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第58話「それは悪魔の後悔 13」

アオ:もっと早く気づいていれば。こうならなかった。


 前回のあらすじ。一人の悪魔が誕生する前の平和な日々が、ついに終わる。


 建国祭が始まって、ようやく来た最終日。それはつまり、私とロトが曰くデートする日らしい。


「と、言いたいんだがな」


 目の前に広がる人に物。王の前に並ぶ者たちが持つ献上品の数々。それは私が三年前までなら触れるどころか見ることも知ることも叶わない豪華な贈り物たちだ。宝石はもちろん、希少な魔法に関する本。実用性のあまりない装飾の多い武器や防具。ほかは女性関係の化粧品とか色々。


 聞いたらわかるだろう。検品する物の数が。これ、全部私が見ないといけないらしい。


「地獄だ……」

「すまない、クロード。私もこんなに来るとは思っていなかった」


 最終日になれば少しは楽になると考えていた時期もあったが、まさかこんなにも献上品を持って陛下に直々に謁見する人が多いなんて。誤算だ。私もロトも完全に見誤った。


「はは、これは……夜行けるのかも怪しいな」


 ****


 綿密な下準備を重ねてきた。感づかれないように、派手な動きで陽動して、本当の狙いを隠し続け、悪意を持ち込む者は嗤う。

 全ては今日この日、このタイミングで全てを潰すために。


「アーク侯爵殿、久しいな。息災か?」

「はい陛下。この度は建国祭を無事に開催できたこと、この国の民として喜び申し上げます」

「よい、そなたの娘御たちも息災そうで何よりじゃ」

「ふふ、この度はおめでとうございます。陛下」

「おめでとうございます」


 和やかな雰囲気で進む謁見。大勢の人間が謁見するとはいえ、最終日とも慣れば祭りに雰囲気に流されのんびりした空気が漂うらしく、どの人間も穏やかな顔をしていた。

 そのせいか、いつもなら居る近衛騎士であるアオ・クロードも多く積まれた献上品の検品で外していた。代わりに立つのは副団長であるロト・エンドウだ。


 これが、悪意を持ち込む者にとって最大の好機となる。


「陛下に献上したきものをお持ちしました。どうぞ、お収めください」


 アーク侯爵家の当主が取り出したもの。それは黄金のように輝く子どもの拳ほどの大きさである黄色の宝石。スファレライトだった。


「見事な宝石だな」

「ええ、しかしそれだけではありません。この宝石、実は魔石となっております」

「この大きさの魔石だと? それは」


 魔石といえば、小指の爪ほどの大きさでも非常に高価な代物だ。なにせ絶対量が少なく、その魔石が必ずしも効果があるとは限らない。使える魔石は億単位でも可能性がある。


「調べさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「無論だ」


 ロトが魔石に触れるが、輝くばかりで他に効果はないように見える。強い効果があるわけでもないから献上品として持ってきたのだろう。ロトがじっくりと触れ、危険がないものとわかるとそれを王の前に持っていった。


「素晴らしいな。魔石ではなくともとても良い代物だ」

「ありがたきお言葉」


 さすがはアーク侯爵だと素直に感心するロトは、その宝石を眺めていたが、その黄色の輝きとは別物の輝きに頭を捻る。どこかで感じたことがある魔力だった。


(あれ? なんか、俺同じようなものを見なかったか? 何だっけな)


 悩む中、ようやくそれがわかったのは王がその宝石に触れたときだった。

 手のひらに簡単に収まる程度の魔石と、何ヶ月前かに見た水晶を使った使い道のわからない魔道具がロトの頭の中で結びついたその瞬間、王都を包む古代魔術がどす黒い光を放って起動した。


 ****


 ずっと引っかかっていることが一つある。それはあの女、カルミアが国を奪うだの何だのと言っていたあの言葉だ。

 睡眠時間を削ってまで調査してみたが、あの新人の兵士ぐらいしか、物的な証拠がない。それだけの証拠じゃただの令嬢のお遊びか、冗談ぐらいにしか思えないだろう。そもそもはぐらかされるだろうし。


「いやぁ、しかしほんとすごい種類だなぁ」


 もう何個宝石に触ったかわからん。こうも多いとただの石に見えてくるのだから不思議だ。何個かは魔石も紛れているが、特に強い高価は持ってないようだし、悪意もない。


「宝石……そういえば、あの魔道具……何個かなくなったんだよなぁ」


 魔石を見て思い出したあの意図不明な魔導石。魔石は周囲の魔素を取り込んでできた自然の石。数も少ないから高価な代物だが、周りの魔素によって変わるので効果がどうなるかわからない。対して魔道具となったあの水晶自体は高価なものでもない上、自然的な魔素を取り込むのではなく、術者の考えた術式を必要数の魔素とともに取り込むもので価値は低い。


「だからといってポンポン送れるほど安くもない……」


 奇妙だ。しかも効果自体もそう陳腐なもので、魔力を取り込むだけ。人工的な魔石を作ろうとしたのだろうか? でも盗まれてるし……。


「――ん?」


 魔石は周囲の魔素を取り込むことで魔道具として扱われる宝石よりも、石に込められた効果が高くなることが多い。そしてもう一つ、魔道具が宝石だと便利な点がある。


「まて……」


 同一種の石でなくとも、石というカテゴリーにあれば魔道具は魔石の効果をそのままコピーし発動することがある。

 すなわち、共鳴だ。


 そしてそれは、魔道具に内蔵された魔力量で効果の範囲は変わる。


「王族が手に入れればいいってあの女、言っていたよな」


 眼の前に転がる魔石。小指の爪ほどもないような小さな宝石たちが怪しく輝く。


『おい聞いたか? アーク侯爵が持ってきた魔石。こぶし大ぐらいあるらしいぞ』

『え、まじで? でもそんな大きさじゃ効果は薄いんじゃ』


 その時外から聞こえた話し声が疑念を確証へと変えた。ここで聞こえた嫌な名前に、祭りの熱気に浮かれていた私の頭に冷水がかけらる思いになる。


「! まさか!!」


 走り出す私に部下の驚きの声が聞こえたが、そんなのどうでもいい! もし、もし正しければ、すでにあの女は王手をかけているところのはず。


「なんで気づかなかった!!」


 あの魔導石を捨てるのをためらい、保管してしまった。あれは周囲の魔力を取り込み、いずれくる「その時」に備えていたんだ! なくなった魔道具たちは保管場所にある他の石が捨てられてもいいようにするための保険だった!


「ムーブ!!」


 全速力で水魔法を展開し、移動する。謁見の間までかなりの距離があることを心の底から憎んだ。それ以上に、自分の中にあるもうひとつの魔法、身体強化魔法を上手く扱えないところが、本気で嫌だった。使えたら、もっと早く移動できたのに。


 あまりにも気づくのが遅かったのだ。あの話を聞いた私ですら、あの話を冗談として心の何処かで捉えてしまっていた。


「まにあ……――っ!」


 そして考える限り最悪な方面へと事態は動き出す。どす黒い光を放ちながら古代魔術が展開された。


 ****


「ふふ、うふふふ、あはは、アーハッハッハッハ!!」


 ああ、なんておかしいのでしょう。なんて間抜けなのでしょう。今更になって意図に気づくなど、思っていた以上にこの国の人間は危機管理意識がたりていない。ぬるま湯につかりすぎた。


 だから、奪えた。


「な、なにが……ガッ……!!」

「ぐ、グルジィ……イダイ……アアアアアアア!!!」

「イヤダ……ジニダグナイ……っ! ジニダグナイ!!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図。穴という穴か吹き出す血が、王城を赤く染め上げる。祭りのときとは違う熱気がなんともいえないほど、心地良い。


「ふふふ、痛い? 苦しい? ねぇ、お父様。痛いかしら?」

「ガ、ガルミ”ア……なぜ……」

「なぜ? なぜって」


 血涙を吹き出し、白い泡を口元に吹き出させるお父様。なぜ、こんなことをしたのか。なぜ、殺そうとするのか。そう聞きたいのでしょう。


 嗚呼、嗚呼、なんて……。


「なんて、馬鹿なのでしょう!!」

「ッ……」

「なぜ? そんなの決まっているのでしょう? わたくしを蔑ろにしたからですわ!」


 いつもそう、姉様のほうにばっか目をやっていた。あんな無能に、わたくしは負けたのだ。ないがしろにしたのだこの男は。


「わたくしのほうが優秀なのに! 次女というだけで当主の座を姉に譲ろうとする! 間違っている、間違っている!!! 間違えたから、正しただけですわ!!!」

「か、カル」

「だからね、お父様。わたくし、全てひっくり返そうと思ったの。だって殿下はわたくしの方を見てくれないから。殿下がわたくしを見初めて王妃にしてくださればこんな真似をする必要もなかったのよ?」


 驚愕したお父様にわたくしは丁寧に教えてあげる。大人しく優秀で誰よりも美しいわたくしを当主にしていれば、殿下がわたくしを見初めていれば誰も死ぬことはなかった。


「わたくし、何も間違ってなくてよ?」

「……」

「あら? お父様? ……ああ、死んだのね」


 恐怖を貼り付けたまま醜く死んだそれはただの肉塊だった。


「さようなら、お父様」


 その命、わたくしが有効活用して差し上げますわ。



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