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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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6.エリアス兄上とエルランド兄上のお誕生日

 エルランド兄上がお誕生会のために帰国した。

 王城に戻る前に、エルランド兄上はミエト家に寄ってくれていた。


「ダミアーン伯父上と私からのお土産です。受け取ってください」


 箱を渡されたロヴィーサ嬢が中を確認するとぎっしりとグレープフルーツが入っていた。僕は普通の果物も食べられるようになったけれど、魔力を補いつつ食べられる果物は、魔族の国から輸入しなければ手に入らないので、これはとても嬉しいお土産だった。


「ありがとうございます、エルランド兄上」

「大事に使いますね、エルランド殿下」

「私はエドが美味しいものをたくさん食べている姿を見るのが大好きなのです。エドは食べたくても食べられない時期がありました。それをロヴィーサ嬢の元で取り戻している。エドにたくさん食べさせてあげてください」


 エルランド兄上の優しい心に僕は涙が出そうだった。


 小さい頃から僕は食べられるものが限られていて、その少ない食材の中で、少しの栄養しか摂ることができなくて、ずっと栄養不良でお腹を空かせて苦しんでいた。

 その当時はヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上も僕と同じものを食べられると知らなかったし、父上は僕と同じものを食べられるようにする技術が開発されていなかったので、厨房に僕のための食材はほとんど置かれていなかった。

 それは僕のための食材が普通の人間には毒となりうるからで、父上やヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上の命を守るために仕方がなかったのだ。


 普通の人間の食べるものを食べても栄養にならないし、酷いときには吐いてしまう。もっと酷いときには体に害になって寝込んでしまうような状態で、僕はずっと孤独感を抱えていた。

 僕だけが姉上とも兄上たちとも違う。

 僕はこのまま死んでしまうのではないかと考えたことも少なくはない。


 献身的な爺やの助けと、ヒルダ姉上が自ら冒険者ギルドに出向いて仕入れて来てくれるモンスターの肉で僕は何とか命を繋いでいた。


 それも昔の話。

 今は僕は父上と同じものを食べられるし、父上も僕と同じものを食べられる。

 ロヴィーサ嬢のお父上とも食卓を共に囲むことがあるくらいなのだ。


 食事を共にすることに関して、僕は強い執着を持っていた。


「ハーヤネン家で全ての料理をエドに食べられるように処置したみたいだね。父上は、その上を行くことをしようとしているよ」

「え? 何ですか、エルランド兄上?」

「モンスターの肉と魔力のこもった食材から毒素を抜いて、それで会場中の料理を用意させるみたいなんだ」


 エルランド兄上から話を聞いて僕は驚いてしまった。

 ハーヤネン家のヘンリッキのお誕生日会では、普通の人間の食べるものを魔族が食べられるように処置した。

 王城のエリアス兄上とエルランド兄上のお誕生会では全く逆のことをしようとしている。

 魔族が食べるモンスターの肉や魔力のこもった食材を、普通の人間が食べられるように処置して料理しようというのだ。


「僕一人のために、会場中の料理が変えられるのですか?」


 そのことに軽い罪悪感を覚える僕に、エルランド兄上は明るく言う。


「これは王家からのメッセージなんだ。飢饉の際にはモンスターの肉や魔力のこもった食材を国中で食べることができるようにする。それを私とエリアス兄上のお誕生会で示すんだ」

「飢饉の際にどのようなものを食べるのか、貴族たちに示すのですね」

「そうだよ、エド。これはエドのためだけじゃない。国の事業なのだよ」


 エルランド兄上に説明してもらうと僕も納得できる。

 僕は魔力のこもった料理を食べられるし、出席した貴族たちはモンスターの肉や魔力のこもった食材がどのようなものかを知ることができる。

 確かにそれは必要なことだった。


「エルランド兄上とエリアス兄上のお誕生会が楽しみです」

「エドは遠慮なくいっぱい食べていいからね」


 優しく僕に微笑むエルランド兄上に、僕は深く頷いた。


 エリアス兄上とエルランド兄上のお誕生会で、僕はスーツを新調した。背が伸びていたので、スーツが入らなくなっていたのだ。


「もうすっかりわたくしよりも大きくなられましたね」

「ロヴィーサ嬢をお姫様抱っこできるくらい大きくなりたいのです」

「え!? お姫様抱っこですか!?」

「結婚式のときに、ロヴィーサ嬢を抱き上げてミエト家に入りたいのです」


 結婚式のときには、僕はロヴィーサ嬢をお姫様抱っこしてミエト家に戻って来たい。その話をすると、ロヴィーサ嬢は顔を赤くしている。


「お待ちしています」

「はい。きっとできるようになります」


 少し俯いて顔を隠すロヴィーサ嬢は慎ましくて美しくて、僕は見惚れてしまった。


 淡い紫のドレスを着て、豪奢な長い黒髪を巻いているロヴィーサ嬢はとても美しい。深い海のような青い目が、穏やかに僕を見ている。

 僕が手を差し出すと、自然とロヴィーサ嬢はその手を握ってくれた。


 手を繋いで王城にやってきた僕とロヴィーサ嬢に、エリアス兄上もエルランド兄上も微笑ましく見守ってくれる。


「エリアス兄上、エルランド兄上、お誕生日おめでとうございます! 会場の料理も全てモンスターの肉や魔力のこもった食材で作られていると聞いて、とても楽しみにして来ました」

「エド、お祝いをありがとう。遠慮なく食べていいからね」

「エド、また大きくなって。ロヴィーサ嬢に感謝しないといけないね」


 僕がお祝いを言うと、エリアス兄上もエルランド兄上も優しく答えてくれる。


「エド、遂に来ましたよ、人見知りが!」


 隣国から帰国しているヒルダ姉上は楽しそうに言っているが、カスパル義兄上の腕に抱かれているミルカは周囲のひとを見て大泣きしている。


「目を合せてはいけない!? 近寄ってはいけない!?」


 アルマスの言っていたことを思いだして僕が距離を取ろうとすると、ヒルダ姉上が面白がってカスパル義兄上の腕からミルカを抱き取って、僕に抱っこさせてしまう。

 ミルカは真っ黒な目で僕をじっと見つめ、仰け反って泣き出した。


「うわー!? ロヴィーサ嬢、ミルカがー!?」

「エドヴァルド殿下、落とされないように気を付けてください」

「ダメです! 赤ちゃんってこんなに仰け反るものなんですか!?」


 海老かというくらい仰け反って泣くミルカの背中に、ロヴィーサ嬢が手を当てて落ちないようにしてくれる。

 大声で泣いているミルカに、父上が近付いてきた。


「エド、派手に泣かれておるな」

「父上、助けてください」

「すまない、私も同じくらい泣かれるんだ」


 ミルカのことは抱っこして可愛がりたいのに、人見知りがそれを邪魔する。あまりにミルカが泣くので、カスパル義兄上が見かねて抱き取ってくれた。

 カスパル兄上に抱っこされてミルカはひっくひっくとしゃくり上げて必死にカスパル義兄上の胸にしがみ付いて泣き止もうとしている。


「赤ちゃんは泣くのが仕事みたいなものですから、気にしないでいいのに」

「ヒルダ様は大らかすぎるのです。エド殿下がお困りでしたよ」

「一時間くらい泣かせていれば、慣れて懐くのですよ?」

「一時間もエド殿下を拘束できません」


 完全に面白がっているヒルダ姉上に、カスパル義兄上は僕の味方になってくれている。


「アルマスの言っていたことは本当でした。最初に泣かなかったので、そんなものかと油断していました」

「人見知りの時期は仕方がないですよね。人見知りは、赤ちゃんが信頼できるひとと、知らないひとを見分けられるようになった印なので、成長したとして祝っていいのですよ」

「そうなのですか、ロヴィーサ嬢」


 僕の知らないことをロヴィーサ嬢は知っている。

 人見知りは悪いことではなく、赤ちゃんの成長には欠かせないことだった。


「ミルカ、こうやって大きくなるんだね。次は泣かないで抱っこさせてほしいな」


 目を合せると泣かれそうだったので、僕は遠くからそっとミルカに話しかけた。


 父上が壇上で集まっている貴族たちに挨拶をする。


「本日は息子、エリアスとエルランドの誕生日に来てくれて感謝する。今回の会場の料理は全て、モンスターの肉と魔力のこもった食材で作られている。毒素を抜く処置はしてあるので、味わってみるといい」


 父上の言葉を継ぐようにエリアス兄上が口を開く。


「飢饉になった場合には、この処置をして、モンスターの肉と魔力のこもった食材を国民に供給することができるように体制を整えていきたいと思っています。そのためにマンドラゴラも備蓄しています」


 エリアス兄上に続いて、エルランド兄上も口を開く。


「会場にお越しになった皆様には、そのことを考えながら、料理を食べていただきたいと思っています。どうか、よろしくお願いします」


 マンドラゴラを備蓄することが国策になるということは、貴族たちも自分の領地の領民のために王城を真似してマンドラゴラを備蓄するようになるだろう。

 それはこの国で飢饉が起きたときのための備えとなるだろう。


 父上とエリアス兄上とエルランド兄上の挨拶が終わると、僕は料理を取りに行った。

 王族の料理はテーブルを分けているが、お皿を変えることもなく、僕はどの料理も遠慮なく食べることができた。


「ロヴィーサ嬢、どれを食べますか?」

「どれにしましょうか? 全種類食べたいですね」


 ワクワクしながら問いかけると、ロヴィーサ嬢は微笑みながら答えてくれた。

読んでいただきありがとうございました。

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