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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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30.僕の十五歳の誕生日

 エリアス兄上が国王陛下になってから初めてのお誕生日が来る。

 僕は王城で用意される料理よりも、正直ロヴィーサ嬢の料理の方が楽しみだったが、エリアス兄上の顔を立てて持ち込みはしないことにした。

 魔族の食材を常人が食べられる技術が確立してから、王城では魔族の食材でパーティーのときには料理が作られることになっていた。普段から魔族の食材を調理して、振舞うことで、この国に飢饉が来たときに魔族の食材を民衆に届けることができると示すためなのだ。


 僕のお誕生日には、隣国からヒルダ姉上とカスパル義兄上とミルカとラウラと、魔族の国からダミアーン伯父上が来てくれる。

 エルランド兄上は婚約者としてセシーリア嬢をお招きしている。

 お誕生日のために僕もロヴィーサ嬢も衣装を新調したし、準備は万端だった。


 王城に入ると、大広間に案内される。

 僕が大広間に入ると、貴族たちが近寄ってきて口々にお祝いの言葉をくれる。

 これもこの国の王子として受け取らなければいけない。

 貴族たちに囲まれていると、ヘンリッキとアルマスが近寄って来た。

 ヘンリッキはこの国に三つしかない公爵家の嫡男なので、貴族の群れが割れてヘンリッキとアルマスを通す。


「エドヴァルド殿下、お誕生日おめでとうございます。この年もどうか、私と仲良くしてください」

「もちろんだよ、ヘンリッキ。僕がヘンリッキとアルマスの邪魔になってないか心配だけど」

「そういう心配はしなくて大丈夫ですよ。エドヴァルド殿下は俺……じゃない、私の親友ですからね」

「アルマス、ヘンリッキ、僕も二人が大好きだよ」


 身分が下のアルマスの方から親友と言って来るのは若干無礼だと感じるものもいるかもしれないが、僕は気にしていなかった。アルマスに親友だと思われていることは嬉しい。

 ただ、アルマスは自分のことを「俺」と間違えて言ってしまっているし、喋り方は気を付けなければいけないと思っていたのだが。


「エドヴァルド殿下、『僕』と……」


 そっとロヴィーサ嬢に耳打ちされて僕も気付いた。公の場なのに僕は、自分のことを「私」と言わずに「僕」と言っていた。僕もヘンリッキとアルマスの前では気が抜けてしまうようだ。


「恥ずかしい……。教えてくれてありがとうございます。気を付けます」

「はい、エドヴァルド殿下」


 ロヴィーサ嬢はこんなにも完璧なのに、僕はつい気を抜いてしまう。

 気を引き締めていると、壇上のエリアス兄上から呼ばれた。


「本日は我が弟、エドヴァルドの誕生日に来てくれてありがとうございます。エドヴァルドも十五歳。高等学校での生活も折り返し地点に来ます」

「今日は私の誕生日を国王陛下を含め、たくさんの方に祝っていただき、大変うれしく思っています。高等学校も半分が過ぎました。残り半分も国王陛下の弟として誇れる成績を取れるように努力していきたいと思います」

「エドヴァルドは、学友のアルマス、ヘンリッキと共に、今年度最後の試験を全教科満点で学年一位になりました。私の素晴らしい弟を大いに讃えてあげてやってください!」


 僕の成績がエリアス兄上の口から発表されると、貴族の中から感嘆の声が上がる。エリアス兄上がこんなことを言ってくれるとは思っていなかったから、僕は嬉しくてエリアス兄上に飛び付きたかった。

 壇上での挨拶が終わると、ユリウス義兄上がお祝いに来てくれる。


「エド殿下、お誕生日おめでとうございます。エド殿下にとってよい年になりますように」

「ありがとうございます、ユリウス義兄上」


 お礼を言って頭を下げると、次はヒルダ姉上とカスパル義兄上がやってきた。

 ミルカがよちよちと歩いて来て、手に持っていた萎れかけた花を僕の方に突き出す。


「う!」

「私にくれるの?」

「あい」


 花を受け取って僕はミルカにお礼を言う。


「ミルカ、とても嬉しいよ。ミルカも私を祝ってくれてるんだね」

「あい」


 お手手を上げていい子のお返事をするミルカが可愛くて堪らない。

 ヒルダ姉上とカスパル義兄上もミルカを微笑んで見守っていた。


「せっかくの花だ。永久保存するか?」


 ダミアーン伯父上が声をかけてくれる。


「お願いします」


 僕はダミアーン伯父上に花を渡した。

 ダミアーン伯父上の手の中で花が瑞々しさを取り戻し、硬化していく。宝石のようになった花を、ダミアーン伯父上が僕のスーツのフラワーホールに入れてくれて、ラペルピンのようにしてくれた。

 白い花はロヴィーサ嬢の水着姿を思い出させた。


「エドヴァルド、そろそろ魔族の国にも来てくれないか? 父上がエドヴァルドに会いたいとうるさくてね」

「お祖父様に会いに行きます」

「仮病を使う前に頼むよ」


 僕に会いたいがためにお祖父様は仮病まで使うような方だった。魔族の国の国王陛下で、魔王とも呼ばれているのに、仮病を使うなんておかしかったが、それだけ僕は愛されているのだと感じる。


「エド、お誕生日おめでとう。セシーリア嬢もお祝いを言いたいそうだ」

「エドヴァルド殿下、お誕生日おめでとうございます。ますます亡きお母上に似て来ましたね。魔族の国へもぜひいらしてください。国王陛下もお喜びになることでしょう」

「セシーリア嬢も仮病騒ぎをご存じですか?」

「もちろん知っております。父が本当に困り果てておりました」


 国王陛下であるお祖父様が職務を放棄して仮病で寝込んでしまったら、宰相閣下であるセシーリア嬢のお父上は困ったことだろう。そんなことが起きないようにも、僕は魔族の国を訪ねなければいけなかった。


 お祝いの言葉を一通り受けて、僕はロヴィーサ嬢を振り返る。

 でしゃばることなく、ロヴィーサ嬢はずっと僕の隣りに立っていてくれた。


「ロヴィーサ嬢のおかげで今年もいいお誕生日を迎えられました」

「わたくしではなく、皆様のおかげですよ」

「いいえ、私の日常を支えてくれているのはロヴィーサ嬢です。いつもありがとうございます」

「エドヴァルド殿下の成長の力になれているなら光栄です」

「帰ってからのご飯も楽しみです」

「美味しいものを作りますね」


 王城の料理はあまり食べる気がしなくて手を付けていないが、帰ったらロヴィーサ嬢の料理を食べられると思うと僕はうきうきとしていた。


 お誕生会が終わって、僕はロヴィーサ嬢とミエト家に帰った。スーツのフラワーホールに通したミルカからもらった花は、これからラペルピンとして使っていこうとアクセサリーボックスに入れた。

 綺麗に硬化していて、宝石のようになっている白い花はとても美しかった。


 着替えて厨房に行くと、厨房にはスパイスの香りが満ちていた。


「カレーですか?」

「ただのカレーではありませんよ」


 ロヴィーサ嬢はカレーをパン生地で包んでいる。僕も手伝って包んだが、カレーは冷やされているのか固まっていて、包みやすかった。

 パン生地で包んだカレーをロヴィーサ嬢が揚げていく。

 スパイスの香りが引き立って、それだけで涎が出そうになる。


「カレーパンです」


 こんがりと揚がったカレーパンをすぐにでも僕は食べたかったが、我慢した。

 ロヴィーサ嬢のお父上を呼んでくるのだ。

 ロヴィーサ嬢のお父上が揃ってから、僕は手を合わせた。


「いただきます!」

「エドヴァルド殿下、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます……美味しい!」


 食欲に勝てずに、ロヴィーサ嬢のお父上からお祝いの言葉を受けながらも、僕はカレーパンに齧りついていた。熱々の少し甘めのパン生地の中からスパイシーなカレーが蕩けだしてくる。

 熱さにはふはふと息をしながら必死になって食べていると、ロヴィーサ嬢が冷たいミントティーをグラスに注いでくれる。


「そんなに急いで食べなくてもなくなりませんよ」

「美味しいから、つい、必死に食べてしまうんです」

「気に入られたのならよかったです」


 ミントティーを飲むと、熱かった口の中が冷える。冷たいミントティーをごくごくと喉を鳴らして飲んで、僕はまたカレーパンにかぶり付く。

 最高のお誕生日をロヴィーサ嬢とお父上と過ごせて、僕は幸せだった。


これで三章は完結です。

エドヴァルドとロヴィーサの成長はいかがだったでしょうか。

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