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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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25.エリアス兄上とユリウス義兄上の魔窟の視察

 冒険者の服を着ていてもロヴィーサ嬢は長い黒髪だけは豪奢に巻いて、ハーフアップにして背中に流していた。

 纏めてしまった方が掴まれる危険性はないのだろうが、ロヴィーサ嬢のお洒落として譲れないところなのだろう。


 『赤毛のマティルダ』様として活躍していた頃、ロヴィーサ嬢は魔法具で髪を括っていた。その魔法具は髪の色を真っ赤に見せる魔法がかかっていた。

 その頃は髪を括っていたのに、今は括っていない。

 お化粧も薄っすらとしているようだ。


「ロヴィーサ嬢は可愛いですね」


 僕が呟くとロヴィーサ嬢が頬を染めて目を伏せる。


「エド殿下にそう言っていただけると嬉しいです。エド殿下は最近格好よくなってきました」

「僕は格好いいですか?」

「はい」


 ロヴィーサ嬢に格好いいと言われて僕は浮かれてしまう。

 背も伸びたし、体付きも少しずつがっしりとして来ている。僕は大人に近付いているのだ。


 今回ロヴィーサ嬢が冒険者の格好をしているのは、エリアス兄上とユリウス義兄上を魔窟に招くためだった。エリアス兄上とユリウス義兄上の二人は護衛を連れて来るのだが、それよりもロヴィーサ嬢の方がずっと頼りになるのは分かり切っている。


 ロヴィーサ嬢が刺繍の入ったシャツにベスト、ズボンに太いベルト、腰には大振りのナイフを下げて、ショートブーツを履いて用意しているのを見て、僕もシャツとベストとズボンとショートブーツに、髪は赤い鳥の魔法具で纏めた。

 二人して準備をして魔窟に行くと入口でエリアス兄上とユリウス義兄上がお魚四号さんと話していた。


「そなたが魔窟の管理人か。名前は?」

『マーマンの名前は人間には発音できません』

「それでは何と呼べばいい?」

『ロヴィーサ様とエドヴァルド殿下は「お魚四号」と呼んでいます』

「四号? 前に三人いたのか?」

『それは私にもよく分かりません』


 エリアス兄上がお魚四号さんの言葉に首を傾げているが、お魚四号さんも困惑顔である。魚の表情が読めるわけではないが、そんな雰囲気がしたのだ。

 お魚四号さんは僕とロヴィーサ嬢を見て、資料を広げる。


『上層に貫き烏賊が大発生しています』

「貫き烏賊ですか?」

『そばにいるものに突進して貫いてしまう烏賊です。モンスターが近くにいれば攻撃する烏賊ですよ』


 聞いたことのない種類の烏賊の名前に、僕が身を乗り出す。

 突進して貫いてしまうということは、それだけ身が硬いのだろうか。


「身の硬い烏賊ですか?」

『生きているうちは硬くて食べられませんが、死ぬとある程度柔らかくなって、コリコリとした食感で美味しく食べられます。火を通すと柔らかくなります』

「それは美味しそう」


 僕が興味を示していると、ロヴィーサ嬢が微笑む。


「たくさん狩りましょうね」

「はい、食べたいです」


 ロヴィーサ嬢を先頭に、僕、エリアス兄上、ユリウス義兄上、護衛の兵士が下層へ降りていく。

 水の溜まった下層には端に通り道があって、滑らないように気を付けながら歩いて更に下層に降りていく。

 途中でロヴィーサ嬢は蟹と海老を捕まえていた。


 貫き烏賊のいる下層は危険なのでエリアス兄上とユリウス義兄上は入り口での見学となった。

 濡れるのも構わず水の中に入って行くロヴィーサ嬢が、飛びかかって来る貫き烏賊を手で掴んで、次々と仕留めてマジックポーチに入れている。


「モンスターも貫くと言うのに、ロヴィーサ嬢は軽々と捌いている」

「水の中にも躊躇わず入って行きました。勇敢ですね」


 エリアス兄上もユリウス義兄上も感心している。

 発生した貫き烏賊を狙っているのか、巨大な魚のモンスターが出てきたが、それもロヴィーサ嬢はあっさりと仕留めてしまった。


 貫き烏賊を収穫して、巨大な魚のモンスターを肩に担いで水から出てきたロヴィーサ嬢を、僕が風の魔法で乾かす。

 長い髪も綺麗に乾いたロヴィーサ嬢は、化粧も崩れていなくてとても美しかった。


「魔窟の中はこのような感じです。もっと下層へ降りますか?」

「いや、きちんと管理されているのを見て安心しました」

「他の貴族たちにも魔窟を管理するように命じなければいけませんね」

「私が国王になったらその仕事からだな」


 エリアス兄上とユリウス義兄上は国王陛下になってからのことを考えていた。

 魔窟の入口に戻ってくると、お魚四号さんに収穫物を確かめられる。


『貫き烏賊と、海老と、蟹と、魚ですね。量の調整を入れておきます』


 魔窟のモンスターが減りすぎないようにお魚四号さんは管理もしてくれるようだ。魔窟のモンスターを全滅させるのは難しいが、いない方がいいと思っているのがほとんどの領地ではないだろうか。

 しかし、魔窟のモンスターを管理できるようになれば、飢饉のときの食料の備えになる。それが管理人を置く大きな意味になっていた。


 狩りの後でエリアス兄上とユリウス義兄上はミエト家に寄って行った。

 ロヴィーサ嬢が蟹と海老と魚と烏賊を捌き、爺やに特殊処理の魔法をかけてもらってお刺身にする。

 海鮮丼として出てきた蟹と海老と魚と烏賊は、醤油を垂らして食べるととても美味しかった。魚は僕の大好きな白身魚だった。

 どれも新鮮だから身がぷりぷりしていて美味しい。


「晩ご飯はエビフライと蟹雑炊にしましょうね」

「エビフライ大好きです! 蟹雑炊も食べたいです!」


 ロヴィーサ嬢と話して喜んでいる僕に、エリアス兄上が目を細めている。


「エドがこんなに嬉しそうでよかったです。魔窟はエドにとっては必要なものなのですね」

「エド殿下の食料を安定して供給してくれる場所が魔窟なのです。魔族の国では魔窟は太古の魔族が作ったモンスターの養殖場と言われています。管理人を置くのも養殖場だと理解しているからでしょう」

「魔窟が養殖場とは初めて聞きました。エドにとっては必要な場所だったのですね」


 魔族の国に一年間留学していたエリアス兄上も魔窟の本当の意味を知らなかった。それだけ魔窟というのが普通の人間にとっては近寄りがたいものなのだろう。

 お昼ご飯の海鮮丼を食べ終わると、エリアス兄上とユリウス義兄上がロヴィーサ嬢に挨拶をした。


「今日は魔窟について貴重な学びを得られてとてもよかったです。美味しい昼食もありがとうございました」

「魔窟のある領地を持つ貴族への指導を考えさせられましたし、魔窟が飢饉のときの食糧庫となることも気付かされました」

「護衛たちは全く役に立たなかった。ロヴィーサ嬢の素晴らしい戦いぶりも見られました」

「今日は本当にありがとうございました」


 王太子殿下であるエリアス兄上とその配偶者のユリウス義兄上に言われて、ロヴィーサ嬢は恐縮している。


「わたくしでお役に立てたのならばよかったです。いつでも視察においでください」

「また伺います。エドをよろしくお願いします」

「またよろしくお願いします」


 エリアス兄上とユリウス義兄上にロヴィーサ嬢が評価されて、僕はとても誇らしい気持ちだった。


 エリアス兄上とユリウス義兄上を見送ってから、ロヴィーサ嬢と僕は着替えて今のソファで寛いだ。随分暖かくなっているので、冷たいフルーツティーを爺やに淹れてもらって飲む。

 焼き菓子を摘まみながらソファに座って冷たいフルーツティーを飲むのは心安らぐ時間だった。


「エド殿下、わたくしは上手くやれたでしょうか?」

「この上なくうまくやれたと思いますよ」

「よかったです。エド殿下のお兄様にいいところを見せたかったのです」


 微笑むロヴィーサ嬢の健気さが可愛くてならない。


「エド殿下をわたくしに預けても平気だということを見せたかった。エリアス王太子殿下はもうすぐ国王陛下になられます。次期国王陛下に安心していただきたかったのです」

「エリアス兄上は安心したと思いますよ。魔窟の説明もロヴィーサ嬢は立派にできていました」


 普段は控えめなのに、言わなければいけないことははっきりと言うロヴィーサ嬢。そういうところも僕は大好きだ。


 安心している様子のロヴィーサ嬢に、僕も安心してフルーツティーのお代わりを飲んだ。


読んでいただきありがとうございました。

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