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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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16.冬の王城の庭

 新年のパーティーも終わって、ミエト家に帰る前に僕はロヴィーサ嬢を誘ってみた。


「庭に散歩に行きませんか?」


 冬の雪が降っている中で、エルランド兄上が母上と一緒に散歩に行ったのを覚えていると話してくれた。僕もエルランド兄上と母上が見た景色を経験したかった。

 僕が誘うとロヴィーサ嬢は快く返事をしてくれる。


「参りましょう。すぐに準備をしてまいりますね」

「僕もコートとマフラーと手袋を取って来ます」


 僕とロヴィーサ嬢の客間は隣り同士だったので、廊下で待ち合わせをして、僕は部屋に入った。


「爺や、庭に散歩に行くんだ」

「外は寒いですからね。お気を付け下さいね」


 爺やに言われて僕は頷く。

 爺やはすぐに僕のコートとマフラーと手袋を用意してくれようとした。そこで僕は気付く。

 僕は今年の夏で十五歳になる。

 ロヴィーサ嬢は身の回りの世話を誰にもさせておらず、自分のことは自分でやっている。僕は爺やに任せっきりでいいのだろうか。


「爺や、僕がやるからいいよ」

「承知いたしました」


 僕が声をかけると爺やは黙って僕を見守ってくれる。

 クローゼットにかけていたコートを取って袖を通し、ボタンを留める。マフラーを巻いて、手袋をつけると、それだけで僕は自分でできた気になってしまった。

 本当ならばもっと幼い頃から自分でやっているのが普通なのかもしれない。病弱で世間知らずな僕は、ずっと爺やに頼りっきりだった。


「爺や、これからは自分のことはできるだけ自分でしようと思う」

「エドヴァルド殿下、ご立派です」

「もう十五歳になるんだから、それくらいできないと恥ずかしいよね」


 ロヴィーサ嬢が十五歳のときにはどうだったのだろう。

 十五歳と言えばロヴィーサ嬢がお母上を失った年だ。


 僕は母上の記憶がないから、最初からいないものだと思って過ごしているので、寂しいときはあるが、母上を失った感覚はない。ロヴィーサ嬢はお母上を僕の年で失っている。

 記憶と思い出がある方が悲しいのだと僕は知っていた。


 廊下に出るとロヴィーサ嬢はコートを羽織って、マフラーと手袋を手に持っていた。

 そこで僕は気付いてしまった。

 王城の客間から庭に出るまでにはかなりの距離を歩かなければいけない。

 その間きっちりとコートのボタンを閉めて、マフラーを巻いて、手袋まで付けていたら熱いのだ。


「気付かなかった……熱い……」


 暖房の利いた王城の中を歩いていると熱くなって汗をかいてきた僕に、ロヴィーサ嬢が手を伸ばす。華奢な綺麗な指が、僕の首からマフラーを解いて、手から手袋を外した。


「コートも前を開けていれば少しは違いますよ」

「ありがとうございます、ロヴィーサ嬢」


 自分のことは自分でできるようになろうと思っていても、ロヴィーサ嬢が僕のことをしてくれるのは純粋に嬉しい。コートの前を開けると、ロヴィーサ嬢はマフラーと手袋を手渡してくれた。

 受け取って片手に纏めて持ってからロヴィーサ嬢に手を差し出す。

 ロヴィーサ嬢は僕の手を握ってくれた。


 手を繋いで庭までの長い廊下を歩く。

 僕とロヴィーサ嬢を見かけても、誰も声をかけて来ない。遠慮してくれているのだろう。


 庭に出ると寒さで息が白くなった。

 粉雪が降っていて、地面には白い雪が積もっている。

 僕はマフラーを巻きなおし、手袋をつけた。ロヴィーサ嬢もマフラーを巻いて手袋をつけて、コートの前を閉じている。


 剥き出しの耳が冷たくて痛かった。

 じんじんと痛む耳を手袋で押さえると、ごーっと音がする。風の音が耳を押さえたことで響いて聞こえたのだ。


「寒いですね」

「エルランド兄上と母上は、この中を歩いたのでしょうか」

「庭の木々は変わっていないはずですから、同じ風景が見られますね」


 僕の呟きにロヴィーサ嬢が答えてくれる。

 父上は母上が亡くなってから、母上の好きだった庭は整えさせている以外に手は入れていないと言っていた。

 赤い南天の実が雪の中で実っている。


「綺麗な赤ですね」

「ロヴィーサ嬢は雪だるまを作ったことがありますか?」

「ありますよ。エド殿下は?」

「僕はないのです」


 病弱ですぐに体調を崩すから、僕は冬場に外に出られるような子どもではなかった。雪だるまを作って遊ぶ時期を完全に逃してしまった。


「小さな雪だるまをつくりましょうか? 南天の実を目にしましょう」

「いいですね」


 ロヴィーサ嬢の提案に乗って、僕は雪玉を丸め始めた。

 ロヴィーサ嬢が体の部分を作って、僕が頭の部分を作る。ボールくらいの大きさの体の雪だるまが出来上がった。


「エド殿下が目をつけてください」

「南天の実を使うのですね。これでいいかな?」


 南天の実を使って僕が雪だるまに目をつけると、ロヴィーサ嬢がその雪だるまを踏まれないように木の陰に立たせていた。


「雪兎も作りましょう」

「雪兎はどうやって作るのですか?」

「こんな風に雪を山型に固めるのです」


 雪を山型に固めて、南天で目をつけて、葉っぱで耳をつけた雪兎は可愛くて持って帰りたいくらいだった。


「持って帰ったら溶けますよね」

「残念ながら持って帰るのは無理ですね。南天の実を幾つかもらって行って、ミエト家の庭でも作りますか?」

「それはいい考えですね」


 持って帰りたい僕にロヴィーサ嬢が代替え案を出してくれる。

 僕は南天の実を幾つかもらってマジックポーチに入れておいた。


 雪遊びも終えてゆっくりと庭を歩いて回る。

 木々は葉を落としているものも、静かに雪を被っているものもある。


「春にはまた来ましょう」

「桜とチューリップが楽しみですね」


 春にもこの庭で散歩をしたい。

 僕がロヴィーサ嬢に言えば、ロヴィーサ嬢は快く賛成してくれた。


 ミエト家に帰るとアルマスがアクセリとアンニーナと新年の挨拶に来てくれていた。王城にも呼ばれていたが、パーティーが終わって帰って、それからミエト家に来てくれたのだろう。


「明けましておめでとう、エドヴァルド殿下」

「おめでとう、アルマス、アクセリ、アンニーナ」


 僕が挨拶をすると、ロヴィーサ嬢がそっと僕に囁く。


「アンニーナ様は年齢は下ですが、貴族の淑女ですので、呼び捨てはまずいかもしれません」

「あ、そうでした。アンニーナ嬢」


 アンニーナ、もとい、アンニーナ嬢も淑女教育を受けて、頑張っているのだからレディとして扱わなければいけない。アルマスは僕の学友だし、アクセリはその弟なので気にしていなかったが、アンニーナ嬢はレディなのだから相応しい接し方があった。


「エドヴァルド殿下にそう呼ばれると気が引き締まります」

「アンニーナ嬢は立派な淑女になりましたね」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 最初に出会ったときとアンニーナ嬢は全く違っていた。平民の無邪気な少女から、淑女に変わっている。


「エドヴァルド殿下、アンニーナは猫被りが上手くなっただけだよ」

「兄上、失礼なことを言わないでください」

「家では気を抜いててすごいんだからな」

「アルマス兄上!」


 アルマスにアンニーナ嬢は眉間に皺を寄せていた。この辺りは年相応の女の子だ。


「にゃんたの件なのですが、大根一号と人参二号と蕪三号の教育がうまくいっていて、大人しいいい子に育っています」

「体はとても大きいですが、甘えん坊の可愛い子猫です」


 アクセリとアンニーナ嬢がリンクスのにゃんたのことについて話してくれる。


「自分のことをマンドラゴラと思っているのか、時々庭に穴を掘って埋まっています」

「マンドラゴラたちが水浴びをするので、喜んで水にも入っていきますし、庭の葉っぱを頭に乗せてマンドラゴラになった気になっているようです」


 にゃんたは自分のことをマンドラゴラと思って育っていた。

 マンドラゴラに育てられたリンクスだから仕方がないのかもしれない。


「バックリーン家でにゃんたが危険なことがなく育っているならよかったよ」

「にゃんたのことは俺とアクセリとアンニーナが責任をもって育てるよ」


 にゃんたの成長も聞けて、僕は安心していた。


読んでいただきありがとうございました。

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