするな。だが命の遣り取りをしようってんだからしょうがねえよな、勘弁しろよ」

 本当にすまなそうな顔をする。


「お気遣いは結構、遠慮なく折って下さい。ただし折れるものならばですが」

 オリヴァーの目に光が宿る。


 言葉遣いは丁寧だが、身体全体からは凄まじい闘気が放たれている。

「なんと怖い目じゃねえか、怒ったのかい。そう来なくっちゃ、生きるか死ぬかの瀬戸際だ、涼しい顔をされてたんじゃ気分が出ねえ」


「あなたこそ、そんなに飄々としているではないですか。白亜のオリヴァーを相手にするのだから、もう少し必死になってもらわねばね困りますね」


「そいつぁ済まなかったな、これでどうだい」

 表情こそ変わらないが、シュベルタ―の身体から圧倒的な熱量を持った気がオリヴァーに向かって押し寄せて来る。


 その圧力を、冷気にも似たオリヴァーの気が押し返す。


〝!〟


 空気が震えたような衝撃が辺りに飛び散る。


「普段鍬や鎌を造ってる鍛冶屋の槍ごときで、これが折れるものかって思ってるんだろ?」

「・・・・・」

 オリヴァーはなにも応えない。


「それがねえ──、折れるんだよ」

 相手の方に顔を突き出し、こそこそ話しでもするようににっこりと嗤う。


「なあ、試してみるかい」

 ぶっきらぼうに言う。


「そんな真似が出来るのなら、ぜひわたしも見てみたい。このリムゲイルで試してみましょう」

 クライシェン家に百五十年近く前から伝わる伝家の名槍リムゲイルは、槍の鍛造に掛けては大陸一とも言われている、太天位の称号を持つ名匠〝初代リュッテンバーデン・ボゥ〟の最高傑作といわれ、妖気さえ漂うその姿から〝冥槍〟の異名までついている大業物であった。


「太天位の槍と田舎鍛冶屋の槍、どっちが凄えか試そうぜ」

「もう言葉はこの位でいいでしょう、さっさと掛かって来なさい」

「はいよ」


 シュベルタ―がゆっくりと馬を歩かせる。



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