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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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3.お弁当の楽しみ

 夏休みが終わって高等学校が始まった。

 僕は早朝から家庭菜園のお世話をして、シャワーを浴びて、朝ご飯を食べて高等学校に登校する。ポーチの中にはロヴィーサ嬢と同じお弁当が入っていた。

 成長期の僕はとてもよく食べる。

 ロヴィーサ嬢はお弁当箱を大きくしてくれていたが、それでも帰る頃にはお腹がペコペコになっていた。


 待ちに待ったお弁当の時間、僕はアルマスとヘンリッキのお弁当箱を覗き込んでいた。

 アルマスのお弁当はサンドイッチとデザートの果物だった。ヘンリッキのお弁当はパンと肉団子とスティックサラダだった。


「アルマス、果物を分けてよ」

「エドヴァルド殿下の唐揚げ、一個もらっていいか?」

「いいよ」

「それじゃ、俺もいいよ」


 これまではこんな風にお弁当の交換もできなかった。

 普通の食材は僕にとっては害になるものだったから。

 大人になれば変わるのだが、成長期の僕にとっては普通の食材は栄養にはならないし、むしろ体の害になっていた。

 それが、アルマスの開発した技術でマンドラゴラの葉っぱを使って、マンドラゴラに歌わせると、僕も食べられるようになるのだ。


 アルマスとヘンリッキにはお願いして、その処理を行ったお弁当を持ってきてもらっていた。


「エドヴァルド殿下、私の肉団子も一つどうですか?」

「欲しい! ヘンリッキは欲しいものはないの?」

「卵焼きをもらってもよろしいですか?」

「いいよ、一個だけね」


 楽しい。

 以前はお弁当を食べられるだけで幸せな気分になっていたが、今は欲張りになってアルマスとヘンリッキとお弁当のおかずを取り換えっこするまでになっている。

 ヘンリッキの肉団子はハンバーグを小さくしたようなもので、塩コショウで味がつけてあって美味しい。アルマスの果物は葡萄で、瑞々しくて美味しかった。


「たまにはロヴィーサ嬢が作ったのと違うおかずも美味しいな」

「エドヴァルド殿下はロヴィーサ嬢が作ったものが一番好きですよね」

「それは当然だよ。ロヴィーサ嬢は料理の天才なんだからね」


 モンスターを狩って来るだけでなく、ロヴィーサ嬢には料理の才能もある。本当に才色兼備のお嫁さんをもらったものだと、まだ結婚していないのに僕は満足していた。


 午後の授業も終えてミエト家に帰ると、ロヴィーサ嬢も帰って来たところだった。


「お帰りなさいませ、エド殿下」

「ただいま帰りました、ロヴィーサ嬢」


 挨拶をするとロヴィーサ嬢は着替えて厨房に行く。おやつを作るのだ。

 僕も一緒に厨房に行った。

 ロヴィーサ嬢はシャンパングラスのようなものを出して、何かを作ろうとしている。


「何を作るのですか?」

「まだ暑さも残っていますし、冷たいパフェを作りたいと思っています」

「パフェ?」


 よく分かっていない僕に、ロヴィーサ嬢はグラスの中に小さく切ったスポンジケーキと、アイスクリームを入れて、桃の皮を剥いて、桃の果肉も入れて、積み重ねていく。

 一番上には丸いアイスクリームが乗って、その周りに桃とクッキーが飾られた。


 居間に持って行ってソファに座って食べると、アイスクリームの冷たさと桃の瑞々しさ、下のスポンジケーキが溶けたアイスクリームを吸っているのも美味しい。

 夢中で食べてしまって、僕はミントティーを飲んで一息ついた。

 隣国でミントティーを飲んでから、僕はすっかりミントティーが好きになっていた。

 すっきりとした爽やかな飲み口と、清涼感が堪らない。飲むと体が冷えるような気がする。


 冷たいミントティーを飲みながら、僕は今日のことをロヴィーサ嬢に話した。


「僕は、遂にアルマスとヘンリッキとお弁当のおかずの交換をしたのです。ずっとしたくて堪らなかったのです」

「他のひとが食べているものは美味しそうに見えますものね」

「楽しかったです。これを毎日できると思うと、高等学校に行くのが楽しみです」


 僕が熱弁すると、ロヴィーサ嬢が笑っている。


「高等学校には勉強をするために行くのではないですか?」

「そうですけど」


 呟いてから、僕はロヴィーサ嬢に話していないことがあったのを思い出した。

 ロヴィーサ嬢は僕が自分から話し出さなかったので聞かなかったが、二年生の最後の成績についてである。

 アルマスとヘンリッキの話に納得して、僕は話すのをすっかりと忘れていた。


「二年生の最後の成績は三位だったのです」

「そうだったのですね。報告に来ないので、落ち込んでいらっしゃるのかと思いました」


 僕が言わなかったら、僕の気持ちを考えて聞かないでくれるロヴィーサ嬢は心遣いのできる女性だ。ロヴィーサ嬢の素晴らしさに僕は改めて感心する。


「アルマスが一位で、ヘンリッキが二位で、僕が三位でした。ヘンリッキと僕の差は二点で、一問しか変わらなかったのです」


 それでも僕が負けたことには変わりない。

 一問差でも僕が三位だという事実は変えられなかった。


「その一問の復習はなさいましたか?」

「しっかりとしました」

「それならば、もう間違えませんね」


 ロヴィーサ嬢は僕の順位が落ちたことを残念がっている様子はなかった。


「僕が三位でもがっかりしていませんか?」

「エド殿下の三位は、成績が落ちた三位ではありません。アルマス様とヘンリッキ様と切磋琢磨して、成績が上がっている中での三位です。何も恥じることはありません」


 言われてみれば僕は順位に拘っていたけれど、問題の間違いは格段に少なくなっていたし、点数も上がっていた。


「ロヴィーサ嬢は冷静に状況を判断するのですね」

「わたくしはエド殿下の頑張りを一番傍で見ていますからね」


 ロヴィーサ嬢に言われると、僕は順位が落ちたということだけが重要なのではないと思うことができた。


「アルマスが言ったのです。どうせならば、全員満点で全員一位を目指そうと」

「それは素晴らしい志だと思います。同点で三人一位など、できることではありませんよ」


 そのためにも努力しなければいけないのだが、ロヴィーサ嬢は協力してくれそうだ。

 それにしてもアルマスはとても頭がいいのだと今更ながらに思わされる。

 マンドラゴラを使ったモンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く技術といい、逆に普通の食材を魔族に食べられるようにする技術といい、マンドラゴラが長期保存できるように栄養剤を作る研究といい、誰にも習わずに自力で切り開いていく力がものすごい。

 僕はロヴィーサ嬢に習って勉強しているから成績が保てているのだが、アルマスは幼年学校に通っていた時期から一人で勉強していただろうし、その状態で高等学校の授業料が免除になるくらいの成績を取っていた。


「アルマスのように僕も賢くなれるでしょうか」


 僕の呟きにロヴィーサ嬢が答える。


「エド殿下はアルマス様になることはないのです」

「え?」

「エド殿下には魔法を使えます。それに国王陛下、隣国のヒルダ王女殿下、エリアス王子殿下、エルランド王子殿下、ダミアーン王太子殿下、魔族の国の国王陛下、お妃様に働きかける力があります。ひとは誰しもそのひとにしかできないことがあるのです。それをしていけばいいのだと思います」

「僕にしかできないこと……」


 僕は何ができるのだろう。

 考えてもすぐには浮かんでこない。

 悩んでいる僕に、ロヴィーサ嬢は微笑む。


「エド殿下は隣国や魔族の国と我が国を繋ぐ、大事な架け橋になっているのですよ」


 僕にもできていることがあった。

 ロヴィーサ嬢に言われると僕は光が差し込んで来た気分になる。


「ロヴィーサ嬢、この後勉強を教えてもらってもいいですか?」

「はい。お部屋に伺いますね」


 ロヴィーサ嬢と部屋に向かう途中で、僕はそっと手を伸ばしてみた。ロヴィーサ嬢の手に僕の手が当たる。動きを止めたロヴィーサ嬢の手を、僕はそっと握り締める。


「エド殿下……」

「手を繋いで歩くくらいはいいのではないですか?」

「は、はい」


 背中を叩かれたらここは階段なので危なかったが、頬を染めてロヴィーサ嬢は俯いただけだった。

 ロヴィーサ嬢の手は華奢だが手の皮がしっかりとしている。

 モンスターを狩る手であり、料理を作る手だ。


「ハンドクリームを塗っておけばよかったです」

「ロヴィーサ嬢のこの手が好きです」


 そのままのロヴィーサ嬢が好きだ。

 告げるとロヴィーサ嬢の顔がますます赤くなった気がした。

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