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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
二章 高等学校二年生の王子

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8.マンドラゴラ品評会

 ロヴィーサ嬢が厨房で取り出したのは、鉄板に丸い窪みができたような調理器具だった。それを火の上に乗せて、小麦粉とお出汁と卵とお醤油と味醂を混ぜた生地と、大きめに切った蛸と、青ネギとキャベツのみじん切りと、天かすを入れていく。

 裏面が焼けると、ロヴィーサ嬢は器用に串のようなもので生地を回転させる。

 丸く香ばしい匂いのたこ焼きが出来上がる。


「僕もひっくり返してみていいですか?」

「裏面が焼けると、生地が動くようになるので、それを目安にしてください」

「はい」


 くるくると回る生地が面白くて、僕はロヴィーサ嬢にやらせてもらう。

 最初はロヴィーサ嬢のように真ん丸にはならなかったけれど、慣れてくるとかなり綺麗な丸になった。


 出来上がったたこ焼きにはソースとマヨネーズをかけて、鰹節と青のりを散らしていただく。

 外側はカリッとして、中はとろりと柔らかな生地に、ぷりぷりの蛸とキャベツとネギが絶妙で、どれだけでも食べられてしまう。

 大量に焼いたたこ焼きは、あっという間になくなってしまった。


「エド殿下の宿題を見ましょうね」

「お願いします」


 食後にはロヴィーサ嬢が僕の勉強を見てくれる。ロヴィーサ嬢に教えてもらうようになって、僕は成績が上がった。

 学年最初の試験では、上位五番以内に入れた。

 アルマスが不動の一番なので、僕とヘンリッキは一番にはなれないが、上位五番以内でも十分に成績はいい方だと誇れる。


「僕は自分が要領が悪くて、勉強ができないのだと思っていました」

「それは、家庭教師のせいでしょう?」

「ロヴィーサ嬢に教えてもらって、成績も誇れるようになってとても嬉しいのです」


 ロヴィーサ嬢にはどれだけ感謝しても足りない。

 僕の食べるモンスターを狩ってくれて、家庭菜園の世話も一緒にしてくれて、料理も作ってくれて、勉強も教えてくれる。

 こんなに完璧なひとが僕のお嫁さんになるのだ。

 僕はもっと自分を磨かなくてはいけないと思い始めていた。


 週末には、マンドラゴラ舞踊団の発表会と、マンドラゴラの競りが行われる。

 宣伝がギリギリだったのでお客の数がどうなるか僕は心配だったが、馬車で早めに僕とロヴィーサ嬢が会場に乗り付けたときには、入場券を買う長い列ができていた。

 僕とロヴィーサ嬢は主催側なので入場券なしで先に入れたが、この感じだと会場は満員になりそうだった。


 会場では奥に舞台が設営されていて、舞台の上でアルマスが手拍子でマンドラゴラを躍らせている。

 それを見て僕はようやく気付いた。

 多分、ヘンリッキも今気付いたのだと思う。


「アルマス、音楽はないんだね」

「え? 音楽がいるのか?」

「そうか……僕がもっと早く気付いていれば」


 手拍子で踊らせているアルマスは、舞踊団には音楽が必須だということを知らなかった。


「アルマス、舞踊団を見に行ったことがなかったのか」

「路上で踊ってるのを見たことはある。手拍子とタンバリンで踊ってたよ」


 それならばアルマスが音楽のことを知らなくても仕方はない。

 会場に来てからこんなことが発覚するなんて思わなかった。


「わたくし、オペラアリアを少しなら歌えますわ」


 申し出てくれたのはロヴィーサ嬢だった。

 貴族の御令嬢の嗜みとして、ピアノなどの楽器演奏と歌と踊りは、欠かせないものになっている。貴族の御令嬢としてきちんと教育されているロヴィーサ嬢は歌を歌うことができた。


「ロヴィーサ嬢の歌で踊らせることにしよう。ロヴィーサ嬢、お願いしてもよろしいですか?」

「間違えないか心配ですが、頑張ります」

「ありがとうございます、ロヴィーサ様」


 急遽、マンドラゴラ舞踏団はロヴィーサ嬢の歌で踊ることになった。リハーサルをしている間に、ヘンリッキがお母上を連れて来る。


「ロヴィーサ様、わたくし、ミニハープを弾けます」

「ハーヤネン公爵夫人、お願いできますか?」

「喜んで」


 ミニハープを持って来たヘンリッキのお母上とロヴィーサ嬢で、簡単な演奏ができるようになった。

 ミニハープの音色とロヴィーサ嬢の歌で、マンドラゴラが踊っている。

 ヘンリッキがタンバリンを持ってきて、アルマスも手拍子ではなくてタンバリンで演奏に参加させた。


 なんとかリハーサルもうまくいって、安心したところで開場の時間になる。

 マンドラゴラとロヴィーサ嬢とヘンリッキのお母上とアルマスは舞台袖に入って、僕とヘンリッキは客席の一番前からそれを見ておくことになった。


 椅子がないので全員立っているが、ぎゅうぎゅう詰めで、かなりひとが多いことだけは分かる。

 舞台にマンドラゴラとロヴィーサ嬢とヘンリッキのお母上とアルマスが出てくると、盛大な拍手で迎えられた。


 ロヴィーサ嬢とヘンリッキのお母上とアルマスは舞台の端で、マンドラゴラが舞台の中央で一列に並ぶ。

 ヘンリッキのお母上がミニハープで演奏を始めて、ロヴィーサ嬢が歌い始めると、それに合わせてマンドラゴラがラインダンスを始める。


 しっかりと隣りのマンドラゴラと手を繋いで、大根マンドラゴラは白い脚を、人参マンドラゴラは橙色の脚をしっかりと上げる。蕪マンドラゴラだけは手足が短いのでちょこちょこと手足を動かしているようにしか見えなかったが、それも可愛いのでいいことにする。


 見事なラインダンスを披露した後には、蕪マンドラゴラの蕪二号と、他の蕪マンドラゴラたちのフラダンスが始まる。蕪二号は一番真ん中で、その周囲を丸く囲むようにして他の蕪マンドラゴラが踊っている。

 短い手足をちたぱたと動かして一生懸命に踊る姿は健気で可愛かった。


 最後は大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号のデュエットダンスだ。ロヴィーサ嬢の歌とヘンリッキのお母上のミニハープの演奏も、情熱的なものになっている。

 しっかりと抱き合って踊り、リフトも見事に決めて、大根一号と人参二号はデュエットダンスをやり遂げた。


 会場から拍手喝さいが巻き起こる。

 大根一号と人参二号が舞台袖にはけてから、ロヴィーサ嬢とヘンリッキのお母上も深々と一礼して舞台袖に下がっていく。


 続いて出てきたのは、大根マンドラゴラの群れだった。


「見てください、一番左の大根マンドラゴラの腹筋!」

「えぇ!? 大根マンドラゴラに腹筋があるの!?」

「中央の大根マンドラゴラは、見事なシシャモのようなふくらはぎです!」

「大根なのにシシャモなの!?」

「右のマンドラゴラの白さといえば、大理石よりも輝いていることでしょう!」

「大根を表現するのに大理石は硬すぎない!?」


 アルマスの説明に、ついつい僕が突っ込んでしまうが、僕以外はあまり気にしていないようだ。

 出番の終わったロヴィーサ嬢が僕の隣りに来ていた。


「これ、どういうこと?」

「わたくしにもよく分かりません」


 アルマスのマンドラゴラの誉め言葉はよく意味が分からない。

 そうしているうちに大根マンドラゴラには値段がついて次々と売れていった。


 次は人参マンドラゴラが一列になって出て来る。

 アルマスは汗をかきながら一生懸命アピールしている。


「一番左の人参マンドラゴラの美脚! 踊り子も嫉妬します!」

「踊り子は人参に嫉妬しないよ!?」

「中央の人参マンドラゴラのセクシーなこと!」

「野菜だよ!? 野菜! セクシーとかないから!」

「一番右のマンドラゴラは足が体の三分の二あります!」

「そこ、売りポイントなの!?」


 アルマスの言っていることが僕には全く理解できないのだが、人参マンドラゴラにも次々と高値が付けられて売れていく。売れているんだからいいのではないかとは思うのだが、僕は突っ込むことを止められない。


 最後に出てきたのは蕪マンドラゴラだった。

 蕪マンドラゴラは赤ん坊が着るようなロンパースを着ている。

 どういうことなのだろう。


「蕪マンドラゴラの愛らしさ、皆様にも伝わっていると思います。このロンパースは私の父と母と弟と妹と協力して作りました!」

「もっと他に頑張るところあったんじゃない!?」

「一番左のマンドラゴラの愛らしさ、まるで歩き始めたばかりの赤ん坊のようでしょう!」

「蕪だよ!? 蕪は赤ちゃんじゃないよ!?」

「中央の蕪マンドラゴラは、一番の美幼女です」

「蕪に性別があったのー!?」

「一番右のマンドラゴラは、肌の白さが際立っています」

「どれも同じに見えるんだけどー!?」


 アルマスの意味不明な説明にツッコミを入れるだけで僕は息が切れてしまった。疑問に思っているのは僕だけで、他のひとたちは何とも思っていないのだろうか。


「ロヴィーサ嬢、アルマスの言うことが分かりますか?」

「いいえ、あまり……」

「そうですよね!」


 ロヴィーサ嬢は僕と同じだった。僕が安心していると、ヘンリッキがうっとりとアルマスを見詰めている。


「アルマス、活き活きしてる……。そんなアルマスが見たかった」


 ダメだ。ヘンリッキは恋のせいで盲目になっている。


 結果としてマンドラゴラは全て高値で売れて、アルマスとヘンリッキはかなりの収入を得た。

 アルマスもヘンリッキも満足そうにしている。


「来年もマンドラゴラ品評会をやりたいな」

「ぜひ、やろう」

「ヘンリッキ様、ありがとう」

「こちらこそ、アルマスの勇姿が見られてよかったよ」


 熱い友情を交わしているアルマスとヘンリッキに、僕とロヴィーサ嬢はそれ以上何も言わず、首を傾げながら馬車に乗ってミエト家に帰った。

 意味は分からなかったがアルマスの懐が潤うならそれでいい気がしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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