第57話「それは悪魔の後悔 12」
アオ:つかの間の平穏を楽しむつもりだった。ロトと一緒にいたい。
ロト:つかの間でも平穏を与えたかった。アオのそばにいる。
前回のあらすじ。王都祭に行く約束をしたアオとロト。つまりデートです。
花火の音が鳴り響き、歓声が沸き上がった。
「今日この日、この祭りを迎えられたことを嬉しく思う。我が国ブレンスノーブル建国祭を始める! 皆大いに賑い、楽しんでくれ!」
国王の言葉に歓声は熱を帯び、花弁が散った。それはまさに祭りの始まりに相応しい光景だった。
「はぁ、ようやくここまで来たか。準備に酷く手間取った」
「お疲れさん、アオ。まぁここまでくればあとひと踏ん張りだろ?」
「そのひと踏ん張りが一苦労なんだがな」
地方からくる貴族たちの対応がここから山積みだし、明日には周辺諸国の来賓の応対もある。王族というのはそこにいるだけで多くの人を引き寄せるからその分よからぬ輩も引き寄せやすい。
特に、
「レオン殿下、ご機嫌麗しゅうございます。今日のお召し物もとてもお似合いですわ」
「レオン殿下? 喉は渇いていませんか? 今日わたくしの領地にある果樹園から作った果実水がありますの。いかがかしら」
「レオン殿下、お食事などは」
「レオン殿下」
これだ。この令嬢たちの必死なアピールによる行動がどれだけ私を苦しませるか。たしかに、レオン殿下は結婚適齢期。そのうえ眉目秀麗の完璧王子。モテるなという方が難しいだろう。
「だからといって、勝手な行動は許されんな。ロト」
「はいよ、お任せあれ」
だがそれら全てが許されるわけがない。許されるなら近衛騎士である私はいない。危険は事前に全て弾く。
というわけでもう分かるだろう。このあとの方が一苦労だと言ったその意味が。もう本当に嫌になるほど忙しすぎる。
「せめて少しぐらいは休みたい」
まぁでも、最終日ぐらいはゆっくりできるかもしれないな。そう思うと、自然と口元がほころんだ。
――気が抜けていたのかもしれない。忘れたかったのかもしれない。だから気づかなかった。
終わりが直ぐ側まで来ていることに。
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祭りは熱意をさらに帯びて賑やかさを増す。それに当てられるように令嬢たちによるキャットファイトも更に過激さを増していくのを俺は見届けた。
「とめ、ないのか? エンドウ。髪を引っ張り合おうとするものが一部居るが……」
「冗談好してくださいよ殿下。俺があれを止められるわけ無いでしょ。触らぬ神に祟りなし、ですよ」
笑みを浮かべたまま絶対零度の氷の瞳を宿す令嬢に、止まらぬ毒撃を口から放つ令嬢。怒りに燃え、炎を背負う令嬢。それはそれは賑やかな光景だ。俺は絶対に近寄らん。
しかし般若顔負け、地獄の鬼人のような姿をする令嬢たちの顔を見て確信することがある。
「やっぱりアオが一番だな。うんうん」
「あの光景を見てクロードと比べるな。怒るぞ、クロードが」
「アオはこれぐらいでは怒りませんよ。呆れるだけです」
それにアオが怒ったらあれ程度で済むわけがない。絶対零度を超えた目で俺を見下ろし、静かなほほ笑みを浮かべて怒り狂うのだ。俺はそれを見て二度とアオを怒らせないと誓っている。
「心臓に悪い……」
「なにかしたんだな……。しかし、祭りの間は王族の護衛なのだろう? せっかくの祭りなのにいいのか?」
「良くないですが? ですが仕事ですからね。近衛の団長、副団長が殿下たちをお守りしていないのはまずいでしょう。対外的にも不測の事態に対応する面でも」
本当はアオと今すぐ祭りを回りながらイチャイチャしたいに決まっている。というか騎士の仕事だって辞めてほしい。全然会えないし危ないし、何より今の仕事はアオにとって思うところがあるのか、元気がなくなる。
でもアオってば言う事聞いてくれねぇしなぁ。
「頑固なアオも可愛いけどなふへへへ」
「……」
「と、すいません殿下。無駄話が過ぎました。真面目に働きます」
「いや……、私は別にいいのだけれども……ふむ」
殿下が突然考え込むように顎をさする。それだけで絵になるような美男子だが、なんだ突然?
「エンドウ、お前は確か東方の血が入っているのだよな?」
「はい、そうですが」
「どうやら2日目に東方の国から行商人が来るらしい」
! 東方、俺のジジイの祖国。まさかこんな遠い西方の国まで行商人が来るとは。商人魂がたくましいな。ここまで来るには山岳地帯を抜けないといけないのだが。
「その行商人たちが持ってくるもので、何やら珍しい装飾具があるらしい。何だったか……たしか、簪って言ったかな? 女性用の髪飾りだと」
「……!」
「クロードの髪は長いがまとめずあのままだろ? まとめてもひとつ結びで紐も洒落たものではない。花盛りの女性として非常に味気ないだろう。本人は気にしてなさそうだが」
殿下の言う通り、アオの髪は腰ほどの長さまである。例の事件が起きてから吹っ切れたのか、髪を切らなくなって約2年ほど。それなりの長さになるのも当然だ。
そして、アオがなんの装飾物も持たず居ることも今までを知れば……。
「ありがとうございます殿下。それでは私事ですが明日少々はずさせてもいいですか?」
「ああ、構わない。クロードには黙っておこう」
「殿下の寛大さに感謝申し上げます」
《《それ》》をアオに渡すことで、何かが劇的に変わるとも思ってない。いろんなことがあったにせよ、俺達の関係は一線を越えることができない。アオが何を考えているのか、俺にはわからない。
だから、俺は俺の気持ちを素直にぶつけることしかできないのだ。
「カンザシ、簪……。あるなら、あれがいいな」
遠い昔、ジジイから教わったある花の名前。俺の名前にもあるらしいそれは、聞いた話と描かれた図鑑でしか見たことがない。けれどもその花の花言葉を知って、俺はそれしかないと思った。
それは紫色の花をしているらしいぜ、アオ。
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「――なんで、どうしてっ」
どうして、なぜ、なんで。
その言葉ばかりが頭を埋め尽くし、その言葉が意味もなく口から出てくる。そう、意味などない。もはやこうなってしまっては何を言ったって、どんなに後悔したって、後の祭り。
冷たくなった躯を必死に抱きとめ、眼の前に居る人物を睨むぐらいしか私にできることはない。
「さようなら、アオ・クロード」
空一面を、王都全体をどす黒く見えるほど光る赤い光が包み、息苦しく感じるほどの濃い魔力が体に泥のようにまとわりついた。
お久しぶりです。先生です。そして早速申し訳ありませんでしたぁ! 投稿にかなり間が空き始めてしまいましたね……。スランプ辛い……。
ですがようやく時間が空き始めたので頑張って投稿していこうと思います。見守っていただけると嬉しいです。




