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二次ってる!

作者: 歌川 詩季

 意外と文字数増えました。

 ネットで自作漫画を公開しはじめて三年がたつ。

 閲覧数こそ、そこそこはあるものの。感想や評価はあまり——というより「あまりにも」(かんば)しくない。

 だめだ。このままでは筆と心が折れてしまう。

 唯一の連載作品が完結し、描きかけの読み切りもなく、しばらくの手もあいたことから。

 おれは、べつのやりかたを試してみることにした。


 おれの投稿しているサイトでは、たくさんのアマチュア作家先生が、作品を掲載している。そのなかには、自作の二次創作を許可しているものもあるのだ。

 書籍化や、アニメ化しているものでは、権利関係が難しいので、あまり目にしないが。

 そうでなくても、サイト内の人気作品で二次創作を許可しているものはわりとある。

 おれは、それにチャレンジしようというわけだ。


 幸いにも、おれの漫画処女作は少年マンガの同人誌で——とはいえ、かってにノートに描いてただけで、どこにも発表はしていない——オリジナルを描くまえはずいぶんと長いこと、それに取り組んでいた。いわば、それなりに経験は豊富なのである。

 原作を補完するスピンオフ的なものもいいが、ここは読者受けを狙い、キャラをいぢることに精を出すことにしよう。

 選んだのは、とあるファンタジー作品。ダークでハードな作風ながら、コミカルなノリも楽しい人気作品である。当然、魅力的な人気キャラが何人もいて、こいつはいぢりがいがあるぞ。

 if展開や、学園もの設定への置き換え。おまえらこういうの好きなんだろとばかりに、おれは描きまくった。


 そして、その結果。



 これはまた。

 ずいぶんと二次ってくれましたね。

 学園ものとは、そのセンスにおそれいりました(笑)

投稿者:かずのこの海



 おおっ!



 これは最高な二次り具合!

 まさに、二次ってる!!

 ifとか、よくこんなん思いつくなあ。

投稿者:とてちぽっぷす



 おおおっ!!



 徐々に感想が送られてくるようになったではないか。

 たいした量ではないのかもしれないが。それでも、いままでのオリジナル作品に比べたら、かなりの差だ。

 このまま、二次創作で名前を売りつつ。画力や構成力なんかを磨いて、いずれまたオリジナルを描けば。こんどこそ、そちらの作品にも、感想をもらえるようになるはずだ。


 こうしておれは、二次創作にいそしんだ。

 あいかわらず、「二次ってる」との感想は——いや、まえにもまして届いている。

 おれはその手応(てごた)えに、かつて味わったことのない満足感をおぼえていた。



 だが、おかしい。


 もらえる感想は増えつづけているのに、評価のほうはちっともポイントが入らなく、サイトのランキングに顔を出すこともないのだ。

 悩んだおれは、おれの生涯の悪友である、模吹屋(もぶきや) 楽太(らくた)に相談してみることにした。

 楽太はおれがネットで漫画を描いていることを知っている、数少ない(おれ自身とふたりだけ)人間だ。

 以前は、オリジナル作品をネームの段階で読んで、感想を聞かせてくれたりもしたが。二次創作をはじめてからは、描いたものを見せることはなかった。

 ひさしぶりに、いま描いているものを見てくれと。これまでの経緯(いきさつ)と事情を話しつつ、おれはこちらのおごりで、ハンバーガーショップへとこいつを呼び出した。



「なるほど、感想に書かれてるとおりじゃん。

 こりゃあ、二次ってんな」

 スマホで、原作とおれの二次創作とを見比べるように目をとおしてから。クワトロチーズバーガーをかじりながら、楽太はつぶやいた。

「だろ? おれって、既存のキャラをいぢるほうが向いてるのかもな。

 アニメの脚本家か、コミカライズの漫画家でも目指そうかね」

 悪友のことばに、気を良くしたおれだったが。つづく、こいつの物言いは、それを(くじ)くものだった。


「いや、()めてるんじゃなくて。

【二次ってる】って、ネットスラング知らねえの?」

 聞いたこともないというふうに眉を寄せるおれに、楽太は呆れ顔で解説をはじめてくれる。

「【二次ってる】——つまり【(にじ)ってる】、蹂躙(じゅうりん)してるってことさ。

 原作を踏み(にじ)るような、だめな二次創作をこんなふうに呼んでからかうわけ」

 ほぅ、なるほど。

 そいつは、うまいことを言うもんだ。

 しばらくのこと、感心していたおれだったが、しだいにその意味するところを理解して。(ひたい)から、背中から、そして脇の下から。冷たい汗を浮かべては、つつぅっと垂れ流す。


 なんてこった!

 それじゃあ、評価なんてあがらないわけだ。

 もらっても喜んでいた感想も、ほめてるのではなく、からかいのコメントだったなんて!!


「まぁ、気を落とすなよ」

 落胆と、それまでの勘違いへの気恥ずかしさに、唇を噛んでうつむくおれに。楽太はなぐさめるように、ことばをかけてくれる。

「ほんとに、作品や作者のおまえを馬鹿にするつもりなら。もっと感想欄は荒れてたはずだぜ。

 こんだけお行儀いいコメントが並ぶのは。おまえの描いたものを、それなりに楽しめたからってことじゃないのかな」

 唇を噛む前歯をゆるめて、視線をあげたおれに。楽太は、ストロベリーシェイクをひとすすりすると、苦笑いしながら言った。

「つぎは中途半端な二次創作なんかじゃなくて、また気合いのはいったオリジナルを描けばいいじゃん。

 そんなに悔しかったのか? 人目もあるんだから、ここではやめてくれよ」

 ペーパータオルを数枚、おれに手渡してくれる。

「ほら、こいつで目もとを()けってば。

 涙が(にじ)んでるぞ」

 悪友のことばに、一瞬どきりとすると、自分でも気づかないうちに溜めていた涙が、頬を濡らしていくのを感じた。

 どうやら、浮かべていたのは冷や汗だけではなかったようだ。


 だけど、おれが一瞬どきりとしたのは。

 気の許せる悪友とはいえ、男友達のまえで涙を見せてしまったことにではなくて。


 涙が【(にじ)む】——【二次む】なんて、脳内での誤変換のせいだったってことは、こいつには内緒にしておこう。

 2000文字くらいかと、おもったんだけどなぁ。

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制作:冬野ほたる先生

挿絵(By みてみん) 制作:あき伽耶先生
― 新着の感想 ―
[良い点] 成程、「(踏み)躙ってる」と「二次(創作)」をかけて「二次ってる」ですか。 この洒落のきいた言い回しは、確かにネットスラングとして秀逸ですね。 [一言] そう言えば視点人物は二次創作を描く…
[良い点]  二次ってる。本当にある言葉かと思ってしまいました。普及するかも(*`艸´)
[良い点] 二次ってる! 初めて知りました。 そういう使い方をするのですね……ふむふむ。 [一言] 創作していて「読まれたい……!」という工夫、二次創作のちょっとした後ろめたさや、浮かれた後の真実の意…
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