2.バックリーン家の騎士号授与
エルランド兄上のお見送りをするために、僕はロヴィーサ嬢と一緒に王城に行っていた。
荷物はもう運んであるというので、エルランド兄上は父上とエリアス兄上と僕に挨拶をしてくれた。
「冬休みには戻ります。それまですぐなので。ダミアーン伯父上が住む場所の世話もしてくれています。ご心配なく」
「エルランド、立派になって」
「エルランド、魔族の国のことを学んで帰っておいで」
「エルランド兄上、魔族の国での暮らしを楽しんでください」
お祖父様もお祖母様もエルランド兄上が留学して来ることをとても楽しみにしている。きっと魔族の国では大歓迎されることだろう。
「ありがとうございます。魔族の国で精一杯学んで来ようと思います。ロヴィーサ嬢、私が不在の間もエドのことをよろしくお願いします」
「はい。エドヴァルド殿下に美味しいものをたくさん食べさせます」
「心強いです。エドは食いしん坊ですからね」
エルランド兄上にも僕が食いしん坊だということは伝わっていた。
馬車で列車の駅まで行く兄上を見送って、僕はミエト家に帰った。
「僕が高等学校を卒業するまでにまだ四年はありますが、僕も高等学校を卒業したら魔族の国に留学するつもりです」
「魔法石を使って毎日通うのですよね」
「はい。魔族の国で生活するのも勉強のうちと分かっていますが、僕はロヴィーサ嬢のご飯が毎日食べたいので、帰ってきます」
魔族の国で家族と離れて暮らすのも経験のうちと分かっているが、僕にはロヴィーサ嬢と長く離れるなんてできなかった。
特に、僕は高等学校を卒業したらすぐにロヴィーサ嬢と結婚する気でいるので、新婚なのに別々の場所にいるなんて耐えられない。
「魔法石という便利なものがあるので、僕はそれを活用したいのです」
そう言ってから、僕はふと疑問に思った。
エルランド兄上は王族だが馬車に乗って列車の駅まで行って、列車で魔族の国に行っていた。僕も隣国に行くときには最初は列車で行ったが、もう魔法石に記録させてあるので、二回目からはすぐに隣国に飛ぶことができる。
魔族の国には最初から魔法石で飛んでいた。
「爺や、この魔法石はとても貴重なの?」
「作るのがとても難しい部類に入ります。一か所だけ定められた場所に移転する魔法石はまだ広まっているのですが、何か所も記録できる魔法石は非常に貴重です」
そんな貴重なものを僕は首飾りとして身に着けていた。
「これを作ったのは誰?」
「魔族の国の国王陛下が魔法具職人に直々に頼んで作らせました。エドヴァルド殿下がお生まれになった年のことです」
お祖父様は人間の国で暮らす魔族の僕が死んでしまうのではないかと心配して、僕が生まれた年にこの魔法石を作らせてくれていた。
「エドヴァルド殿下の体調が悪くなったら、それを使って攫ってでも魔族の国に連れて来るように命じられていたのですが、私はそれができませんでした。お母上の志を思うと、エドヴァルド殿下にこの国で生きて欲しかったのです」
それが母上の願いだっただろうと爺やは言った。
魔族の国で育ったら、僕は病弱で苦しんだ日々がなかったかもしれないが、ヒルダ姉上ともエリアス兄上ともエルランド兄上とも一緒に過ごせていない。
それを考えると、爺やの判断は正しかった。
どれだけ苦しくても、僕はヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上と一緒に暮らしていたかった。
ロヴィーサ嬢と出会って、僕の生活は一転した。
モンスターの肉や魔力のこもった食材で作られた料理をお腹いっぱい食べられるようになって、僕はそれまでの食べられなかった日々を取り返すようにたくさん食べてとても健康になった。
魔族として体が頑丈なことも分かったし、魔法を使えるようにもなった。
「爺や、ありがとう。僕はこの国で暮らせて幸せだよ」
「お母上の意志を継いだまでです。後はエドヴァルド殿下が自分で掴んだ幸せです」
爺やは頭を下げて謙虚に言っている。
ロヴィーサ嬢と出会って、ロヴィーサ嬢を選んだのは僕の意志だった。この国で生きていなければロヴィーサ嬢と出会えることもなかった。
高等学校で出会ったアルマスは、普通の人間がモンスターの肉や魔力のこもった食材を食べられる方法を開発したし、逆に魔族が普通の人間の食べている食事を食べても害にならない方法も開発した。
おかげで僕は他のひとたちとも同じものを食べられるようになったし、父上も僕と同じ食卓を囲めるようになった。
僕と同じものが食べられないことについて、父上はずっと心に悲しみを抱えていた。王城を僕が出なければいけなかった理由も、父上の身体に害になるようなものを王城の厨房に置きたくなかったからだ。
それが今は王城で僕のための料理が出てくるようになったし、国ではマンドラゴラを一定数確保して、飢饉の際にはモンスターの肉や魔力のこもった食材を普通のひとたちが食べられるように準備している。
その動きは王城だけに留まらない。
それぞれの貴族たちも自分の所領で飢饉が起きたときのために、マンドラゴラを備蓄し始めたと聞いている。
アルマスやヘンリッキの領地で育てられたマンドラゴラは、この国中で売れていて、バックリーン家とハーヤネン家を潤している。
アルマスとヘンリッキの家が潤うのは僕も嬉しいので、マンドラゴラ栽培を応援していた。アルマスはマンドラゴラが長持ちするように栄養剤も開発していて、それも売れているようだ。
バックリーン家は今後ますます力をつけていくだろう。
夏休みも終わろうとしている日に、ミエト家にアルマスの一家が訪ねてきた。
ご両親もアルマスもアクセリもアンニーナも身なりがよくなっているし、肌艶もよくなっている。
「ダミアーン王太子殿下から、書状が届いたんだ」
「ダミアーン伯父上から?」
アルマスの言葉に僕が首を傾げれば、アクセリが説明してくれた。
「私たちが普通の人間の食べるものを魔族に食べられるようにした技術があったでしょう? それを開発したのを讃えて、騎士号を与えてくださるそうなんです」
「騎士号ってなんですか?」
アンニーナは騎士号の意味が分からずに不思議そうな顔をしている。
「騎士号っていうのは、国に対してとても大きな功績となることをした相手に対して与える、一代限りの世襲権を持たない準貴族の称号かな。この場合は、名誉を讃えるために、魔族の国でもアルマスたちが貴族として扱われることになるようにしてくれるのかな」
「名誉を讃えてくださるんだな」
「ものすごい名誉なことだよ。異国から騎士号を与えられるなんて、聞いたこともない」
それだけアルマスとアクセリとアンニーナの開発した技術が、魔族の国の利益をもたらしたということなのだろう。魔族は人間と同じものが食べられるようになって、飢饉の際には命を繋ぐことができるし、人間は魔族と同じものが食べられるようになって、同じ食卓を囲むことができる。
人間が魔族の食事を口にして死にかけるなどという事故も防げるようになったわけだ。
確かにアルマスとアクセリとアンニーナの功績は大きいものだった。
「ダミアーン王太子殿下から魔族の国に呼ばれてるんだけど、どうすればいい?」
その問いかけに、僕は首から下げている魔法石を握り締めた。
僕の持っている魔法石は何人くらいまでひとを移動させられるのだろう。
「爺や、この魔法石は何人までひとを移動させられる?」
「国王陛下が作らせたものです。十人くらいは簡単に移動させられるのではないでしょうか」
爺やの答えに僕は数える。
僕とロヴィーサ嬢と爺や、アルマスとアクセリとアンニーナとご両親、合わせて八人だ。それならば大丈夫だろう。
「僕もついて行く。一緒に行こう、アルマス、アクセリ、アンニーナ」
「お願いします、エドヴァルド殿下」
ご両親にも頭を下げられて、僕は魔法石を使った。
白い光が僕とロヴィーサ嬢と爺やとアルマスとアクセリとアンニーナとご両親を包んで、眩さに目を瞑る。目を開けたときには魔族の国の王城に着いていた。
僕が自分の名前を名乗って、取次を頼むと、すぐに王城の大広間に通される。
大広間にはお祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上がいた。
「手紙が届いたのだな。来てくれて嬉しいよ、アルマス殿、アクセリ殿、アンニーナ殿、バックリーン子爵夫妻」
「お招きに預かり光栄です、ダミアーン王太子殿下」
「父上がお待ちだ。バックリーン子爵、どうか前へ」
ダミアーン伯父上の促されてアルマスのお父上が前にでる。
膝をついているアルマスのお父上にお祖父様が告げる。
「そなたの子息と息女、アルマスとアクセリ、アンニーナは、我が国にとても有益な技術を開発した。人間が魔族の料理を食べて死ぬ事故もなくなるだろうし、飢饉の際には魔族も他国から援助を申し出て普通の食材を食べられるようになった。この功績を讃えて、騎士号を贈りたいのだが、アルマスとアクセリとアンニーナはまだ未成年だ。故に、バックリーン家の代表として保護者のバックリーン子爵に騎士号を贈る」
腰に下げていた長い剣を抜いて、お祖父様がアルマスのお父上の肩に剣を触れさせる。
「バックリーン子爵、騎士号を受けるか?」
「謹んでお受けいたします」
「今後ともマンドラゴラの研究を続けて欲しい」
「息子と娘たちにしっかりと研究させます」
「よろしい。そなたを我が国の騎士として認める」
バックリーン家は魔族の国から騎士号をもらってしまった。
これがどれだけ重大なことか、僕にはまだ何となくしか分かっていなかった。
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