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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
四章 キスがしたい十五歳

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8.キスがしたい十五歳

 ほの赤いロヴィーサ嬢の唇が気になる。

 何か塗っているのだろうか、ロヴィーサ嬢の唇はいつも艶々としていて美しい。


 ヘンリッキとアルマスにキスの話をされて以来、僕はずっとロヴィーサ嬢の唇ばかり見ている気がする。ロヴィーサ嬢とキスをしたくないかと問われれば、したい。僕だって健全な十五歳の少年なのだ。


 十五歳でキスをしてしまうのは早すぎるのではないかとも考えるが、ヘンリッキとアルマスはもうキスをしているのだろうか。二人には妙な余裕があったからキスをしているのかもしれない。


 アルマスは僕の一つ年上で、ヘンリッキが秋生まれで僕が夏の終わりの生まれで実質一年違うようなものだから、アルマスとヘンリッキは十六歳、僕は十五歳という差はある。

 それでもキスをしたいと思うのは健全な男子として当然のことなのだ。


 キスをするためには僕には大きな難関がある。

 それは爺やだ。

 僕が生まれたときから世話をしてくれている爺やは、もはや僕の親代わりともいえる。そんな爺やは僕にいつでも世話が焼けるように、常に僕の視界の中にいてくれるのだ。


 僕は病弱で死にかけていたから、爺やが特別に気にかけて傍にいて見守ってくれるのも仕方がない。

 仕方がないのだが、僕はキスどころではなくなる。


「エド殿下、ずっと黙っていらっしゃいますが、悩み事があるのですか?」


 飲んでいた紅茶のカップをソーサーに置いて、ロヴィーサ嬢が穏やかに聞いてくる。


 あなたとキスをしたくて悩んでいるのです。


 そんなことが言えるはずがない。

 言ってしまいたいが、僕の斜め後ろには爺やがいて、いつでも僕の紅茶のお代わりを注げるように準備している。


「悩み事があるのは、あるのですが……」

「わたくしには言いにくいことなのでしょうか? 明日、王城に行かれるときには、わたくしは同行しないようにしましょうか」


 ロヴィーサ嬢はできた淑女なので、無理やりに聞き出すようなことも、放置するようなこともせずに、遠回しに、自分は席を外すので父上やエリアス兄上やエルランド兄上に相談してくるように促してくれる。

 父上とエリアス兄上とエルランド兄上ならばいいアドバイスをくれるかもしれない。


「父上と兄上たちに相談してみます。ロヴィーサ嬢、明日は待っていてくれますか」

「はい、エド殿下をお待ちしています」


 本当にロヴィーサ嬢ができた淑女でよかったと僕は実感したのだった。


 問題は爺やだ。

 爺やは母上がこの国に嫁いでくるときに連れてきた従者の一人で、母上の身の回りのことをしていた。母上とは乳兄弟で、生まれたときから一緒だったので気安かったのだろう。

 その延長線上で、爺やは今は僕の父親代わりのように世話をしてくれている。


 振り向けばいつも爺やがいる。

 爺やは僕のそばを絶対に離れないのだ。


「爺や、明日、王城に行ったときには、部屋から出ていて欲しい」

「給仕は誰がしますか?」

「給仕はしなくていいから、僕が話している間は、部屋から出ていて欲しい」


 顔を真っ赤にして主張する僕に、爺やは胸に手を当てて答える。


「エドヴァルド殿下がそう仰るなら従います」

「頼むよ」


 爺やにもロヴィーサ嬢本人にも言えないこと。

 これは父上やエリアス兄上やエルランド兄上に話して解決することなのだろうか。

 一抹の不安はあったが、僕は相談してみる以外に選択肢がなかった。


 翌日、王城に行くと、父上とエリアス兄上とエルランド兄上とユリウス義兄上が迎えてくれた。王配殿下になっているユリウス義兄上は、王家の集まりにも自然と馴染んでいた。


「エド、浮かない顔だな。何かあったのか?」

「先日のアルマス殿のバックリーン家のパーティーは見事なものでしたよ。エドも学友として鼻が高いことでしょう」

「バックリーン家は伯爵家になったばかりなのに、パーティーで采配を振るえたのか。素晴らしいな」


 父上は僕を心配しているが、エルランド兄上とエリアス兄上は先日のバックリーン家の話をしていた。僕はそんなに変な顔をしているかとほっぺたを押さえる。


「爺や、少し席を外してくれる?」

「心得ました」


 爺やに席を外してもらう僕に、エリアス兄上もエルランド兄上もただことではないと気付いたようだ。

 常に爺やをそばにいさせている僕が、爺やを遠ざけた。


「実はロヴィーサ嬢とのことで悩んでいます」

「ロヴィーサ嬢と喧嘩でもしたのか?」

「ロヴィーサ嬢と別れたいとか?」

「ロヴィーサ嬢に何か不満が?」


 父上もエリアス兄上もエルランド兄上も顔色を変えて僕に詰め寄ってくる。

 ミエト家に臣籍降下するとまで言って、王城を出てミエト家で暮らし始めたのだ。僕の結婚は国にとっても一大事業になっているし、今更覆すことのできないものだった。

 当然僕も覆す気はない。


「ロヴィーサ嬢は最高に素晴らしい女性です。僕の唯一愛するひとに変わりはありません」


 僕が答えると、父上もエリアス兄上もエルランド兄上も胸を撫で下ろしたようだった。

 安堵している父上とエリアス兄上とエルランド兄上に、僕は真剣に問いかける。


「ロヴィーサ嬢とキスをしたいのです……。僕は、どうすればいいのか分からなくて」


 口に出していると顔が赤くなって頬が熱くなる。熱い頬を押さえる僕に、父上は目を丸くし、エリアス兄上は苦笑し、エルランド兄上が困った顔になっている。


「エドの口からそういう話をされると返答に困るな」

「兄として教えてあげたいのだが、父上がいる前でそんなこと、できないな」

「私もセシーリア嬢とそこまで親密になれているわけではないからな」


 父上の困惑も、エリアス兄上の困った顔も理解できるのだが、エルランド兄上の言葉に僕は驚いていた。


「エルランド兄上もなのですか?」

「セシーリア嬢とは国が離れているし、会えるのは行事のあるときだけだ。親密になりたいのはやまやまなのだが、なかなか難しくて」

「エルランド兄上もキスがしたくてできていないのですか?」

「そうなのだよ、エド」


 エルランド兄上も僕と同じだった。

 エルランド兄上は年上なのでキスも軽々としていそうなイメージだったのだが、セシーリア嬢は年上だし、魔族の国に暮らしているので会う機会が少なく、なかなか困難を極めているようだ。


「エリアス兄上はどうなのですか?」

「エリアス兄上、教えてください!」


 僕とエルランド兄上に詰め寄られて、エリアス兄上はちらりとユリウス義兄上の方を見た。紅茶を飲んでいたユリウス義兄上がカップをソーサーに置く。


「エリアスは積極的だったよね」

「ユリウス……弟たちだけじゃなくて、父上もいるんだぞ」

「私の手を取って、情熱的に愛を語りかけてきた」

「ユリウス!」


 結婚しているのだからキスも当然しているであろうエリアス兄上とユリウス義兄上の話に僕とエルランド兄上は興味津々である。身を乗り出している僕とエルランド兄上に、ユリウス義兄上が微笑む。


「手を取って、ありったけの愛を囁きかけるのです。それでいいムードになったら、頬に手を添えて……」

「ユリウス! 私がしたことじゃないか!」

「エリアス、あれは嬉しかったよ」


 ユリウス義兄上にエリアス兄上は敵わない様子だった。

 王城で話をしてから、僕はミエト家に帰った。

 ミエト家ではロヴィーサ嬢が居間で書き物をしながら待っていてくれた。


「ただいま帰りました」

「お帰りなさいませ、エド殿下」


 書き物から顔を上げるロヴィーサ嬢に愛を囁こうとして、僕は斜め後ろを見る。

 爺やがいる。

 当然のように僕とロヴィーサ嬢のお茶の用意をしている。


 お茶の用意ができるまでは、少し待たなければいけないようだ。


「ロヴィーサ嬢は今年度で研究課程は卒業ですよね。卒業後はどうするつもりですか?」

「今は所領の統治を父に任せていますが、研究課程を卒業後は、父と協力して所領を統治していきたいと思っています。いずれは一人で統治できるようになって、父には引退してゆっくりと過ごしてもらおうと思っています」

「ミエト家の当主ですからね」

「名ばかりの当主ですが、実のある当主になっていきたいのです」


 研究課程を卒業後のこともロヴィーサ嬢は考えていた。ロヴィーサ嬢のお父上が今は統治をしているが、いずれは一人で統治ができるようになると言っている。


「僕も勉強して、ロヴィーサ嬢を補佐します」

「とても心強いです。二人で領地をよりよい場所にしていきましょうね」


 結婚後のことを想像して、僕はにやけてしまった。

 紅茶が入ると、僕は爺やに言う。


「少し、席を外してくれる?」

「心得ました」


 爺やが席を外したところで僕はロヴィーサ嬢に愛を囁こうとしたが、頭の中がいっぱいいっぱいになってしまって、口から出た台詞はこれだった。


「ロヴィーサ嬢、キスをしていいですか?」

「え!?」

「好きです!」


 なんて直球。

 ロヴィーサ嬢が真っ赤になって照れているのが分かる。


「え、エド殿下、そんな!」


 あ、来る!


 これは僕の自業自得だった。

 いっぱいいっぱいになってしまった僕はムードが作れず直球で言ってしまった。結果として、僕はロヴィーサ嬢に跳ね飛ばされて壁に激突している。


「申し訳ありません、エド殿下!」


 ロヴィーサ嬢が謝っているが、魔族の僕は頑丈で無傷だった。

読んでいただきありがとうございました。

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