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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
二章 高等学校二年生の王子

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28.アルマスからの手紙

 厨房で作られた料理は、何か味気ない。

 ロヴィーサ嬢が作った料理のように口いっぱい頬張ったり、お代わりをしたりする気が全く起きない。

 材料は同じなのだが味付けや調理法が全く違うのだ。


 ロヴィーサ嬢は僕の知らない色んな調理方法を知っている。食材の活用方法も知っている。

 隣国の料理は美味しいのだが新鮮味がなくて、なんだかつまらない。

 残すなどというもったいないことは、ロヴィーサ嬢が採って来てくれた食材なので絶対に許されないが、僕はお代わりはせずに出された分を食べ終わったら、ご馳走様をした。


 それがヒルダ姉上にはバレバレだったようだ。

 食後のお茶のときに声をかけられた。


「エドは晩餐が気に入りませんでしたか?」

「とんでもないです。美味しかったですよ」

「浮かない顔をしていましたよ」

「それは……」


 ロヴィーサ嬢の料理が食べたかったなんて、駄々を捏ねてはいけない場面だと僕にも分かっている。僕が我が儘を言えばロヴィーサ嬢も困ることになるのは分かっていた。


「いつもと勝手が違ったのと、疲れていたのかもしれません」

「この国に来たのは初めてですものね。ミルカに会うためにエドとロヴィーサ嬢が来てくれてとても嬉しいのですよ」

「私たちの息子のミルカのためにありがとうございます」


 ヒルダ姉上が微笑むと、ティーカップのお茶を飲みながらカスパル王太子殿下も微笑む。

 褐色の肌に黒い髪に黒い目で、白い歯がよく目立つカスパル王太子殿下。隣国なのにこれだけ外見が違うのだと驚いてしまう。


 僕の国は色素の薄いものも若干色素の濃いものも入り混じっているが、隣国は褐色の肌のひとたちで構成されている。逆に魔族の国は色素が非常に薄いひとたちで構成されている。


 起きてきたのでカスパル王太子殿下に抱っこされているミルカは、ヒルダ姉上の血が混じっているので、若干肌の色もカスパル王太子殿下よりは薄いような気がしていた。


 じっと見ていると、ミルカがふにゃっと笑う。笑いかけられて僕は身を乗り出した。


「ロヴィーサ嬢見ましたか? 僕に笑いかけましたよ」

「とても可愛かったです」

「ミルカは僕のことが好きかもしれない」


 喜んでいると、カスパル王太子殿下が目を細める。


「そんな風に言ってくださるということは、エドヴァルド殿下はミルカがお好きなのですね」

「可愛くて大好きです。私の伯父のダミアーン伯父上は私のことを可愛がってくれています。私もダミアーン伯父上のようにミルカを可愛がりたいのです」

「ダミアーン王太子殿下がそちらの国にエドヴァルド殿下たち甥や姪に会いに行っている話は聞いています。そんなにミルカを思ってくださるなんて、父親としてとても嬉しいです」


 カスパル王太子殿下に言われて、僕は堂々とミルカを可愛がっていいのだと理解する。国が違うから、まだ僕が大人でないからと遠慮することはないようだ。


「私は子どもは周囲の大人に愛されて育つのがよいと思っているのです。愛してくれる相手はできるだけ多い方がいい。エドヴァルド殿下とロヴィーサ嬢もその一人になって下さることを望んでいます」

「喜んでミルカを愛して可愛がります」


 許可を得て僕はミルカを抱っこさせてもらった。始めて抱っこしたときよりも安定した抱っこができたと思う。

 ロヴィーサ嬢もミルカを抱っこさせてもらっていた。


 シャワーを浴びて客間に入ると、僕のお腹がきゅるきゅると鳴る。晩ご飯をあまり食べなかったからお腹が空いているのだ。

 このままでは眠れない。

 僕は隣りの部屋のロヴィーサ嬢に声をかけた。


「ロヴィーサ嬢、少しよろしいですか?」

「どうぞ、お入りください」


 ロヴィーサ嬢は手前の部屋で椅子に座って書き物をしていた。ノートを閉じると、すぐに僕をソファに座らせてくれて、自分もソファに座る。


「お腹が空いたのです」


 僕は正直に白状した。

 晩ご飯は食べたのだが、普段食べている量よりもずっと少なかった。


「隣国ですものね、お代わりを遠慮なさっていたのですね」

「遠慮したのではなく、そんなに食べたくなかったのです」


 正直に言うとロヴィーサ嬢が首を傾げている。ロヴィーサ嬢はあの料理がおいしく感じられたのだろうか。


「ロヴィーサ嬢はあの料理が美味しかったですか?」

「美味しかったですよ」

「僕は……不味くはなかったのです。美味しかったと思うのです。でも、ロヴィーサ嬢の料理を食べるときのように、心躍るような高揚感がなかったというか、喜びがなかったというか……それで、お代りはしたくなかったのです」


 僕の言葉にロヴィーサ嬢は驚いているようだった。


「エド殿下はわたくしの料理が食べたかったのですね」

「そうなのです。ロヴィーサ嬢の料理でないと僕は満足できなくなっているのです」

「まぁ……嬉しいことを仰る」


 頬を染めて喜ぶロヴィーサ嬢だが、僕は切実だった。お腹は鳴っているし、何か食べたくて仕方がない。

 切ないお腹を押さえていると、ロヴィーサ嬢が爺やにお茶を淹れて来てくれるように頼む。

 その間にロヴィーサ嬢はマジックポーチからパンとジャムを出して、クリームチーズも出して、クリームチーズとジャムのサンドイッチを作ってくれた。

 爺やが持って来たお茶と一緒にクリームチーズをジャムのサンドイッチを食べる。ロヴィーサ嬢の作ったサンドイッチはそれだけで全く味が違って、もりもりと食べられてしまう。


 サンドイッチを食べ終わって、僕はティーカップからお茶を飲む。スーッと爽やかさが鼻に抜ける冷たいミントティーだ。

 ミントティーは身体を芯から冷やすようだった。


「そのミントティーはこの国の特産品のようですよ」

「え!? 魔力のこもったお茶ではないのですか!?」


 完全にロヴィーサ嬢と爺やを信じていたので、僕は飲んだミントティーが魔力のこもったものだと思い込んでいた。

 そうではなかったようだが、普通のものを口にしたときのような不快感は全くなかった。


「アルマス様からお手紙をいただいていたのです。わたくしがエドヴァルド殿下の食事を作っているので、わたくしに送ったのでしょうね。爺やさんから受け取りました」

「アルマスが手紙を!?」


 僕に内緒でロヴィーサ嬢に手紙を送るなんて、アルマスも酷いと思ってしまうのは僕が嫉妬深いからだ。ロヴィーサ嬢は手紙の返事を書いていたのだろう。


「爺やさんはミエト家のお屋敷に手紙が届いたことに気付いて、こちらに持ってきてくれたのです」


 爺やには手紙の到着を感知する魔法も使えたようだ。

 どこまでも王族に仕えることに向いている能力の持ち主だと思う。


 ロヴィーサ嬢は隠すことなく僕にアルマスからの手紙を見せてくれた。

 手紙の中身には、常人が食べるものを魔族が食べられるようにする方法が書いてあった。


「逆もあったんですね!?」

「そのようです。魔族が食べる場合には魔力の補給にはならないけれど、害にならなくなるようになっているようですよ」


 アルマスはモンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く研究をしたが、今度は魔族が普通のものを食べても問題ないような方法を見出した。

 どのような方法かも書いてある。

 マンドラゴラの葉っぱを一枚一緒に入れて、マンドラゴラに歌わせるというモンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く方法と同じだった。


「僕は普通の食べ物も食べられるようになるんですね」

「そのようですよ、エド殿下」

「アルマスとヘンリッキにお願いしておけば、お弁当のおかずを取り換えることもできるようになる」


 アルマスとヘンリッキがお弁当のおかずを取り換えていても、僕はそれに加わることができなかった。常人の食べるものは僕にとって害になりかねないものだったからだ。それが同じものを食べられるようになる。


「アルマスは新しい方法を開発しましたね」

「ミントティー、美味しかったでしょう?」

「美味しかったです」


 アルマスからの手紙のおかげで、僕はこの国でミントティーを飲むことができた。爽やかなミントティーは身体を芯から冷やすようで心地よかった。


読んでいただきありがとうございました。

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