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第二章 草原の戦い 3-5



「大将、お先に失礼します!」

 ヴォンは脇目もふらず、一直線にゼットラム目掛けて突き進む。


「返り討ちにして進ぜよう」

 ゼットラムが迎え撃つ。


 駆け抜けざまに互いに槍を繰り出すが、どちらの穂先も相手を捉えることは出来ない。

 駈けあうこと数度、それでも互いの技量が接近しているのか勝負が付かない。


「腕を上げられたなヴォン殿」

「なあに、これが俺の真の力だ。二年前は慢心して油断しておっただけだ、貴殿こそやはり強いな。出来れば他国の敵を相手に共に戦いたかったが、こういう仕儀となったからには仕方がない。ともに恨みは残すまいぞ」


「それはこちらも同じだ、一緒に酒でも酌み交わしたかったがそれも叶わん。これが武人というものの生き様だ、覚悟はしておる」

 その後もなん度も打ち合うが、なかなか決着はつかなかった。


「じゃあ俺も行かせてもらおうか」

 馬腹を軽く蹴り、シュベルタ―がのったりとオリヴァーに近づいて行く。


 第一大隊の兵たちが立ち塞がり、馬上の敵将目がけ槍を突き出す。

 シュベルタ―はそれをあっさりと、まるで眼前の羽虫でも払うように薙ぎ倒して行く。


「おいおい、無駄に兵を死なせるんじゃねえよ。あんたと俺で遣り合おうや、兵を退かせな」

 尤もな相手の言葉に、オリヴァーがぐいと手綱を引き絞った。


「オリヴァー、お前が出るのか──」

 背後から声がした。

 トールン軍総大将のイアンであった。


 当初から面頬で顔を覆っているため、表情までは確かめようがないが、どこか不安な声音であった。


「任せておけ、勝って戻って来る。貴方は最後までここを動かぬように。戦場にこの大騎士団旗が翻っている限り、わが将兵は希望を捨てずに戦い続けられる。貴方はトールン軍の象徴だ軽々しく動いてはならんぞ。クルーズ必ずお守りするのだぞ、では行って参る」

 オリヴァーは振り返ってそう伝えると、兜の面頬を降ろした。


「俺が付いてる限り、この方には誰も手出しはさせん。ご安心くだされオリヴァー殿」

 聖龍騎士団旗本隊隊長のクルーズが力強く頷く。



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