第56話「それは悪魔の後悔 11」
アオ:王族ってこんなに言い寄られるのかと思い知った。地獄。
レオン:カルミアに関してマジで何も思っていない。恐怖だよね。
ロト:うわぁ、ヤバぁ……と自分の行動を棚に上げるタイプ。
前回のあらすじ。王族はとっても大変。
カルミア嬢、いやもういいやカルミアで。カルミアのアプローチが始まって3ヶ月。私はその猛攻を止めるため四苦八苦と苦しめられていた。
「何なんですかあのお嬢様は! 下手な魔物よりも厄介だぞ!」
「落ち着いてくれ、アオ。いつも規律正しい君が私に対して敬称を無くすなんてらしくないぞ」
「いえ落ち着いてなどいられません。この3ヶ月! 一体何があったのか言ってみてください」
「んー……」
これが贈り物や手紙の類ならまだ良かった。確かに手紙には呪術のような気配もあったし、食べ物には大量の惚れ薬が検出されたがそれはいい。何人かイカれてしまったがそれはまだいいのだ。問題は公務中に殿下の部屋に突撃してきたり、殿下の昼食に手を加えたり(意味は伏す)、視察に勝手についてきたり行き先で待ち伏せしていたり、何よりも寝所に潜り込もうとするところがだ!! 未然に全て防いたけど!!
「出禁にしましょう」
このままだと私の胃がストレスで開く。
「そうしたいのは山々だが彼女の家は王家でも無視できない力を持つ。そう簡単に出禁にできない」
「なら殿下からはっきり言ってください。お前のことなんて好きじゃないとか」
「色々と問題があるだろ……」
チっ、こうなったら適当な罪でもでっち上げてあいつを処刑……。
「止めんかッ」
「止めないでください殿下。既に何人もの人が犠牲になっています。あの小娘が有力貴族の娘でなければ既に……」
「既になんだ!? 始末する気だろ、闇夜で始末する気だろ!!」
安心してください、決して証拠は残しませんとも。と心配する殿下に安心を届けるがあえなく却下された。
「はぁ……わかりました。それではカルミア嬢含めた護衛に関しては部下に引き継ぎます」
「ああ、少し休め。アオ」
既に13日連続昼夜問わず働き続けた私に、殿下は休暇を与えた。正直この2週間は軍での訓練よりもきつかったので助かる。
殿下の執務室から出て、王宮にある自分の部屋までまっすぐと向かう。騎士や私のような近衛騎士が住む宮殿まで距離がある。無駄に広く、無駄に迷路のように複雑な造りは万が一、敵が王城に侵入してきた場合に備えたものである。
人の気配がないものの、変な輩がいたら発見しにくい。迷路のような複雑な間取りはむしろ逆効果では、
『――』
「ん?」
今、人の声が聞こえたような。ここはほとんど人が来ることがない廊下。いま冬のために風通しが良すぎるこの場所は人気がない。そんな場所に?
「……」
怪しさ満載なそれに、興味と好奇心をかられたのか。それとも少ない忠義心と正義感が私に行動させたのか。それは私自身にもわからないが、これだけはわかる。
ここから、運命を決定づける。ということだ。
****
「――そう、もう少しってことね」
物陰のところにいる二人の男女。それだけを見れば恋人同士の逢瀬だろう。わたしだってそれを見ればさっさといなくなっていた。が、そこに居た人物がカルミアであったら話は違ってくる。
(……カルミア? なぜこんなところに。それにあの衛兵はここ最近入ってきた新人か?)
「はい、後はあれを王族が手に触れるだけです」
王族が手に入れる? あれってなんだ?
「もう少しよ。もう少しで、この国を落とせる!!」
「っ!」
カルミアの言葉に思わず体が固まる。今この小娘、なんと言った? この国を落とすだと?
それはもはや、謀反じゃないか。しかし一体どういうつもりだ? あれほど殿下に、いや王太子妃という立場に縋っていたというのに、なぜ今更そんなことをする必要がある?
ガタッ!
「っ!」
「今の音は何!?」
どうやら私は思っていた以上に体を前のめりにして聞いていたらしい。体を前面に出したせいで物陰として利用していた子供の身長ほどありそうな花瓶に触れていた。動揺のせいもあるが我ながら詰が甘い。
「そこに誰かいるの?」
コツコツと近づいてくる足音が2つ。一つは高いヒールの音。もう一つは甲冑の擦れ合う音。ここのだだっ広い廊下は隠れるようなところはあるが、ここから少し遠い。間に合わない。
「『水高速移動』」
魔法が使えなければの話だけどな。光ほどの速さで動くことは出来ないが、少し遠い程度の場所ならば、こいつは魔力痕を残すことも音も出すこともなく高速の移動を可能にする。
今頃あいつらは誰も居ない廊下を見て安心しきっているところだろう。
「チッ、こんなことなら早く戻るんじゃなかったな」
国を落とすってなんだ? 冗談なのか? だが隣にいたのは間違いなくここの衛兵だ。冗談や遊びでそこまでしないだろう。たしかに他の貴族の内通者がこの王城の中に居ないとは言わない。それらから王族を守るのも私の仕事だからな。
だが、私の勘が言っている。
「あいつは、落とすと言ったら落とす女だ」
****
最近、アオの様子がここ一番おかしくなっている。
「アオ、流石に最近仕事を詰め過ぎじゃないのか?」
おかしいと言っても、アオがまた前のように精神的におかしくなっているのではない。ただ何かに追われているように見えるし、何かを……まるでこの国に危機が訪れたかのようなそんな反応を見せていた。
「ん、そうか? そこまで仕事を詰めていた気はしないのだが……」
「いやいや流石にそれは冗談だろ? 一週間もまともに休んでねぇだろ。目に隈、それにやつれてる。寝てねぇし、飯も食ってないだろ」
自分で自分の変化に気づかないほどなにかに追われているアオに、俺はひどく焦燥的な気分になってくる。今すぐやめさせたくなるほどの何かをアオから感じた。
「なにかあったのか」
「……ロト」
「お前がそこまで焦るのは、初めてだ。なにかあったんだろ」
アオのやつれた頬に触れて感じる彼女の体温。いつもよりも少し冷たい彼女の体を温めるように手をそのまま置いておいた。
「何があった。言ってくれ」
「…………」
ふとアオの視線が俺から外れ、何かを思案するような顔つきに変わる。それは俺がよく見るアオの顔だった。
何かを、隠そうとする表情だ。
「まだ、確証があるわけじゃない。証拠もないし、子どもの冗談かもしれない」
「ああ」
「だが、私の勘が言っているんだ。『動け』って」
「……」
アオの顔が俺の手の方に傾きそのまま止まる。目を瞑った目を縁取るまつ毛が影を作った。
「でも少しだけ疲れた」
長い長い溜息をついたあとに出てきたその言葉は、弱音。俺にだけ見せる弱いところをアオは無防備にさらす。ほんの少しだけの優越感と、それ以上に大きい不安が俺の胸をせめぎ合う奇妙な感覚に追われた。
「……なら、少し出かけようかアオ」
「出かける?」
「ああ、ちょうど王都祭の最終日に俺とお前で出かけよう。それぐらいの時間は取れるしさ」
王都祭。この国の建国を祝う祭りは一週間ほど続くほどの大きな祭りだった。無論その間俺達も忙しいが、アオの様子からさすがの王たちも休ませたいようだったし、時間も作ってくれるだろ。
アオは少し悩み、視線を下においたかと思えば、その灰色の瞳をあげて笑って頷いた。
大変長らくお待たせしましたっ! 更新です!
ここ最近私的な理由で更新を遅らせてました! 後スランプです。すみません!




