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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
二章 高等学校二年生の王子

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10.お祖父様からの手紙

 エリアス兄上とエルランド兄上のお誕生会が終わって、僕はまた高等学校に行く日常に戻っていた。

 王族なので式典のたびに高等学校を休まなければいけないというのは、勉強に遅れが出る。アルマスやヘンリッキに置いて行かれないように、僕はミエト家に帰るとロヴィーサ嬢に教えてもらって勉強もしていた。

 ロヴィーサ嬢は教え方が上手で、僕もロヴィーサ嬢にいいところを見せたいので勉強が捗る。


「こっちの公式でしたか」

「そうです。エド殿下は理解が早いですね」

「僕の理解が早い……?」

「そうですよ、エド殿下は成績も伸びているし、とても優秀です」


 家庭教師にはヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上と比べられていたのに、ロヴィーサ嬢はそんなことはしない。ロヴィーサ嬢は僕をたくさん褒めてくれる。

 それで、僕はすっかりいい気になって勉強に臨むから、ますます成績が上がっていく。


 勉強が終わってお茶を飲んでいると、爺やが難しい顔で手紙を差し出して来た。

 魔族の国の国王陛下である、僕のお祖父様からの手紙だ。


「大変だ。お祖父様が病気で臥せっていると書いてある。お見舞いに来て欲しいと」

「それなのですが……」

「そんなに酷いのか? お祖父様は危篤なのか?」


 お祖父様は高齢なので心配してしまう僕に、爺やはそっともう一通の手紙を差し出した。それはダミアーン伯父上からの手紙だった。


「お祖父様は、僕に会いたくて仮病を使っている!? 哀れだから会いにだけきてやってくれ……えぇ!? 仮病!?」


 ダミアーン伯父上の手紙には詳細が書いてあった。

 エリアス兄上が魔族の国にやって来てから、お祖父様は孫に会えてとても喜んだそうだ。来年にはエルランド兄上もエリアス兄上と入れ替わりに留学してくる。

 エリアス兄上とエルランド兄上を可愛がることができて幸せな気分になったお祖父様は、僕のことを思い出した。

 可愛い娘が命を落としながらも産んだ王家の末っ子の僕。

 僕に会いたいあまり、お祖父様は仮病を使って、僕を呼び寄せようとしているのだ。


「ロヴィーサ嬢、お祖父様は仮病を使ってまで僕に会いたいようです」

「魔族の国の国王陛下はかなりのご高齢だと聞いています。いつ何が起きてもおかしくはないでしょう。お会いしておいた方がよいのではないでしょうか?」


 ロヴィーサ嬢もそう言ってくれるので、僕はお祖父様にお返事を書くことにした。


「もちろん、ロヴィーサ嬢も一緒に来てくださいますよね?」

「わたくしが行ってよろしいのでしょうか?」

「僕の婚約者です。行って悪いわけがありません」


 僕が言えばロヴィーサ嬢は納得しているようだった。

 魔族の国に行くとなると、父上の許可もいるし、高等学校を休むという報せも必要になる。

 父上に手紙を書くと、すぐに返事は戻って来た。


 お祖父様が病気なのならば行ってあげなさいという優しい返事である。

 僕はお祖父様が仮病を使っていることを、父上にはとても言えなかった。


 すぐに支度して、ロヴィーサ嬢と列車の切符を取ろうとすると、爺やがそれを止める。


「私は魔族の国とこの国を行き来できる魔法石を持っております。エドヴァルド殿下がいよいよ命が危ないときには、攫ってでも魔族の国に連れて来るようにダミアーン王太子殿下から渡されたものです」

「爺や、そんなものを持っていたの!?」

「エドヴァルド殿下が床で苦しんでいるときに何度か使おうかと思いましたが、エドヴァルド殿下はこの国で暮らすことを望んでいる、お母上もそれを望んでいたと思い、使ったことはありませんでした」


 そういう便利なものがあるのならば、僕はすぐにでもお祖父様に会いに行ける。

 爺やにお願いして、魔法石を発動させてもらった。

 白い光に全身が包まれて、光が消える頃には僕は全く見知らぬ城の前に来ていた。


 我が国の王城と同じくらいの大きさだが、堅牢な石の壁で周囲を覆われた、魔族の王城だ。

 石の壁を抜けると、広い庭がある。

 庭にはダミアーン伯父上が僕を待っていた。


「魔法石を使う気配があったから迎えに来た。よく来てくれたな、エドヴァルド、ロヴィーサ嬢」

「わたくしまでよろしかったのでしょうか?」

「父上はロヴィーサ嬢のことが知りたくてうずうずしているのだ。可愛いエドヴァルドの婚約者だからな」


 そのままダミアーン伯父上に連れられて僕とロヴィーサ嬢はお祖父様の私室に入らせてもらった。

 ベッドで布団を被っているお祖父様は、僕とロヴィーサ嬢を見ると、元気に起き上がって歩いてくる。


「エドヴァルド、こんなに大きくなって。前に会ったのは、十歳にならぬ頃だっただろうか。あの頃の死にかけていたエドヴァルドとは比べ物にならぬほど健康そうだな」

「お祖父様、お病気は?」

「あ、そ、そうだ。げほげほ。そろそろ、私も寿命かな」

「そんな気の弱いことを仰らないでください。僕とロヴィーサ嬢が結婚して、曾孫を見るまでは、お元気でいてください」

「なんと優しいことを言ってくれる。そちらが婚約者のロヴィーサ・ミエト嬢かな?」


 声をかけられてロヴィーサ嬢が膝を折って深々と一礼する。


「ロヴィーサ・ミエトで御座います。エドヴァルド殿下の婚約者です」

「とても美しいお嬢さんだ。それに魔力を感じる。ロヴィーサ嬢は魔族の血が入っているのかな?」

「その通りです。わたくしの曾祖父が魔族でした」

「そうか。ロヴィーサ嬢はモンスターを狩って、ミエト家に我が国から食材を輸入して、エドヴァルドに美味しいものを食べさせているとダミアーンから聞いている。エドヴァルドはあの国の食事に馴染めずに死んでしまうのではないかとずっと心配だった。エドヴァルドの命を救ってくれて誠に感謝する」


 心からの感謝をされてロヴィーサ嬢は戸惑っている。

 僕とロヴィーサ嬢がお祖父様と話していると、ドアが開いてお祖母様が顔を出した。


 お祖父様は白銀の髪に薄いグレーの瞳、お祖母様は白金の髪に菫色の瞳で、どちらもダミアーン伯父上と似ている気がする。


「エドヴァルドが来たとたん元気になって。やはり仮病だったのですね」

「い、いや、そうではない。私は本当に胸が苦しくて……」

「仕方のない祖父でごめんなさいね、エドヴァルド。あなたに長く会っていなかったから、会いたいと駄々を捏ね始めて、エドヴァルドには高等学校があるのだとダミアーンが窘めたら、胸を押さえて倒れてしまったのですよ」

「本当に心臓が締め付けられるように痛かったのだ」

「本当かしら?」

「ほ、本当だぞ?」

「それならば、主治医を呼んで、精密検査を受けなければなりませんね」

「もう治った。治ったぞ」


 お祖母様とお祖父様の話を聞いていると、僕は笑ってしまう。そこまでしてお祖父様が僕に会いたいと思ってくれるのは、愛情を感じて少し嬉しい。

 ダミアーン伯父上がお祖父様とお祖母様の言い争いに苦笑している。


「折角エドヴァルドが来てくれたのだ。父上も母上も喧嘩せずに、何か美味しいものでもエドヴァルドにご馳走してやったらいかがですか?」

「そうだな。エドヴァルド、何が好きかな?」

「エドヴァルドは何が食べたいですか?」


 ダミアーン伯父上に促されて、お祖父様とお祖母様は口喧嘩をやめて僕に向き直った。急に聞かれて僕の口から出てきたのは、こんな答えだった。


「天ぷらが、食べたいです」


 ぷりぷりの海老天、小柱と三つ葉のかき揚げ、新鮮な烏賊天、ほくほくの芋天、じゅわっと油の染みた茄子天……考えるだけで口の中に唾が湧いてくる。


「天ぷらか。いいな。エドヴァルド、(きす)の天ぷらを食べたことがあるか?」

「鱚ですか? ありません」

「新鮮な鱚は癖がなくて、蕩けるような身で美味しいのだぞ」


 鱚という魚がいることは僕も知っていた。王家の食卓には上がらなかったけれど、図鑑で見たことがある。小さな魚のはずだ。

 それのモンスターヴァージョンとなると、大きいのだろうか。

 魚は元々大好きだし、大きな魚の天ぷらを口いっぱいに頬張ったらどれだけ幸せだろう。


 僕は楽しみでならなかった。


 お祖父様が着替えて準備をしている間、僕はダミアーン伯父上とお祖母様に招かれて、ロヴィーサ嬢と一緒にソファに座ってお茶をいただいていた。

 僕が食べられるものが自然にあるというのが、ここが魔族の国なのだと実感させる。


「エリアスも呼びましょう。エリアスはこの国に来て言ったのですよ。『私もお祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上と同じものを食べられます』と」


 エリアス兄上は魔族の国に留学しているが、特別に魔力を除去した食事を準備する必要はなかった。エリアス兄上にも魔族の血が流れていて、魔力のこもった料理を食べられたのだ。

 呼ばれてやってくるエリアス兄上を待ちながら、僕は楽しい晩ご飯の予感に胸を躍らせていた。

読んでいただきありがとうございました。

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