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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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9.迷い込んで来た猫

 ミエト家の庭に子猫がいた。

 正確には、子猫が倒れていた。


 ロヴィーサ嬢はよく庭で狩ってきたモンスターを捌く。厨房には入りきれない大きさのモンスターも少なくないからだ。

 地面の上に巨大なシートを敷いて、その上でモンスターを捌いて、残った血や肉片は処理をしてからシートを洗って干しておく。

 ロヴィーサ嬢も充分に気を付けているのだが、それでも小さな肉片が残っていて庭に落ちていることがある。


 ミエト家の庭に入り込んだ子猫は、それを食べてしまったようなのだ。

 吐いたものが地面に散っていて、泡を吹いて痙攣している。


「ロヴィーサ嬢、子猫が死んでしまいます!」

「エド殿下、アルマス様のところに連れて行きましょう」


 僕は魔法石を使ってアルマスのお屋敷まで飛んだ。子猫は手の中で今にも死んでしまいそうだ。

 出てきたアルマスに事情を話す。


「ミエト家の庭に子猫が入り込んでいたんだ。モンスターの肉を食べてしまったらしい」

「それはまずいな。毒素を中和しないといけない」


 アルマスはすぐに処置に取り掛かった。

 アルマスとアクセリとアンニーナの研究室になっているであろう部屋で、マンドラゴラの葉と薬草を調合して、子猫に飲ませる。ぐったりとしている子猫を抱くアルマスの周囲で、大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号が歌いながら踊っていた。


 子猫はしばらくぐったりとしていたが、目を開けて「なぅん」と鳴いてアルマスに身体を擦り付ける。どうやら毒素は抜けたようだ。

 安心していると、アルマスが難しい顔をしている。


「この子猫、親は近くにいたか?」

「いや、いなかったよ」

「そうか。それなら、親に見捨てられたのかもしれないな」


 親猫に見捨てられて、お腹が空いてミエト家に入って来た子猫は、モンスターの肉を食べて死にかけた。

 あまりに酷い境遇に胸を痛めていると、アルマスが僕に聞く。


「この子猫、どうする?」

「どうするって?」

「野良猫にするわけにはいかないだろう」


 言われてみればその通りだ。

 まだ身体も小さいのに親に見捨てられた子猫が一匹で生き延びられる確率は非常に低いだろう。

 僕がロヴィーサ嬢を見ると、ロヴィーサ嬢は迷っているようだ。


「猫を飼うとなると、モンスターの処理をこれまで以上に気を付けなければいけません。庭の家庭菜園も、猫には毒になるものが大量にあります」

「ミエト家で飼うのは難しいのですね」

「残念ながらその通りです」


 僕とロヴィーサ嬢とアルマスで悩んでいると、アクセリとアンニーナが帰って来た。二人とも幼年学校に行っていたようだ。

 元気に帰って来たアクセリとアンニーナは子猫を見ると夢中になった。


「兄上、とても可愛いです」

「兄上、うちで飼いましょう」


 アンニーナに抱っこされて撫でられている子猫は目を細めて幸せそうな顔をしている。


「そうだな。俺のうちなら安全だし、俺もずっとペットが欲しかったんだよな」


 アルマスの言う通り、以前にアルマスは言っていた。

 ペットを飼いたかったが、家が借家なので飼うことができないと。

 ペットとして大根マンドラゴラの大根一号と、人参マンドラゴラの人参二号と、蕪マンドラゴラの蕪三号を飼っているが、本当にアルマスが飼いたかったのは犬や猫などのペットだった。


「兄上、私、父上に相談してみます」

「わたくしも、父上と母上にお願いします」


 子猫は無事にアルマスの家の飼い猫になりそうだった。


 それにしても、尖った耳に不思議なまだら模様の子猫。普通の子猫よりも脚が太いような気がする。

 お腹を空かせているのか、アクセリとアンニーナが茹でた鶏肉を上げると、がつがつと食べていた。


 アンニーナは週に一回アクセリと一緒に淑女のマナーを学びにミエト家に来ている。そのときにアルマスも来るのだが、子猫について疑問を抱いているようだった。


「あれ、本当に猫なんだろうか」

「何か猫と違うところがあった?」

「ジャンプ力があるし、脚も太いし、身体も大きくなってる気がするんだよな」


 僕もあの子猫はただの子猫ではないのではないかと思っていたので、アンニーナがロヴィーサ嬢の教育を受けている間に、書庫で調べてみる。

 動物の図鑑を取り出すと、でかでかと描いてあった。


「リンクス? リンクスってアレか?」

「山猫だね。ものすごく大きくなるやつ」


 アルマスが育てているのとそっくりの柄の猫が山猫の項目に描かれている。

 モンスターの肉を躊躇いなく食べたのもおかしいと思っていたが、あの子猫はただの猫ではなく山猫だったようだ。


「野生に返す?」

「いや……アンニーナもアクセリも可愛がってるし、俺も可愛いと思ってるし……」

「大きな猫は危険だって言うよ?」


 僕がアルマスを心配すると、アルマスは真剣な表情で大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号に話しかけ始めた。


「お前たち、にゃんたを教育するんだ!」

「びゃい!」

「びょえ!」

「びょわ!」


 リンクスにはアルマスはにゃんたと名前を付けたようだ。


「絶対にひとを傷付けないように、飼い猫としての自覚を持たせるんだ」

「びゃい!」

「ぎょわ!」

「ぎょえ!」


 大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号は、やる気のようだ。

 どんな動物も育て方によって変わってくるという。

 リンクスもアルマスとマンドラゴラたちが頑張れば飼えるようになるだろう。

 そうなることを僕は願っていた。


 居間ではアンニーナがソファに座って背筋を伸ばして本を読んでいた。脚の形が崩れないように、アンニーナは一生懸命保っている。その隣りでアルマスも同じように姿勢よく座っていた。


「ロヴィーサ嬢は?」

「おやつの準備をしに行きました」

「行かれました、じゃないの?」

「あ、そっか。おやつもいけないのかな?」

「おやつはおやつ以外に言い方ないよね」


 僕が問いかけると、アンニーナが答える。アクセリがそれを訂正して、アンニーナとアクセリでおやつの言い方も考えている。


「何かを口に出すときに、この言い方でいいのかワンクッション置けるようになっただけでも成長してると思うよ」

「ありがとうございます、エドヴァルド殿下」


 僕が褒めるとアンニーナは優雅に頭を下げた。お辞儀の仕方も上手になった。


 ロヴィーサ嬢と爺やがおやつを持ってくる。

 今日のおやつはプリンだった。

 大きな四角いプリンを、ロヴィーサ嬢が欲しいだけ切って分けてくれる。


「大きいのをください」

「わたくしも、大きいのを!」


 アクセリもアンニーナも大きなプリンを前に遠慮などない。


「僕も大きいのが欲しいです」

「俺は普通でいいかな」


 僕は大きいのをお願いして、アルマスは普通の大きさのをお願いしていた。

 ロヴィーサ嬢がプリンを切ってお皿に乗せて渡してくれる。スプーンで掬って食べると硬めのプリンとカラメルのほろ苦さがとても美味しい。

 季節も冬になっていたので、紅茶は温かいものにミルクを入れて飲んだ。


「アクセリ、アンニーナ、話さないといけないことがある」

「なんですか、兄上?」

「大事なお話ですか?」


 アルマスはにゃんたのことをアクセリとアンニーナに話すつもりだ。


「にゃんたは普通の猫じゃない。多分、リンクスという山猫だ。将来はとても大きくなるだろう」

「大きい猫! 素敵!」

「リンクスって、子爵家になる前に近所の鶏を襲ってた山猫ですか?」

「アンニーナ、安易に喜ぶな。アクセリ、その通りだ。大きくなれば鶏の小屋を破って鶏を襲うようなことができる猫だ」


 アンニーナは無邪気に喜んでいるが、アクセリは事の深刻さに気付いたようだ。


「それじゃ、にゃんたを飼えないの?」


 アルマスの言葉にアンニーナがショックを受けている。

 それに関して、アルマスは丁寧に説明をしていった。


「にゃんたの行動は大根一号と人参二号と蕪三号に見守ってもらう。アクセリとアンニーナはにゃんたが絶対に屋敷の外に出ないように気を付けて欲しい。にゃんたが誰かを傷付けたら、処分することになってしまう」

「処分!? 殺してしまうの!?」

「そうならないように、気を付けるんだ」

「分かったわ。わたくし、にゃんたをしっかり見守ります」

「私も気を付けます」


 処分という言葉に愕然とするアンニーナに、アルマスが言えば、アンニーナもアクセリも覚悟を決めたようだった。


 アルマスの家には、リンクスが飼われるようになった。


読んでいただきありがとうございました。

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