20.永遠の話
春になると魔窟のモンスターが大増殖するのだが、今年は魔窟に管理人が置かれたおかげで、増殖しているモンスターを先に狩りに行くことができて、魔窟からモンスターが溢れ出るようなこともなく、周辺住民は非常に平和に暮らしていた。
僕の方は魔窟で増殖しているモンスターを食べることができる。
豚のモンスターを狩って来たロヴィーサ嬢は、僕のためにかつ丼を作ってくれた。
それだけではない、角煮も、塩豚も作ってくれたのだ。
角煮は三枚肉の脂がとろりと蕩けるようで味がよく染みていたし、塩豚はスパイスを塩を擦り込んであってそれだけでも美味しい。
角煮は角煮丼にもなった。
それ以外にも鮭とキノコの包み焼きも美味しかったし、ウナギに似たドラゴンの白焼きも美味しかった。
毎日美味しいものばかり食べている僕は、また背が伸びたようだ。
ロヴィーサ嬢を超えてエルランド兄上やエリアス兄上に近付いてきている気がする。
ロヴィーサ嬢は背が高い方ではない。中背で体付きも華奢だ。ヒルダ姉上の方が背が高くて体付きもがっしりとしている。
そういえばエルランド兄上と婚約するセシーリア嬢も背が高かった。魔族の国のひとたちは背が高くて体付きがしっかりしているのかもしれない。
ダミアーン伯父上もお祖父様もお祖母様も背が高くて、体付きがしっかりとしている。
僕も将来はあんな風になれるのかと期待を持っている。
エルランド兄上の婚約式に、ヒルダ姉上は欠席していた。
欠席の理由を聞けば、父上から説明がある。
「ヒルダに子どもが生まれた。昨日の夜に知らせが届いた。元気な女の子だそうだ」
「ヒルダ姉上に赤ちゃんが生まれたのですね! 今度は女の子!」
「名前はラウラだ」
「ラウラ! 僕の姪っ子ですね」
僕は末っ子で下に弟妹がいないので甥っ子や姪っ子が生まれるのはとても嬉しい。
ミルカは一歳になったばかりだがもうお兄ちゃんになった。
「ラウラに早く会いたいです」
「夏休みに一緒に隣国に行くか?」
「父上も一緒ですか?」
「その頃には私も隠居できているだろうから、孫の顔を見に行ける」
父上がエリアス兄上に王位を譲るときにもヒルダ姉上は式典に出席するだろうが、そのときには忙しいので父上はしっかりとミルカともラウラとも触れ合えないだろう。
ヒルダ姉上も小さな赤ん坊を連れての出席なので、式典が終わればエリアス兄上の結婚式のようにすぐに帰ってしまう。
それならば夏休みに会いに行こうという父上の言葉に、僕はワクワクしていた。
「父上と旅行なんて初めてです」
「国王は国を離れられないからな。これからはエドと一緒に出掛けることもできるようになる。魔族の国へも行こう」
「はい、父上! ご一緒したいです」
親子で旅行ができるなんて、とても嬉しい。
僕はロヴィーサ嬢に了承を取っていなかったので、ロヴィーサ嬢の方を見れば、頷いてくれている。
「国王陛下と旅行ができるようになって、よかったですね、エド殿下」
「ロヴィーサ嬢はよろしかったですか?」
「もちろん、エド殿下のお父上ですからね」
僕が喜んでいるのを自分のことのように喜んでくれるロヴィーサ嬢の心遣いが嬉しい。
僕は夏休みが楽しみだった。
婚約式ではエルランド兄上はセシーリア嬢と並んで父上の前に立った。
父上がエルランド兄上とセシーリア嬢に声をかける。
「エルランド・ナーラライネンはセシーリア・リンネと婚約し、研究課程卒業の暁には結婚をすることを誓うか?」
「誓います」
「セシーリア・リンネはエルランド・ナーラライネンと婚約し、エルランド・ナーラライネンの研究課程卒業の暁には結婚をすることを誓うか?」
「誓います、国王陛下」
「ここに国王の名のもとにエルランド・ナーラライネンとセシーリア・リンネの婚約を認める。二人の婚約と結婚が我が国と魔族の国の懸け橋となることを願っている」
父上の宣言でエルランド兄上とセシーリア嬢の婚約式は成立した。
王家にまた魔族の血が入ることになるのだが、これに関しては僕は心配していない。
セシーリア嬢が嫁いでくるときには、魔族の食材から毒素を抜くことができるようになっているし、母上のようなことは起こらないと分かっているからだ。
「バックリーン家のご家族はおられますか?」
婚約式の後でセシーリア嬢はアルマスたちを呼んでいた。
アルマスとアクセリとアンニーナ嬢がセシーリア嬢の前に出ると、セシーリア嬢が頭を下げる。
「あなたたちの開発してくれた技術のおかげで、わたくしは安心してこの国に嫁ぐことができます。あなたたちの開発した技術は、魔族の国とこの国をより強く結び付けるものです。誠にありがとうございます」
「私たちでお役に立てたのならば幸いです」
「どうか、お幸せに」
「我が国に安心して嫁いでいらしてくださいね」
丁重にお礼を言われてアルマスもアクセリもアンニーナ嬢も緊張しながらもちゃんと受け答えができていた。これがロヴィーサ嬢の教育の成果なのかもしれない。
婚約式が終わると僕はミエト家に帰った。
ミエト家に戻ると着替えて普段着に戻って、ソファに座る。全身から力が抜けていくようだった。
「僕は王城で育ったのに、ミエト家の方がリラックスできるようになっているかもしれません」
「エド殿下が長く暮らすことになるお屋敷ですから、リラックスしていただいた方が安心です」
「僕は……ロヴィーサ嬢よりも長く生きるのでしょうか」
ずっと心に引っかかっていたことを口にすると、ロヴィーサ嬢が微笑む。
「それに何の問題がありましょう?」
「ロヴィーサ嬢が先に亡くなるのは嫌です」
「わたくしは、エド殿下が魔族でよかったと思っているのですよ」
ロヴィーサ嬢は微笑みながら話してくれる。
「母はとても健康で頑丈なひとと思っていたのに、病で呆気なく亡くなりました。ひとはいつ死ぬか分からないとわたくしは実感致しました。魔族は病気に罹りにくく、長命だと聞いています。わたくしは母を失ったときのような悲しい思いはしたくないのです」
ロヴィーサ嬢は僕が長く生きることに関して、肯定的だった。魔族でモンスターの肉を食べている限り病気にも罹りにくく、非常に長命だということを喜んでくれている。
「僕はロヴィーサ嬢が先に亡くなってしまったら、悲しみで生きて行けないかもしれません」
「わたくしも魔族の血を引いているのですよ。恐らくは、普通のひとよりも長命だと思います」
魔族の血を引いているロヴィーサ嬢と、魔族の僕。
末永くずっとずっと一緒にいられればいい。
長く長く共に生きていきたいと願わずにはいられない。
「エド殿下、わたくしの我が儘です。わたくしよりも一日でも長く生きてくださいね」
「僕の方が年下ですし、魔族なのでそうなる可能性が高いです」
「それもわたくしがエド殿下を大好きな理由です」
十五歳でお母上を失ったロヴィーサ嬢にしてみれば、誰かが先に死んでしまうのは絶えられないのだろう。特に婚約者である僕は絶対にそんなことがあってはいけない。
ロヴィーサ嬢の死を看取るのは、僕でなくてはいけない。
僕はそのために長生きをして、ロヴィーサ嬢のそばに居続けなければいけない。
「わたくしは思うのです。この世に永遠なんてありませんが、限りある生の中で、終わりのときに、またエド殿下と次の世があるならば共に過ごしたいと思えれば、それが永遠なのではないかと」
ロヴィーサ嬢の言葉は僕の中に強く響いた。
「僕もロヴィーサ嬢と永遠に共にいたいと思います。次の世があるならば、またロヴィーサ嬢と結ばれて、共に過ごしたい」
「わたくしたち、両想いですね」
頬を赤くするロヴィーサ嬢に僕は強く頷いて、ロヴィーサ嬢の手を握った。
「両想いです。ずっとずっと、僕はロヴィーサ嬢が大好きです」
背中を叩かれて吹っ飛ばされるかと思ったが、ロヴィーサ嬢は顔を赤くしたまま目を伏せて恥じらっているだけだった。その姿が美しく、僕は見惚れてしまった。
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