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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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8.僕の呼び方

 ブラッドソーセージはドラゴンの血を調味料と混ぜて、腸詰にして茹でることで作れる。

 レバーペーストはドラゴンのレバーを玉ねぎやニンニクやオリーブオイルや白ワインなどと合わせて煮て、滑らかになるまで攪拌して作る。

 ベーコンはドラゴンの肉を塩漬けにして一週間寝かせて、塩を抜いてから燻製にして作る。


 レシピ通りにロヴィーサ嬢と僕はブラッドソーセージとレバーペーストとベーコンを作った。

 ブラッドソーセージは焼くと真っ黒になって食べるのに勇気が必要だったが、食べてみると少し癖があるが美味しかった。

 レバーペーストは臭みを上手に消してあって、カリカリに焼いたパンにつけてどれだけでも食べられそうだった。

 ベーコンは料理に使ったり、卵と焼いたりしているが、香りがよくてとても美味しい。


 魔窟の調査で手に入ったものは、どれも美味しいものばかりで、僕は満足していた。


「定期的に魔窟の調査に行かなければいけませんね。周辺住民のためにも」

「そうですね。そのたびに僕は美味しいものを食べられる……」

「はい、エド殿下のためにも行きましょうね」


 すっかり魔窟の調査に味を占めてしまった僕は、美味しいものを想像して幸せな気分になっていた。


 次の週末に父上とエリアス兄上のところに行くと、ロヴィーサ嬢はお褒めの言葉をいただいていた。


「ロヴィーサ嬢は魔窟のある土地を見事に治めていると聞いている。ハーヤネン家が治めていた頃には、魔窟から溢れ出したモンスターで死者が出たこともあった」

「ロヴィーサ嬢のおかげであの土地は安泰ですね」


 褒められてロヴィーサ嬢が目を伏せて頭を下げる。


「わたくしは領主として当然のことをしたまでです」

「ロヴィーサ嬢が狩って来てくれたモンスターは全部とても美味しかったです。僕はお腹がはちきれるかと思いました」

「エドヴァルド殿下の食事のためでもありましたから」


 僕が言葉を添えると、ロヴィーサ嬢は慎ましく目を伏せている。横からロヴィーサ嬢を見ていると、長い睫毛が影を落としてとても美しい。


「エドのお腹も満たしてくれて、領民の安全も守る。素晴らしき当主だな」

「尊敬します、ロヴィーサ嬢」


 父上もエリアス兄上もロヴィーサ嬢を手放しで褒めていて、僕は自分のことのように鼻が高かった。


「エド、最近は何を食べさせてもらっているのかな? 私に教えてよ」

「お刺身をご飯を乗せた海苔で巻く、手巻き寿司というのをしました。それにドラゴンの血で作るブラッドソーセージに、レバーペースト、ベーコンも作って食べました」

「手巻き寿司か。食べたことがないな。ブラッドソーセージも初めて聞く。レバーペーストやベーコンも自分たちで作れるのだな」

「そうです。ロヴィーサ嬢が燻製器を庭に作ってしまったのです」


 エリアス兄上の疑問に僕は答える。

 燻製器のことについては、僕も驚いていた。

 ベーコンは燻製にしなければいけないが、そのためには特別な燻製器がいる。それをロヴィーサ嬢は庭に作らせて、これから何でも燻製にできるようにしたのだ。


「燻製器? それはベーコン以外にも使えるのかな」

「他にも、チーズやゆで卵や魚も燻製にすると美味しいと聞きました」

「魚の燻製は、スモークサーモンを食べたことがあるけど、あれは美味しかったね」

「僕もスモークサーモンを食べられるようになるのです」


 普通のひとが食べるものを僕も処置すれば食べられるようになっていたから、どんな食材も食べられないわけではないけれど、ロヴィーサ嬢が作ってくれるものは特別だ。

 ロヴィーサ嬢と一緒に作ったものは魔力がこもっているし、他のものよりも美味しく感じる。


「エドに色んなものを食べさせてくれているようだな。ロヴィーサ嬢はどうしてそんなに様々な料理を知っておるのだ?」


 父上の疑問ももっともだ。僕もロヴィーサ嬢に打ち明けられるまでは、どうしてロヴィーサ嬢がこんなに多彩なレシピを知っているのか不思議だった。


「わたくしの曽祖父は召喚魔法が使えました。それは、どんな国、どんな世界のどのような調理法であろうともレシピを召喚できるというものでした。曾祖父が残した手記が、我が家の書庫には大量にあって、わたくしはそれを使っているのです」


 ロヴィーサ嬢が説明すると、父上は深く頷いて納得している。


「やはり魔族の魔法とはすごいものだな。これからも、そのレシピを使って、エドに美味しいものをたくさん食べさせてほしい」

「はい、わたくしのできる限りのことを致します」

「それと……私たちにもたまには料理を振舞って欲しい」


 父上の願いに僕は目を輝かせて父上を見る。

 去年の年越しからロヴィーサ嬢は王城の厨房を使うことを許されていた。

 今年の年越しも王城で過ごすのならば、ロヴィーサ嬢が全員の料理を作ることになるのだろうか。


「それはロヴィーサ嬢が大変ではありませんか?」


 エリアス兄上は心配してくれているが、ロヴィーサ嬢はゆるゆると首を振る。


「同じ料理を作るのならば、二人分も、五人分もそれほど変わりません。喜んでお引き受けいたします」

「それでは、年末にはエドと一緒に王城に泊りに来てくれるな? 厨房が使えるようには、私が話を通しておく」


 ロヴィーサ嬢は大変ではないと答えて、父上の一言で年末の予定が決まった。


「父上とエリアス兄上とエルランド兄上と、同じものを食べられるのですね」

「年に一度くらいいいだろう?」

「嬉しいです。ロヴィーサ嬢の苦労が減るように、僕も厨房で手伝います!」

「エドの手料理か。それも楽しみだな」


 普段から僕もロヴィーサ嬢の料理を手伝っている。

 ほとんど手際のよいロヴィーサ嬢がしてしまうが、少しくらいは僕にもできることがある。


「エドヴァルド殿下、手伝ってくださってよろしいのですか? ご家族の時間を持ちたいのでは?」

「父上とエリアス兄上とエルランド兄上に、僕も料理を振舞いたいのです」

「それならば、喜んでお手伝いをお願いします」


 僕とロヴィーサ嬢が話していると、父上とエリアス兄上がロヴィーサ嬢に優しく語り掛けた。


「ロヴィーサ嬢は普段はエドのことを、『エドヴァルド殿下』ではなく、『エド殿下』と呼んでいるのではないかな?」

「はい、エドヴァルド殿下がそうして欲しいと望んでくださって、わたくしもそう呼びたかったので、エド殿下と呼ばせていただいています」

「父上や私たちといるときは、ロヴィーサ嬢はエドの婚約者なのだし、家族のようなものでしょう」

「そうだな、エリアス。ロヴィーサ嬢、私たちといるときも、エドのことは『エド殿下』と呼んで構わない」


 父上やエリアス兄上はロヴィーサ嬢にしてみれば国王陛下と王太子殿下だ。そんな二人の前で、王子である僕のことを親し気に「エド殿下」と呼ぶのはロヴィーサ嬢も憚られたのだろう。

 これまではずっと「エドヴァルド殿下」と呼び直していた。

 それが、父上とエリアス兄上に、「エド殿下」と呼ぶことを許される。


「よろしいのですか?」

「私たちもエドのことは親しみを込めて、エドと呼んでいる」

「ロヴィーサ嬢はエドの婚約者なので遠慮なさらないでください」

「もちろん、公の場では『エドヴァルド殿下』と呼んでもらうことになるがな」

「私と父上とエルランドとヒルダ姉上の前くらいではいいのではないですか」


 促されてロヴィーサ嬢が頭を下げる。


「それではお言葉に甘えて、今後、『エド殿下』と呼ばせていただきます」

「ロヴィーサ嬢は息子の妻になるひとだ。そのひとがエドと仲睦まじいところが見られて嬉しい」

「エドもそっちがいいだろう?」


 エリアス兄上に問いかけられて、僕は「はい!」と元気よく返事をした。


 ロヴィーサ嬢も父上とエリアス兄上と家族になったようで僕はとても嬉しかった。

読んでいただきありがとうございました。

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