ランドセルの自由
来年、小学生になる花南は、父と母と一緒にランドセルを選びに来ていた。
色々と目移りしていく中、花南が最終的に選んだランドセルはどんなものだったのか。
結末は、ちょっとだけ切なくて、なぜかクスッと笑ってしまうかもしれません。
「みなさんは、何色がお好みですか?」
「みなさんは、派手な物とシンプルなもの、どちらがお好みですか?」
来年小学校へと通う6歳の花南は、両親に連れられ大きなランドセル売り場に立っていた。
立っていていたというより、ピョンピョンと跳ね回り、まるでサーカスでも見にきているかのように、あちこちを見回している。
「お父さん、お母さん、あっちの方が可愛いのいっぱい付いてるー♪」
花南は、2人の手を引っ張りながら動き回る。
母親は、値札を見ながら父親に言った。
「値段は、全く可愛くないね……」
花南の表情とは違い、両親の顔は曇りがちに見えた。
それも当然だった。
両親が子供の頃には、男の子は黒、女の子は赤がほとんどで、価格も1万円ほどだった。
それが近年みるみるうちに価格は上がり、今ではオーダーメイドになると、10万円を超えるものも少なくない。
しかし、それはある程度仕方がない事だった。
多くの場面で、B5サイズからA4サイズが支流となり、学校のプリントや大きめな教科書が入るようにと、サイズアップを余儀なくされたからだ。
それに伴い、耐久性アップ、背負い心地、多彩な色使い、細部にまで施させる刺繍を施された結果、現在の価格へと落ち着いたのだ。
「お母さん、やっぱりあのリボンのキラキラが付いてるの!」
花南は、1番上に飾られた、紫色のランドセルを指差した。
すでに、候補のランドセルを父親は2つ抱えていたので、3つ目は母親が手に取り、花南に背負わせてみせた。
「これ! 絶対、これにするー!」
花南の心は決まった。
売り場で1番と言えるほど、キラキラと輝く装飾が施された人気モデル。
両親も娘の喜ぶ顔に、まんざらでもない様子だったが、最後に母親が、指差しながら冗談めかして言った。
「お母さんは、やっぱりあれが良いと思うなー」
売り場の隅に追いやられた小さなスペースには、赤くてシンプルな、昔ながらのランドセルが置いてあった。
そう、それが私。
もう散々迷い、やっと娘が決めたのだから、今更、私をそんな冗談に使うのはやめてほしい。
「私の自由はどこにあるのだろうか?」
結局、花南は、キラキラのランドセルを背負い、それ以上にキラキラのランドセルカバーを買い足して帰って行った。
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