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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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5.ヘンリッキの十五歳のお誕生日

 ヘンリッキのお誕生会の招待状がミエト家に届いた。

 それより先に僕は高等学校でヘンリッキから誘われていたし、ヘンリッキは僕の親友なので当然行く気でいたが、それとこれとは話が別なのだ。

 貴族の嗜みとして、ヘンリッキのハーヤネン家はミエト家に正式に招待状を送らねばならないし、ミエト家はその返事を書いて届けねばならない。

 こういう煩雑なことができていないと、貴族社会でやっていけないし、貴族として生きていくことはできない。


 何かと理由をつけて欠席していたもう一つの公爵家、エクロース家も今回は参加するようだ。

 僕が書いた手紙や、令嬢はしてしまった失態がそれだけエクロース家に響いているのだろう。


 招待状の返事を書くのはミエト家の当主であるロヴィーサ嬢だ。ロヴィーサ嬢はヘンリッキが僕の親友だということも、僕がヘンリッキに誘われているということも分かっているが、ちゃんと確認してくれる。


「ハーヤネン家からヘンリッキ様のお誕生会の招待状が届いています。返事をどうしましょう?」

「行くと答えてください」

「それでは、お弁当を持って行きますか?」


 その件に関しても、ハーヤネン家からの招待状には書かれていた。

 魔族が普通の人間の食べるものを食べられるようにする処置を、マンドラゴラで行って、会場の全ての料理を僕も食べられるようにするので、お弁当を持って来なくても大丈夫だと書かれていたのだ。

 もちろん、お弁当を持ってきたい場合にはそれも尊重するということも書いてある。


 人間の食べるものを魔族に食べられるようにしても、一応、身体を維持する栄養生えられるが魔力は得られない。魔力を得られるのはモンスターの肉や魔力のこもった食材からだけだった。


 そうであっても、僕には夢があった。


「会場のひとたちと同じものを食べられるのですよね。僕だけ別にしなくていいのですよね」

「招待状にはそう書いてあります。会場の料理全てにマンドラゴラで処置を施すと」

「僕はみんなと同じものを食べるのが夢だったのです」


 公の場で僕はいつも別のものを食べている。小さい頃からずっとそうだった。

 僕には他のひとが食べているものを同じように食べられない悲しみがずっと胸にあった。

 ロヴィーサ嬢と出会って、ロヴィーサ嬢が料理を作ってくれるようになって、食べられるものが増えた。ロヴィーサ嬢も僕と同じものを食べてくれるようになって、一緒に食べる相手もできた。

 アルマスがモンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く技術と、普通の人間が食べている食材を魔族が食べられるようにする技術を開発してからは、父上たちとも同じものを食べられるようになった。


 そして、今回のヘンリッキのお誕生会。

 僕のために全ての料理が魔族が食べられるように処置してあるという。


「僕もみんなと同じものを食べます」

「分かりました。そのようにお返事致しましょうね」

「はい! とても楽しみです!」


 会場の料理全部と飲み物も全部魔族が口にできるように処置するのは並大抵の大変さではないはずだ。それでもハーヤネン家は僕のためにそれをしてくれる。

 そのことが何よりも嬉しかった。


 ヘンリッキのお誕生会に行くと、ヘンリッキはアルマスと並んでいた。ヘンリッキのグレーのスーツと、アルマスの深緑のスーツは、ベストとタイがお互いの色になっていて、仲睦まじさを表している。

 僕が近付いて行くと、ヘンリッキとアルマスが僕の方を向く。


「本日は私のお誕生会にお越しいただきありがとうございます。エドヴァルド殿下も、ロヴィーサ嬢も楽しんでいってくださると嬉しいです」

「エドヴァルド殿下、会場の料理を準備するのを、俺とアクセリとアンニーナも手伝ったんだ」

「お招きいただきありがとうございます。アルマス様とアクセリ様とアンニーナ様もエドヴァルド殿下のために食材の処置を行ってくださったのですね」

「ヘンリッキ、お誕生日おめでとう。アルマス、ありがとう。アクセリとアンニーナにもお礼を言っておいて」


 ヘンリッキが挨拶をして、アルマスが僕に話しかけて来る。ロヴィーサ嬢は優雅に一礼して挨拶を受け、僕はヘンリッキにお祝いを言って、アルマスにはお礼を言った。


 会場ではアルマスのバックリーン家について話が飛び交っていた。


「バックリーン家は魔族の国から騎士号を授与されたそうですね」

「異国から騎士号をもらうなんて、珍しい」

「魔族の国ではバックリーン家のご子息とご息女の働きを高く評価しているそうですよ」


 バックリーン家が力をつけつつあることは貴族たちの中でも顕著な事実のようだ。バックリーン家のご両親に挨拶をしに行っている貴族もいる。


 王家の覚えがめでたくて、魔族の国の王家からも恩賞をもらったり、騎士号をもらったりしているバックリーン家。

 もしかすると、子爵に留まらずもっと高い地位を得ることができるかもしれない。

 そうなるとアンニーナとダミアーン伯父上の結婚もあり得ない話ではなくなってくる。


「エドヴァルド殿下、魔力は補充できないかもしれませんが、ハーヤネン家の料理人たちが丹精込めて作った料理です。お楽しみください」

「アルマスやヘンリッキとも同じものを食べられるんだよね。すごく楽しみにして来たんだ」

「エドヴァルド殿下、一緒に取りに行くか?」

「うん、行こう、アルマス!」


 主役のヘンリッキはあまり動けないが、アルマスはその場を離れることができる。

 僕はアルマスとロヴィーサ嬢と一緒に、立食形式の料理を取りに行った。


 細長いハンバーグのようなものがあって、僕はそれに興味を持つ。


「これは何だろう」

「ソーセージを腸詰してないやつだな」

「ソーセージを腸詰しないの!?」

「ミンチだけで固めて、焼いているんだよ」


 アルマスに教えてもらって、僕がそれを取ろうとすると、ロヴィーサ嬢が「失礼します」と声をかける。

 何かと思ったら、横に置いてあるパンに腸詰していないソーセージを挟んで、レタスも挟んで、粒マスタードとケチャップで味付けしてくれたのだ。


「横にパンとレタスとケチャップが置いてありましたので、こうやって食べるものかと思いまして」

「自分でホットドッグにするんですね!」


 ロヴィーサ嬢が気付いてくれたから、僕は腸詰していないソーセージをそれだけで食べずに済んだ。

 これまで会場の料理を自分で取ったことがなかったので、こういうことも分からなかったのだ。


「ソーセージだけで楽しむ方と、ホットドッグにしたい方のために別々にしているのでしょう」

「ロヴィーサ嬢、ありがとうございます。食べてみます」


 腸詰にしていないソーセージのホットドッグを齧ってみる。

 食べるとじゅわっと肉汁が出て、肉の食感が残っていて美味しい。腸詰にしていないソーセージは香草で香りをつけているようだった。


「美味しいです、ロヴィーサ嬢」

「わたくしも腸詰にしていないソーセージは初めて食べますが、美味しいものですね」

「今度ミエト家でも作ってくれますか?」

「作ってみましょう」


 ロヴィーサ嬢との会話も弾む。

 アルマスも腸詰にしていないソーセージをホットドッグにして食べていた。


 食べ終わると飲み物を探す。

 風は涼しくなっていたが、まだ暑さが残っているので、冷たい飲み物を探せば、アイスコーヒーがあった。


「コーヒー!? 僕が飲んでいいのかな?」

「エドヴァルド殿下も十四歳だろう? ミルクをいっぱい入れれば飲んでいいんじゃないかな」


 アルマスに言われて僕はコーヒーに挑戦してみることにした。

 父上やヒルダ姉上やエリアス兄上が飲んでいるところは見たことがある。いい香りで僕も飲んでみたいとは思っていた。

 まずはコーヒーだけで飲んでみると、苦くてとても耐えられそうにない。

 ミルクを大量に入れると、マイルドになって苦さが和らぐ。


「エドヴァルド殿下、シロップもありますよ」

「入れたいです」


 白い陶器の器に入ったシロップを差し出してくれるロヴィーサ嬢に、僕は受け取ってグラスの中に入れた。

 甘くてマイルドなミルクコーヒーなら美味しく飲める。


「僕はコーヒーを飲めるようになりました」

「わたくしもコーヒーはあまり飲みませんね」

「ミエト家でも飲むことは可能ですか?」

「コーヒーの淹れ方を調べてみましょうね」


 ハーヤネン家の料理を食べて、飲み物を飲むことで、僕もロヴィーサ嬢も食の幅が広がる。

 ヘンリッキのお誕生会はとても楽しいものだった。

読んでいただきありがとうございました。

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