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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
二章 高等学校二年生の王子

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9.エリアス兄上とエルランド兄上のお誕生会

 エリアス兄上とエルランド兄上は同じ月に生まれている。

 幼い頃には別々にお誕生日を祝っていたようなのだが、僕が物心ついたころには、エリアス兄上とエルランド兄上のお誕生日は一緒に祝われることになっていた。


 王族や貴族のお誕生日会というのは、必ずしも楽しいものではない。

 周囲に自分たちの威光を見せつつ、他の貴族や王族との関係を潤滑にするための儀式でしかない。

 自分のお誕生日であれど、貴族や王族のお誕生日は自分のために開かれるのではなく、家のために開かれるのだ。


 それが分かっているからこそ、エリアス兄上とエルランド兄上は同じ月に二回もお誕生会を開かなくていいように、お誕生日会を一緒に行うことにしている。


 魔族の国に留学しているエリアス兄上が帰ってくるし、隣国に嫁いだヒルダ姉上も帰ってくるので、僕は少しだけ兄上二人のお誕生日会が楽しみではあった。


 ヒルダ姉上は僕のために自分で冒険者ギルドに話をつけに行って、『赤毛のマティルダ』と名乗っていたロヴィーサ嬢と専属契約をしていた。

 そういうヒルダ姉上の気の強いところを見ているからこそ、僕はロヴィーサ嬢に一目で恋に落ちたのかもしれない。


 エリアス兄上とエルランド兄上のお誕生会のための料理を厨房で作っていると、ロヴィーサ嬢がおにぎりに海老の天ぷらを入れてしまった。


「天むすです。天ぷらのおむすびですよ」

「天むす! なんて美味しそう!」


 ご飯に天ぷらはよく合うのだが、天ぷらに甘辛いたれをつけておむすびに入れるなどしたら美味しいに決まっている。おむすびの上に海老天の尻尾がちょこんと出ているのも可愛い。


「美味しそうです。今食べたい!」

「一個だけですよ?」

「いいんですか?」

「お味見です。王城では食べる暇がないかもしれないから、ある程度お腹はいっぱいにして行きましょう」


 そうなのだ。

 王族ともなると煩雑な儀式があったり、貴族からの挨拶を受けたりして、ゆっくりと落ち着いて食事をしている暇はない。それでも料理を持って行くのは、少しの暇があれば食べたい僕の食欲と、王家に僕の居場所があることを示したい僕の自己主張だった。


 ずっと僕は王城でモンスター由来のものや魔力のこもった食材で作られた料理を、ほとんど食べることができなかった。僕の食べるものは常人にとっては毒となりうるので、父上やヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上と食卓を共にしている以上は、できるだけ控えなければいけなかったのだ。

 おかげで僕は病弱で、すぐに衰弱して死にかけていて、ベッドから起きられない日もしばしばだった。


 ロヴィーサ嬢が勇気を出してモンスター由来のものや魔力のこもった食材で調理されたものを食べてみてくれて、魔族の血を引くものはモンスター由来のものや魔力のこもった食材で調理された料理を食べても支障がないと分かった。

 そうなるとヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も僕と同じものを口にしてしまっても命に別状はないので、王城に僕のための料理を持って行く決意をしたのだ。


 父上は魔族の血が入っているわけではないので、僕の食べるものを食べたら命が危ない。それは分かっているので、僕は料理を明らかに分かる別の色の皿に乗せて、爺やに見張ってもらって、父上を含め、他のひとが食べないようにすることを進めていた。


 今回のエリアス兄上とエルランド兄上のお誕生日では、僕は一つお願いをされていた。


「ロヴィーサ嬢とエドの作った料理だけを置くテーブルを用意しようと思っているんだ。厳重な警備を敷いて」

「ダミアーン伯父上も私たちのお誕生日には必ずいらっしゃるが、何も口にすることができない。申し訳なく思っていたんだ」

「エドと同じものならダミアーン伯父上も美味しく食べられるだろう」


 魔族にとって常人の食べるものは、ほとんど栄養にならない。食べないよりもマシなのだが、魔力を求める子どもの時期には、衰弱を加速させる要因にもなりかねない。

 この国に嫁いできた母上は、もう大人だったので魔力のこもった料理を食べなくても何とか生きていけたが、それでも病弱だった。

 ダミアーン伯父上はこの国に来るときには、自分で携帯食料を持ってきていて、王家で出されたものは何も口をつけない。


 ダミアーン伯父上が少しでも楽しく過ごして欲しいというのはエリアス兄上とエルランド兄上の願いでもあった。


 そういうわけで、僕とロヴィーサ嬢は少し多めに料理を作ってお弁当箱に詰めて王城に持って行っていた。


 ロヴィーサ嬢は新しく誂えたふんわりとした背中が編み上げになった薄紫のドレスに黒いストラップ付の踵の低い靴を履いて、僕は新しく誂えた藍色のスーツを着ていた。


 王城に着くと、先に僕とロヴィーサ嬢とダミアーン伯父上のためのテーブルに料理を置いていく。サンドイッチにスコーンにタルトに天むすを並べて、水筒の紅茶を用意されていたポットに注ぐ。

 準備ができると、僕とロヴィーサ嬢はエリアス兄上とエルランド兄上に挨拶をしに行った。


「お誕生日誠におめでとうございます」

「ありがとうございます、ロヴィーサ嬢」

「お祝いに来て下さって嬉しいです」

「エリアス兄上、エルランド兄上、おめでとうございます」

「エド、また背が伸びたね」

「髪の毛も伸びて。ダミアーン伯父上に似てきた」


 エリアス兄上もエルランド兄上もグレーのスーツを着て格好よく決めている。


「エド、わたくし、嬉しい知らせがありますのよ」

「ヒルダ姉上!」


 ヒルダ姉上が近付いてきて、僕を抱き締めてくれる。十三歳にもなって抱き締められるのは恥ずかしいが、ヒルダ姉上の愛情を感じて少し嬉しい。


「なんですか、ヒルダ姉上?」

「もう少し待っていてください。正式に父上から発表されるはずですから」


 ヒルダ姉上の嬉しい知らせに関しては、思い付くことがあったが、敢えてその場では口にしなかった。

 お誕生日会が始まると、ダミアーン伯父上がテーブルの上から料理を取っている。


「これは天むすか? この国で食べられるとは思わなかった」

「ロヴィーサ嬢は曾お祖父様から伝わった料理を作ってくださるのです」

「うん、美味いな。エドヴァルドは果報者だ」

「お褒めに預かり光栄です」

「ロヴィーサ嬢、これからもエドヴァルドに美味しいものを食べさせてやってくれ」


 ダミアーン伯父上がこんな風に王城で物を食べるのは初めてではないだろうか。天むすを頬張って紅茶を飲むダミアーン伯父上は、全ての動作が決まっていて格好いい。


 ダミアーン伯父上と話していると、父上が全員に向けて挨拶をする。


「本日はエリアスとエルランドの誕生日に来てくれて感謝する。エリアスは二十歳、エルランドは十八歳になった。エルランドは成人し、エリアスも立派な大人になった。それも見守ってくれる皆のおかげ。今後ともよろしくたのむ」


 そして、と父上が続ける。


「ヒルダに子ができた。安定期に入ったので、ヒルダから公表してほしいと言われた。隣国でヒルダも幸せに暮らしておるようだ」


 やはり、ヒルダ姉上の嬉しい知らせとは妊娠のことだった。

 ヒルダ姉上も隣国にお嫁に行ってから一年以上経つ。そろそろそういう時期ではないかと思っていたのだ。


「魔族の国に留学していますが、学ぶことが日々たくさんです。魔族がどれだけの魔法技術を持っているかを改めて知ることができました。これからも日々勉強と思っていきたいとも思います」

「まだ高等学校は卒業していませんが、成人の年になりました。これからはますます責任ある行動を心がけ、王家の名に恥じぬようにして行きたいと思います」


 エリアス兄上とエルランド兄上からも挨拶がある。

 二人の挨拶が終わると、ヒルダ姉上が優雅に一礼した。


「わたくしは今、隣国の王太子殿下のお子を身籠っております。この子がこの国との懸け橋となるように、健やかに生まれてくるように日々を過ごしております。隣国に嫁いでも、わたくしはこの国の王女。この国のことはいつも心に留めております」


 ヒルダ姉上の挨拶にダミアーン伯父上が歩み寄ってヒルダ姉上の肩に手を置く。


「ヒルダ、身体を大事にするのだぞ。健康な子を産めるよう祈っている」

「ありがとうございます、ダミアーン伯父上」


 ダミアーン伯父上に労わられて、ヒルダ姉上は目を潤ませていた。

 エリアス兄上とエルランド兄上のお誕生会は、夕方まで続いた。

読んでいただきありがとうございました。

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