第二章 草原の戦い 3-3
「恐れるな、相手も同じ人間だ槍で突けば傷つき、矢を受ければ斃れる。囲んで一斉に討ち取れ」
指揮官が必死に兵たちを鼓舞する。
イアンの首を狙う諸隊が波状攻撃を仕掛けるが、その周りで守護するように居並ぶ将軍たちに阻まれ、一向に敵総大将には近づけない。
「イアン殿の首を貰いに来た、臆病者でなければ俺と勝負しろ」
気負った風もなく、ふらりと一騎の武者が進み出た。
続いていかにも豪傑と云った面構えの三騎が、付き従うように現れる。
「イアンさまの首を貰うだと、虚勢を張るのも大概にしろ。お前らなどこの第二大隊副指令のエンデラスで十分だ」
二本の槍を両脇に構え、手放しに馬を走らせるとそのまま中央の武者に迫る。
左手の槍を投げつけると、それを身を捩って躱す相手の胴を狙い右手の槍を突き出す。
〝どむっ〟
槍に胴を貫かれ、高々と持ち上げられたのはエンデラスの方であった。
「なんだよ、聖龍騎士団てえのはこんなもんか」
顔色一つ変えずに武者が云う。
〝ぶうぅん〟
槍を軽々と一降りすると、エンデラスの身体がくるくると舞い地上に落下した。
あまりの呆気なさに、その場が一瞬で凍り付く。
周りで乱戦が続く中、イアンのいるこの辺りだけには、再び奇妙な静寂が流れる。
「貴殿の名を聞こう」
白地に金を配った雅な甲冑を纏った、端正な顔立ちの騎馬武者がゆっくりと馬を歩ませて来る。
「人の名前を聞きたきゃ、まずは自分が名乗るもんだろ」
「ははっ、それはもっとも。わたしは聖龍騎士団副将、第一大隊を預かるオリヴァーだ」
有名な武門貴族オリヴァー・ツゥーヴ=クライシェンが、なんの外連味も見せず静かに名乗った。
「あんたが〝白亜のオリヴァー〟かい、俺はワルキュリア鉄血騎士団のシュベルタ―というもんだ。悪いがあんたを斃してイアン殿の首を貰うことにしてる、うちの主ヴィンロッドの出世のためにな」
「ほおう、貴殿が噂に高い〝雷神シュベルタ―〟殿か。さすがにいまは酒は飲んでおられぬようだな酔虎将軍」
「なに、ついさっきまで浴びるほど飲んだ。もう腹一杯で少し腹ごなしをしようと思って出張って来たのさ」
威嚇や虚勢がまったく感じられない、飄々とした口調である。
「酒に酔って戦場に立たれるとは、いやはや呆れるというか感心するというか。貴殿をどう評価していいのかちと困りますな」
オリヴァーが困惑した表情で、シュベルタ―を凝視する。
「どうとでも勝手にすりゃいい、俺は俺だしあんたはあんただ。おっと、ちょっと待ってくれ小便が出そうだ」
そういうと馬から降りて、その場で立小便を始める。
ジャージャーと湯気を立てて大量の尿を放出し始めた姿を見て、両陣営のすべての将兵が度肝を抜かれて口を大きく開けたまま固まっている。
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