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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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1.母上の真実

 夏休みの終わりがけに、僕とロヴィーサ嬢と爺やは家庭菜園で収穫を行った。夏野菜の収穫はほとんど終わっていたので、種を取る株を残して抜いてしまう。

 マンドラゴラも使う分が増えたのでしっかりと増やして収穫していた。


 作業が終わってシャワーを浴びてお茶を飲んでいると、飲み終わったグラスに爺やが自然とお茶のお代わりを注いでくれる。

 僕は爺やの方に向き直った。


「爺やにも奥さんと子どもさんがいるんだよね」

「そうですな。この国の下位の貴族の方と会わせていただいて結婚しました」

「奥さんと子どもさんはどうしているの?」


 物心ついたときから爺やはずっと僕についていてくれる。朝は早くから僕の面倒を見てくれて、夜は僕が眠るまで部屋に控えていてくれる。一日の休みもなくずっと爺やが僕に仕えてくれていることに、僕はこれまで疑問を抱かなかったことを反省した。


「実は、妻と子どもはこのお屋敷の使用人の住み込む部屋の中でも、一番高級な執事の住む込む部屋に住ませてもらって、一緒に暮らしております」

「そうだったの!?」


 知らなかった事実に僕がロヴィーサ嬢を見ると、深く頷いている。


「エド殿下がミエト家に住むことになったときに、爺やさんに住む場所をお願いされました。エド殿下は知っているものだと思っておりました」

「全然知りませんでした。爺やは奥さんと子どもさんと一緒に暮らせているのですね」

「そうなので御座います、エドヴァルド殿下。朝は早いのですが、帰りはエドヴァルド殿下が九時過ぎには眠ると仰って私は仕事を終えるので、妻と子どもたちとの時間は持てています」

「子どもさんは?」

「子どもたちはもう大きいので私をそれほど必要としないのですよ」


 僕は爺やを子どもさんからずっと奪っていたのではないかという事実に気付いた。爺やの子どもさんたちは僕を恨んでいないだろうか。


「爺や、今日からは夕食の後は帰っていいようにするからね」

「エドヴァルド殿下、お一人で大丈夫ですか?」

「何かあれば使用人さんを呼べばいいし、シャワーの後の髪を乾かすのまではしてくれたら、後はロヴィーサ嬢と勉強して、一人で休めるから」


 これからでも遅くないと、僕は爺やに提案した。


「妻はエドヴァルド殿下がお生まれになったときに乳母に選ばれたのです。エドヴァルド殿下が普通のミルクを飲めないことを私に相談してきました。エドヴァルド殿下が魔族でなければ、妻が乳母になって私のような生活を送っていたはずなのです」


 僕が普通の人間だったら爺やの奥さんが乳母になっていた。僕が魔族だったから、魔族の爺やがそばにいてくれた。


「乳母になればエドヴァルド殿下の身の回りのことをしなければいけなかった。私が爺やになっても、妻が乳母になっても、同じだったのです」


 お互いに離れていなければいけない時間は同じで、変わりはなかったと爺やは言っている。僕に罪悪感を持たせないように言ってくれているのだろう。


「爺やには子どもが何人いるの?」

「三人ですね。一番下がエドヴァルド殿下と同じ年です」

「みんな魔族ではなかったと言っていたよね」

「そうです。みんな人間の子どもたちです」


 魔族の爺やと人間の奥さんの間に生まれた子どもたちはみんな人間だった。

 ロヴィーサ嬢の家でも魔族が生まれたという話は聞いたことがない。

 僕は魔族だが、この国で魔族が生まれたのは非常に稀なことだったのではないだろうか。


「人間と魔族が結婚した場合には、人間が生まれることが多いの?」

「それは、国によって違いますな」

「どういうこと?」


 爺やの答えに僕は首を捻る。

 僕は魔族として生まれたが、爺やの子どもさんはみんな人間だし、曾お祖父様が魔族のロヴィーサ嬢の家系からも魔族が出たという話はない。

 僕だけが特別なのだと考えていたら、爺やはそれを否定した。


「魔族の国では逆なのです。人間と魔族が結婚すると、生まれてくるのはほぼ魔族です」

「そうなの!?」

「この国は人間の国なので、魔族と人間が結婚しても、生まれてくるのはほぼ人間です」


 国によって生まれて来る子どもが違う。

 それは僕にとっては驚く結果だった。

 そんな法則があったなんて知らなかった。


「恐らく、魔族の国は空気からして全く違うのです。人間に害にならない程度に魔力が満ちている。そのために生まれてくるのはほぼ魔族だと思われます。この国はそんなことはないので、生まれてくるのはほぼ人間です」

「それなら、僕はどうして魔族として生まれたのだろう」


 僕が疑問を抱くのも当然のことだった。

 国によって生まれて来る子どもが人間か魔族か、違うのだったら、僕はこの国でどうして魔族として生まれてしまったのだろう。


「原因はお母上にあると思います。お母上は魔王の娘だった。そのため、強い魔力を持っていたのです」

「魔王!? 誰のこと!?」

「魔族の国の国王陛下を魔王と呼ぶのですよ」


 僕のお祖父様は魔王だった。

 僕が知っているおとぎ話では魔王はモンスターや魔族を使って人間を滅ぼしにかかって、勇者が魔王を倒すなんてものがあるのだが、僕のお祖父様はそんな魔王ではない。

 僕に会いたいがために仮病を使って、僕に会うとものすごく喜んでくれる孫が大好きな普通のお祖父様だ。


「お祖父様が魔王……全然イメージできない」

「ただの呼び名ですから。魔王の娘であったお母上は強い魔力を秘めていたので、生まれてきたエドヴァルド殿下が魔族であったのもそのせいでしょう」


 命懸けで僕を産んだからかもしれない。

 僕はそう思ったが爺やはそのことは口にしなかった。

 命を懸けて僕を産むときに、母上の魔力が僕に宿ったのかもしれない。僕は母上を産まれてくることによって殺してしまったのかもしれない。


 ずっとそうではないかと考えていたが、行き当たりたくなかった事実に気付いてしまって僕は黙り込んでしまう。

 爺やもロヴィーサ嬢も僕が考え付いたことに辿り着いたのだろう。


「エド殿下、わたくしは亡きお妃様に感謝しておりますわ」

「ロヴィーサ嬢……」

「お妃様がエド殿下を産んでくださらなければ、わたくしはエド殿下に出会えなかった。わたくしはエド殿下に出会えてこんなに幸せです」

「そうですね。母は僕を産んでくれた。そのことに感謝しなければいけません」


 父上もヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も、母上のことになると口をつぐんでしまうことが多かった。

 僕が生まれたことで母上が死んでしまったという事実を、僕に知らせたくなかったのだろう。


 僕はそのことに気付いていたし、それを受け入れようとしていた。

 爺やから聞いた話でそれが確信となってしまったが、それも受け入れたいと思っていた。


「僕は母上の話をほとんど聞いたことがないのですよね。今度王城に行ったら、父上とエリアス兄上に話してもらわないと」


 明るく僕が言えば、ロヴィーサ嬢が頷いてくれる。


「エド殿下にとっては大事なお母上ですものね」


 僕とロヴィーサ嬢には共通点がある。

 僕は生まれたときに、ロヴィーサ嬢は十五歳で母上を亡くしている。

 ロヴィーサ嬢の口から出る言葉も、重みがあって同じ母を亡くしたものとして共感してくれているのが分かった。


「エルランド兄上の出発もお見送りしないといけませんね」


 エルランド兄上は夏休みが終われば魔族の国に留学する。

 エルランド兄上も魔族の血を引いているので食べ物などは問題ないが、一年間は長期休みしか帰ってこられないので寂しくはなるだろう。


 僕の一番年の近いエルランド兄上と長く離れるのは初めてで、僕も不安はある。

 高等学校に行ってももうエルランド兄上はいないのだ。


 僕は高等学校の三年生になる。

 ロヴィーサ嬢と出会ってからも、もうすぐ三年目に入ろうとしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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