11.父上のお誕生日とめでたい知らせ
父上のお誕生日に、ヒルダ姉上から嬉しい知らせがあると聞いて、僕は思い当たることがあった。
ミルカも次の春で一歳になる。そろそろヒルダ姉上が次の子どもを妊娠してもおかしくはない時期だった。
父上のお誕生日にはエルランド兄上も魔族の国から帰ってくる。
お誕生日前に帰って来たエルランド兄上とヒルダ姉上の重大発表のために、僕は高等学校から帰ったらロヴィーサ嬢と一緒に王城に行っていた。
王城では父上とヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上が揃っていて、なぜかダミアーン伯父上まで一緒にいる。
ヒルダ姉上はミルカを乳母に預けてきたようだ。
「何かあったのですか?」
僕が問いかけると、ダミアーン伯父上は苦い顔をしていた。
「エルランドから聞いてくれ」
「エルランド兄上に何か?」
気になってエルランド兄上の方を見れば、エルランド兄上は父上とヒルダ姉上とエリアス兄上と僕の顔を見渡して、ゆっくりと告げた。
「私は運命に出会いました」
「エルランド兄上が魔族の国で運命に出会ったのですか?」
「そのひとは誰なのだ、エルランド」
「教えてください、エルランド」
僕が驚いていると、父上とヒルダ姉上が身を乗り出して聞いている。エルランド兄上は静かに答えた。
「魔族の国の宰相閣下の御令嬢です」
「魔族の国の宰相閣下の御令嬢……なにぃ!?」
「ご存じなのですか、父上?」
「どのようなひとですか?」
顔を歪める父上に、ヒルダ姉上とエリアス兄上が問いかける。父上はダミアーン伯父上を見た。
「ダミアーン殿が来ていたのはそのためだったのだな」
「そうなのだ、エンシオ殿。彼女にエルランドは心を奪われてしまったのだ」
どうやらエルランド兄上の好きな相手は、父上もダミアーン伯父上も知っている人物のようだ。
僕が説明を待っていると、ダミアーン伯父上が口を開く。
「ディアナ・ベルキ嬢。ベルキ宰相の御令嬢だ。エンシオ殿が魔族の国に留学していた頃に、私と婚約の話が持ち上がっていた」
「ダミアーン伯父上と婚約ですか!?」
「そうだ。彼女は私より少し年下だが、エンシオ殿と同じくらいの年齢だ」
それを聞いてしまうと僕はエルランド兄上を応援していいのか迷ってしまう。しかも、ディアナ嬢はダミアーン伯父上の言い方では、婚約を断られたのではないだろうか。
「私が婚約を断ってから、ずっと誰とも結婚しないと言い続けている御令嬢だ。エルランドからも申し込まれているが、断っている」
「断られてはいますが、ディアナ嬢は私の贈り物を受け取ってくださっています。時間をかければきっと心を開いてくれるはずです」
「エルランド……なんという相手を選んでしまったのだ……。家柄は申し分ないが、年齢があまりにも離れているし、ディアナ嬢は結婚しないと宣言しているそうではないか」
「父上、私が必ず口説き落として見せます。私は本気なのです」
エルランド兄上の惚れた相手は難攻不落の魔族の国の宰相家の御令嬢。年齢は親子ほど離れているが、相手は魔族で長命なので問題はないだろう。問題は、相手が結婚をしないと宣言していることだ。
「一目見た瞬間から運命を感じたのです。私は諦めません」
エルランド兄上がこうなると何を言っても無駄だということは分かり切っているので、父上はもう諦めた表情だった。
「ダミアーン殿、エルランドを見守ってやってくれ」
「分かった。エンシオ殿、いい方向に向かうといいな」
「そうだな。ありがとう、ダミアーン殿」
父上とダミアーン伯父上が話しているのを聞いて、僕は先日のアルマスとヘンリッキの喧嘩を思い出した。
「僕の学友のアルマスとヘンリッキが喧嘩をしたのです。アルマスが僕に対して敬語を使わないということで。父上とダミアーン伯父上も敬語は使い合っていませんよね」
「私とダミアーン殿は魔族の国で学友だったのだ」
「学友で王族同士で敬語を使うことはない。エンシオ殿は妹を嫁がせてもいいと思ったくらいの親友だ。今もエンシオ殿とは親しくしている」
父上とダミアーン伯父上も学友だからお互いに砕けた口調で喋っていた。やはり学友とはこれでいいようだ。
「父上、エリアス、エルランド、エド、ダミアーン伯父上、ロヴィーサ嬢も聞いてください。赤ちゃんができました。二人目です」
ヒルダ姉上の報告は素直に喜べるものだった。
父上がそれを聞いて目を細めて喜んでいる。
「私にも二人目の孫ができるのか。今度は男の子かな、女の子かな。どちらでも健康に生まれて来てくれればそれでよいが」
「わたくしはミルカが男の子なので、女の子が欲しいと思っているのです。こればかりはわたくしが決められることではございませんが」
まだ目立たないお腹を押さえて、ヒルダ姉上は幸せそうだった。
「ヒルダ殿下、誠におめでとうございます」
「ありがとうございます、ロヴィーサ嬢。エドと一緒に隣国にも遊びに来てくださいね」
「喜んで行かせていただきます」
お祝いを言うロヴィーサ嬢に、ヒルダ姉上は手を取ってロヴィーサ嬢の瞳を見詰めていた。
「私の誕生日にヒルダの妊娠が知らされるとは、この上ない幸せだな。ヒルダ、体を大事にするのだよ」
「はい、ミルカも可愛がりながら、体を大事にして出産に備えます」
「ヒルダ、おめでとう。出産は命懸けという。くれぐれも無理をしないように」
「はい、ダミアーン伯父上」
父上もダミアーン伯父上もヒルダ姉上の体のことを心配していた。
翌日の父上のお誕生会は、家族だけで行われる。
国民に対しては、王城のバルコニーから手を振り、挨拶をした父上は、家族だけの食卓についた。
ヒルダ姉上の夫のカスパル義兄上と息子のミルカも、エリアス兄上の婚約者のユリウス様も、僕の婚約者のロヴィーサ嬢も同席している。
今日のお誕生日にあたって、ロヴィーサ嬢は父上からお願いをされていた。
「ロヴィーサ嬢、私のお誕生日には料理を作ってくれまいか?」
「わたくしでよろしいのですか?」
「ロヴィーサ嬢の料理ならばエドも喜んで食べる。家族の皆が楽しく食べられるものを食卓に並べたいのだ」
「心得ました」
ロヴィーサ嬢は父上の願いを叶えるべく、厨房で忙しく働いていた。
僕もロヴィーサ嬢の手伝いをする。
蛸のカルパッチョに、蟹クリームコロッケのトマトソースかけ、ラザニア、ジャガイモのポタージュスープと、出来上がる料理に僕は食べたくてたまらない。
食卓に並べられた料理に、父上もヒルダ姉上もカスパル義兄上も、エリアス兄上もユリウス様も、エルランド兄上も目を丸くしている。
「んまー! んまっ! んまっ!」
テーブルをバンバンと叩いて欲しがっているミルカと、僕は同じ心境だっただろう。
ミルカはまだ大人と同じものは食べられないので、離乳食と、蟹クリームコロッケの中身を少しと、ラザニアを少しもらっていた。
全てモンスター由来の食材と魔力のこもった食材だが、毒素は抜いてあるので安心して食べられる。
どれも大量にあったので、僕は遠慮なくお皿にとって食べていた。
「エドは毎日こんなに美味しいものを食べているのか」
「エドは本当に果報者ですわ」
「エドも手伝ったんだよね。とても美味しいよ」
「ロヴィーサ嬢、美味しいです、ありがとうございます。
父上もヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も、ロヴィーサ嬢の料理を絶賛していた。
「蛸や蟹がこんなに美味しかったなんて知りませんでした」
カスパル義兄上の住む隣国では蛸や蟹はあまり食べられていないようだ。カスパル義兄上は初めて食べたと喜んでいた。
「父上、春にユリウスと結婚式を挙げようと思っております」
「遂に結婚か。おめでとう、エリアス」
「国王陛下、エリアス殿下を必ずや幸せに致します」
「そんなに気張らずに、共に仲良くしてくれればよい」
エリアス兄上からは結婚の報告が飛び出た。
これからおめでたいことが続きそうだ。
「エドヴァルド殿下、私のことも義兄と呼んでいただけますか?」
「それでは、僕のことはエドと呼んでください、ユリウス義兄上」
「はい、エド殿下」
ユリウス義兄上から言われて、僕は自分の呼び方も変えてもらうようにお願いする。
お腹いっぱいロヴィーサ嬢の料理を食べたら、ロヴィーサ嬢の作ったケーキが出てきた。
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