第二章 草原の戦い 3-1
のちに『トールン大乱』と呼ばれる事となる一年弱の一連の騒動の、最大の決戦がいままさに始まろうとしていた。
戦場に「ザンガリオス鉄血騎士団正旗」が夕風に煽られて、ゆらゆらと霹めいている。
それは叛乱上洛軍総大将のバッフェロウ・ド=サッカルズが腰を上げ、出陣したことを意味する。
まるで巨像が悠々と歩を進めるように、ゆっくりとだが確実にトールン守護軍は撃破されていった。
当初攻め掛かっていたのはトールン軍だったのだが、いまや攻守は入れ替わり叛乱上洛軍が反対に追い詰めつつあった。
各所で乱戦状態だった序盤だが、バッフェロウの出馬により状況は変わった
ゆっくりと進む本軍に各隊が吸収されてゆき、巨大な塊となって行く。
それを受け、ただでせさえ人数の少ないトールン軍もイアンの回りに兵力を集中し始めた。
そしてイアン率いる守護軍本隊の前に、とうとうバッフェロウの本軍が現れた。
両軍が真正面から対峙する姿は、まるで巨像と手負いの獅子が睨み合っているかのようである。
「長年に渡ってサイレンを守護して来た聖龍騎士団もこれにて最期だ、罪なき将兵の命を惜しまれるならば、いますぐに武装解除の上降伏されよ。さすれば主だった者以外の命は保証する、あと十小刻待とう」
ザンガリオス六勇将の一人、レリウスが馬を一歩進め大声で降伏の勧告をする。
それを聞いた守備軍から、人一倍大柄な身体の騎馬武者が現れた。
「なにを寝呆けたことを言われる、われらはサイレン公国正規軍なり。降伏するのはおのれら叛乱軍の方だ、自らの非を悔いて首謀者たちの首を手に、頭を下げて来るのならば将兵の命は助ける。逆に十小刻与えるゆえ、ヒューガンはじめ叛逆を企てし者の首を持って来い」
聖龍騎士団第二大隊指令の、ボロシウス子爵が大音声で返す。
「なにを小憎らしき奴、あくまで抗うのならば手始めに貴様の首を頂戴してくれる。われはザンガリオス鉄血騎士団総騎士長バッフェロウが家臣レリウスなり、打ち合う気概があれば掛かって参られよ」
そういって馬を前進させる。
「おれは聖龍騎士団第二大隊指令ボロシウスだ、この俺を相手に一騎打ちとは片腹痛い。十字槍の錆にしてやろう」
そう言うより早く、一気に馬を奔らせる。
「飾り立てるだけしか能のないトールンの都武者が大口を叩きおって、わが戦薙刀で胴を真っ二つにしてくれる」
両陣見守る中、馬上の一騎打ちが始まった。
すれ違いざまに両者が得物を繰り出す。
〝斬ッ〟
その瞬間血飛沫が吹き上がり、ボロシウスの十字槍に架かりレリウスの首が刎ね落ちた。
〝轟ぅ!〟
両陣営からどよめきが起こった。
〝吧ッ〟
「レリウスの仇はこのフロイが討つ」
すかさず巨大な星球式鎚矛を振り被った六勇将のフロイが、駈け入りざまに踊り掛かる。
〝ガキン〟
恐ろしげな棘を生やした星球を受け止めた十字槍が、いとも簡単に折れてしまった。
間髪入れず襲い来る鎚矛をなんとか避けながら、ボロシウスは腰の剣を抜いた。
しかし鎚矛の重量感には抗すべくもなく、容易く跳ね飛ばされていまう。
横殴りに繰り出された星球がこめかみを吹き飛ばしたかと思われた刹那、通常の二回りは大きい両刃斧が残忍な星球を弾き返していた。
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