第二章 草原の戦い 2-2
「ヒューガンさまがトールン宮廷内での権力を、一手に掌握してしまわれればどうにでもなる。聖龍騎士団は今日で壊滅、バロウズ、殉国両騎士団もやがて追討されてしまうとなれば、軍権はすべて彼らの思うがまま。サイレン六名家(すでに五名家となっている)も一族もろとも断絶させられてしまい、サイレン家に対抗しうる勢力はもうどこにも存在しなくなる。あとはヒューガンさまの独裁となってしまうだろう」
「それではサイレン建国以来の、大公家と宮廷、貴族団との合議での政という伝統は消滅してしまうのか」
信じられない話しを聞いて、ミュールヘムは相当な衝撃を受けているようである。
「ああ、サイレン家による専制君主の国となる。すでにザンガリオス、ワルキュリア両家のサイレン宗家への復帰も決定済みだとのことだ。これからは、サイレン家のみで政を動かすつもりらしい」
「ならばわがウェッディン家も大公家の一員として、政の中心となるはずではないか。しかも新大公はジョージイーさまだ、それがどうして争いなどになるというのだ」
「殿の予想では、次にヒューガンさまが狙うのはウェッディン家になるだろうと考えられている。あの傲慢な方が望むのはサイレン家に権力を集約させることではなく、カーラム家のみの独裁なのだ。だから邪魔なウェッディン家を滅ぼし、復帰した二家に忠誠を誓わせ、カーラム・サイレン家を永続的な唯一の大公宗家にしてしまう積もりだろうと」
唖然として、ミュールヘムは言葉も出せずにいた。
「だから殿は犬狼騎士団の力を少しでも減らしたくないとお考えなのだ。それにいま敵として戦っている者たちを一人でも多く助けやがては手を組み、ジョージイーさまが大公でおられる内に、近衛騎士団という虎の子を味方に付けて、ヒューガンさまと対決なさるおつもりらしい。いままで通りの合議制を維持したいと殿は希望しておられる」
「そこまでお考えなのか──」
「ああ、読み通りであれば、早ければ半年以内にその時は来るかもしれん、だから兵を大事にしたい。いまは敵である相手の兵もなるべく損なうことなく、戦場から逃がしたいのだ」
「ううむ、分かった俺も兵たちへの指揮の仕方を改めよう、他の騎士団に気付かれぬ程度にな。腰抜けだ弱兵だと侮られようとも気にするまい。いま聞いた陰謀が本当であれば、そのような者たちに政を好きにはさせられん。すべては来るべきサイレンの明日のためだ」
ミュールヘムとカーゾフは、黙って互いの目を見て頷き合った。
そこへ伝令が駆けつけ、本陣ヴィンロッドからの言葉が伝えられる。
「お味方の諸将に申し上げる、いよいよ敵本隊の聖龍騎士団総司令イアンが戦場に出て参った。イアンを討ち取れば今日の戦はそれで終わる。ほかの将兵など構わずに、総大将イアンのみを的にしてうち掛かられるように。本日の一番手柄はイアンの首を取った隊である。爵位も土地も財宝も褒章は思うがままでござるぞ」
というものであった。
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