表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約破棄で暫定前世の夢を見たけどただそれだけで何もしない

作者: さや

特に何も無いお話です。本人はざまぁしません。


「婚約破棄だ!」


私の耳に入ってきたのは、父の声だった。

誰よりも着飾って、誰よりも綺麗なはずだった。今この場の主役は私と、愛しい彼のはずだった。

今、私は誰よりも輝いているはずだったのに。

なのになんで?もう生きていたくない。こんな場所で、このタイミングでこんな仕打ち、酷い。こんな形で裏切られるなら、もう死んだ方がいい。


「すまない」


私の目の前で彼は私ではない女性の手を取り去って行く。

ざわめく会場の中で、私は気が遠くなりながらこう思っていた。



あれ?前にもこんな事あった…?



私の意識はそこで途切れたのだった。








悪夢を見た。


『貴様のような売女とは婚約を破棄させてもらう』


それはとても酷いもので、必死にありとあらゆる事を学んで自分の時間を投げ捨ててでも一緒に居る事が出来るようにと愛した人に、あっさりと捨てられる。

どこかで見た記憶のある男を取り巻きにし、見た事も無い少女を連れた彼は声高に言う。


『私の目の届かぬ場であらゆる男を誑かしていた事は知っているぞ!貴様のような売女が王妃になれる訳がないだろう、しかも敵国の密偵とまで関係を持っているそうではないか!』


しかも公衆の面前で、ついでにやった事も無い罪を被せられて、しかも何故かかなり酷い罪もあって、死罪ですってよちょっと聞きまして奥さん。


『大丈夫だ、我が国史上最低最悪の売女は今から処刑される、その後は国の慶事として、私と君との婚姻式を行おう』


まあ畳と嫁は新しい方がいいって言うものね………いやいやまだ嫁ではありませんでしたから!

思わずボケずにはいられない酷さだった。

そして突っ込んでから目が覚めた私がした事は、真っ先に首が繋がっているかだった。


「良かったやっと目を覚ましたのね…!」

「すまなかった!私たちが無理に見合いをさせたばかりに…」


見慣れた天井は実家の私の部屋だった。

目の前で私に謝る両親の姿を見て、こちらが現実で首はちゃんと繋がっている事を実感する。

大泣きしている両親曰く、私はどこかで不幸な結婚式と語られてもおかしくないような結婚式の最中で彼に逃げられた後気絶して、3日……なんと3日も!起きなかったらしい。

えーーー3日なんてそりゃあお腹も空く訳だわ。


「とりあえず、式前に籍入れなくて良かった……退職しちゃったのが難点だけど」

「本当に、すまなかった…!」

「だからお父さんに言ったじゃない!今時お見合いなんてって!ごめんなさい、お見合いをもっと強く止めてれば…」

「気にしないで……ただ…」


私は土下座せんとばかりに謝罪する2人に強く言う。


「トラウマになって恋愛が怖いし、もう男の人も怖いから、結婚とか考えたくない」


2人は孫がとか何とか言ってたけど、「うちにはまだ私以外に孫が見れる可能性あるんだから」と言ったら申し訳なさそうに部屋から出て行ってくれた。ついでにお粥も用意してくれるらしい、やったね!胃に優しい!

そしてごめん弟妹よ、孫は任せた!可愛い甥姪をよろしく!


「……それにしても」


なんだっけ、長いあんな感じの夢を見た時は前世の可能性がある、みたいな話を聞いた事がある。

聞いた事があるんだけど、あれが前世とか最悪過ぎる。いやマジであれが前世?本当に?


「最悪だけどちょっとポジティブになろうか」


結婚式まで進んだ見合い相手が実は職場の後輩の女の子妊娠させてて式場でそれを暴露、彼と後輩女子が式場から逃走なんて結婚式をつい先日当事者として経験したけど、まだマシだったんだなぁ。

ほら、生きてるし、親から結婚しなくていいよって言質取ったし。むしろ生きてるだけこれはネタに出来るのでは?よくよく考えたら彼、マザコンっぽかったし。新婚旅行にお義母さん同伴案出してきてたもんね、お義母さんが「息子夫婦の新婚旅行に付いて行くならお父さんと温泉旅行の方がいいわ」って言ってくれたから同伴じゃなくなったけど。

……でもなぁ。


「うちの親とか、お義母さんたちみたいな夫婦になれると思ったのにな」


お義母さんたちは本当に温泉旅行の予定を立ててたし、両親も「ならうちも子供たちも成人したし2人でこれからゆっくり旅行を」って言ってて、新婚旅行の日程で皆それぞれ予定立ててたのに。


「ごめんなさい」


私が3日間起きなかったって事は、お父さんもお母さんも旅行に行かずに私を見ててくれたって事で。

しかも結婚式の後本人たち不在で両家話し合いって事はあちらも旅行を中止した訳で。


「………あのクソ共」


どちらの両親も楽しみにしてた旅行を、あのクソ共のせいで中止にされたとなると凄く腹が立つ。何か腹いせは出来ないものか。

幸い今の私は、職も無ければ何も無い、あるのは愉快な結婚式のお話と前世らしき婚約破棄からの処刑の記憶くらいのアラサー独身女。

失うものは何も無いのだし、被害者は私と言っても過言ではない訳で。

泣き寝入りならぬ泣き落としを使っても誰も私を非難しないのでは?いや、アラサーの泣き落としはキツいかもしれないけど、「この歳であんな事をされてはもう…」って手で行こう。

幸か不幸か、前世と同じく今世も親の仕事関係で伝手はある。前世で培った外交スマイルと今世の開き直り不幸女の泣き落としで、絶対アイツに幸せな人生は送らせないわ!




決めた後の私の行動は早かった。

式で仲人さんをしてくれていた方や向こうの上司、そして向こうと同業種でうちと繋がりのある人に両親共々事情を説明……してたけど、そもそもうち顔広かったわ、もう噂広がってた。結局私何もしなかったな。

元々勤めてた会社を辞めて転職するにも、同業種で近隣の県での再就職は望めないだろうな。いやー赤ちゃんどうするんだろ!私に慰謝料がっつり払ってカッツカツだと思うんだけどね!なんと浮気相手ちゃんにも慰謝料請求しようとしたら彼が代わりに払ってたよね!さすが高給取り!貯金けっこうあるって話してたもんね!


「いやぁ〜無職だけどのほほんと過ごせるっていいわぁ!」

「あんたね……いや、まあまだあんな事があってそんなに経ってないものね、今はいいわ…」

「ありがとうお母さん、夕方にカップ麺食べながら観る再放送のドラマって最高だわ!」

「……太るわよ」

「ウェディングドレスの為に色々我慢してたんだからいーの!」


しかもちょっとだけお高いカップ麺だから更に幸せ感じるわ……最高。

私は最高だけど、あちらのお家は阿鼻叫喚になりそうな予感らしくて、私はそれがちょっと楽しい。義両親予定だった2人は良い人だったのに、何故あの人が生まれたのか。

どうやらあちらのお家は浮気相手ちゃんがかなりモテる子だったらしくて、他に「俺が父親だ」って人が名乗りを上げたらしい。アホくさぁ本当に父親としてあの子と連れ添うの?何股か掛けてた子と?凄いね!

一応両家話し合いで、お腹の子が生まれたらDNA検査をすると決まっていたそうな。「万が一うちの息子の子供じゃなかったら息子ごと縁を切る」「本当に息子の子供なら一応孫という事になるから子供に罪は無いと思って手助けはする」という事になっていたとかで。




で、結果としては血の繋がりはありませんでしたってなって、彼からは「やり直して欲しい君しか居ないんだ」って連絡。


「私はあなたに人生やり直して欲しいわ」


大笑いしながらそう告げたら何故か「思い出のあの場所で待ってる」なんて言ってたけど、行く訳無いのにね。

結婚式でのあの時は「もう死のう」って思ってたけど、暫定前世の悪夢のおかげで今はとても幸せ。だって別に今のご時世、婚約破棄されても普通に外は歩けるしむしろ自らネタに出来るもんね。ご飯は美味しいし。

でもそうだな、しいていうなら、もし死んだら暫定前世に戻りたい。戻って、敵国の密偵と云々言われる前に実際に近隣諸国に情報渡すわ。

暫定前世は暫定前世でまだ若いんだし何とか出来そうな気がしてきた。




神様どうか死んだら前世に戻してください。

暫定前世の婚約破棄のおかげで今世の婚約破棄で死を選ばなかったので、死なない前世にしてみたいです。

我ながら無茶苦茶だと思うけど、死んでからどうなるかなんて分からないからとりあえずお願いだけして、今日も私は、まだ無職で惰眠を貪る生活を送る。



あーーーーー来月から就活しよ!



思いつくままに何もしないを書きたかったのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の周辺(浮気相手のぞく)がまともだと何もしなくてもざまぁがすすむのが、とてもスッキリしました。 [一言] 暫定前世に死に戻って「今度こそ、自力でざまぁする!」って頑張る主人公が見たい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ