プロローグ
幼い頃から危険が身近にあった。
生まれも普通、容姿も普通な私であったが、何故か変な人を惹き付けてしまうことが多かったのだ。
それはもう老若男女問わず、ストーカー行為、誘拐未遂などは日常茶飯事であった。
加害者たちは皆口を揃えてこう言った。
───あの美しい声を自分だけのものにしたかった。
私は話すこと、歌うことが好きだ。誰かと会話することは楽しいし、好きな歌を上手く歌えたらとても嬉しい。
けれど私にとって当たり前のこと、好きなことをしているだけで知らない誰かを狂わせる。
原因は不明だが、どうやら私の声には厄介ななにかがあるようだ。
次は誰がおかしくなってしまうのか分からない。
かつて親友だと思っていた友人さえもおかしくなった後、人間不信になっていく私を支えてくれたのはたった一人の幼なじみだった。
物心つく前からずっと一緒にいる彼は、誰よりも私の心を守ることを優先してくれた。
「ひな、大丈夫だよ」
そう言っていつも慰めてもらえる時間が大好きだった。
けれど彼だけに守ってもらうにはやっぱり限界があり、私は襲われて怪我をしてしまった。抵抗した時についたものがほとんどで、手遅れになる前に助け出されたが彼は違ったらしい。
「今日からここで、二人で暮らそうね」
事件後に優しい笑みの彼に連れて行かれたのは、私のためだけに用意された鳥籠。絶対に安全で、私にはとっても快適な空間だった。
どうやら互いの両親には許可をもらっているらしく、彼と二人きりの生活が始まった。
私は外に出なくなり、彼と家族以外と接することはなくなった。宅配さえも彼が対応してしまう。
けれど身の危険を感じることは一切なくなり、圧倒的安心感というぬるま湯に浸かることができた。彼が用意してくれた鳥籠は、この世で唯一絶対の心休まる私らしくいられる場所になったのである。
思春期に突入する頃には恋人となった彼が用意した空間で、彼のために尽くせる生活の何と甘美なことか。
これからもずっと二人で、時々家族にも会って。
いつかは彼の子どもを産んで。
幸せな日々が続くと信じて疑わなかった。
それなのに、どうして。
どうして私は今、鳥籠の中にいないのだろうか。
気がつくと知らない場所で別人になっていた私は、今日も彼の鳥籠に戻ることを夢見ている。