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第二章 草原の戦い 2-5




 最後の決戦が始まってもうじき一刻が経とうとしていた。


 凄まじいサイレン守護軍の猛攻を凌いだ叛乱上洛軍は、徐々に攻勢に出始めた。

 さすがに四倍以上の兵力差は如何ともし難く、イアンはじめ聖龍騎士団は各所で崩壊し始めた。


「おい兄者、あれは第三大隊を壊滅させた長弓隊とか言うやつじゃないか」

 シミュロン城主エルミド・ディル=アルフェロス子爵が、兄オズワルドに耳打ちする。


「どれどれ、あれがアームフェルと第三大隊を一瞬で射殺した奴らか。確かに妙な形状の弓だな」

「この様子じゃ、今度はイアン殿を狙っていそうだぞ。ほっときゃわが軍は総大将をやられちまってそれでお終いになっちまう。一丁俺たちであの長弓隊をなんとかしようじゃねえか」


 弟の言葉に、兄カーベル城主オズワルド・ディル=アルフェロス伯爵がにやりと笑う。


「やるか? エルミド──」

「へへへ、さすがは兄者だ。そう来なくっちゃ」

 その会話を聞いていたトールン守備騎士隊大隊長の、セルジオラス・デオール=イギュロン子爵が喰い付いて来た。


「わたしも一枚混ぜてくれないか。アームフェル殿とは親しくさせてもらっていた、敵を討ちたい」

「よし、これからあいつら目がけて突っ込む。一本の矢もイアンには射させねえ、俺たちの死に花を咲かすのはここだ、ぐずぐずしてたらイアンがやられちまう。いますぐ突撃するぞ」


 三人を先頭に、二千の兵が怒涛の勢いで無理やり敵陣へ突っ込んで行く。

 厚い敵の守りの中ひたすら前進する彼らの目の前に、やっと長弓隊が見えて来た。


「標的はもうすぐだ、ここで退がれば元の木阿弥だ。後ろを振り向かず前進のみだ、われらがイアン殿を守るのだ」

 先頭で味方を鼓舞するエルミドの胸に、一本の矢が突き立った。


「エルミド、大丈夫か!」

 駆け寄ろうとする兄を、エルミドは手を突き出して押し留めた。


「俺に構うな兄者、先に進め。勢いを緩めたらそれで終わりだ、一旦止まったらもう反撃はできぬ。遮二無二突っ込み目的を果たせ。俺は大丈夫だ、後でまた会おう」

 叫ぶ弟の声に従い、オズワルドはそのまま前進する。


「死ぬなよエルミド。先に行く、必ず後から付いて来い」

 矢を受けながらも左右の敵へ槍を繰り出すエルミドに、敵兵が山のように襲い掛かる。


〝さらばだ兄者、あの世で会おう・・・〟

 突き出される槍を受け、馬から転げ落ちたエルミド目がけ、四方八方から敵が突き掛けて来る。


「シミュロン城主エルミド子爵討ち取ったーっ」

 前進するオズワルドの背後から歓声が上がった。


「待っておれ、俺もすぐに行くぞエルミド・・・」

 弟の死を聞きながら、オズワルドは目の前に立ち塞がる敵兵を槍で蹴散らして行く。


 玄象騎士隊という存在を無くしてしまった「テンペルス長弓隊」は、片腕を捥がれた兵士と同じだった。

 決死の覚悟のない味方兵では、最後まで長弓隊を守り抜く力はなかった。


 そもそも長弓隊を守ることに、どれほどの価値があるのかさえ分かっていなかったのである。


 死兵となってなだれ込んでくる敵の勢いに、守備陣形が次々に破られる。

 死を恐れぬ敵に怖気づき、自ら道を譲るものまで出てくる始末であった。


「とどいた、標的に手が届いたぞ。アームフェルと第三大隊の仇だ、皆殺しにしろ」

 トールン防衛騎士隊大隊長セルジオラスの声が、高らかに戦場に轟き渡った。


 目の前に、イアンとその旗本隊に照準を定めようとする射手たちが、無防備に並んでいる。

 弓隊の一団に騎馬兵を中心とした決死の兵が突入したのだ、勝負は端っから分かり切っていた。


 接近戦では弓はほとんど効力を持たない、そこには一方的な殺戮が展開されるだけだった。

 隊長テンペルスを始めとした長弓隊五百名は、瞬く間に地上から消滅した。


「退け、われらの目的は果たした。ここにはもう用はない本隊と合流するんだ、一兵でも多く帰還しろ。抗戦するな、ただ本隊まで帰ることのみ考えろ」

 オズワルドの指示が飛ぶ。


 一気に駈け去って行く一団を前に呆気に取られた敵は、突っ立ったまま見ている。

「なにをしておるのだ、さっさと追撃せんか」

 指揮官が怒鳴り声をあげた頃には、敵の姿はあらかた去ってしまった後であった。


 一部でこういった痛快な勝利はあったものの、全体としては劣勢なことに変わりはなかった。




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