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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
一章 王子と冒険者の出会い

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29.夏休みとバーベキュー

 夏休みに入ると、僕とロヴィーサ嬢は荷造りをして、海のある土地までの列車の切符を買った。貴族や王族が移動するときには、車両一つを借り切って、従者も連れて個室(コンパートメント)席で移動するのが普通なのだが、僕とロヴィーサ嬢はそれほど事態を大事にしたくなかった。

 何かあったときのための護衛はロヴィーサ嬢が鬼の力の指輪をつけている限り必要ないし、爺やも最近は魔法植物を食べて魔力が回復してきている。


「魔力が回復するとこんなに体の調子がよくなるとは忘れていました。エドヴァルド殿下のこともお守りできます」


 爺やの心強い言葉もあって、僕とロヴィーサ嬢と爺やの三人で出かけることになった。

 出かける前に僕はロヴィーサ嬢のお父上に声をかけておいた。


「ロヴィーサ嬢と海に行ってきます。お父上は、いつもミエト家の執務をしてくださっている。お陰で僕はロヴィーサ嬢と出かけられます」

「楽しんで来られてください。あの子の母が死んでから、私はロヴィーサに迷惑をかけ通しだった。母が死んで悲しかったに違いないのに、あの子は冒険者になって家を支えなければいけなかったのです。ロヴィーサが失った少女時代を、エドヴァルド殿下が取り戻してくださっている気がします。ありがとうございます」


 お母上が亡くなられた十五歳のときからロヴィーサ嬢は冒険者になって、十八歳までミエト家の家計を支えていた。それは並大抵の苦労ではなかっただろうし、ロヴィーサ嬢のお父上が気にしているのも分かる。


 十五歳といえばまだ子どもと大人の中間で遊びたい盛りだ。そんな時期にお金の心配をしなければいけなくて、素性を隠して冒険者として働いていたなんて、ロヴィーサ嬢が気の毒になる。


 これからの時間で、十五歳から十八歳までの時間を取り戻せるとよいのだが。


 列車の駅までは馬車で行った。ロヴィーサ嬢は赤毛に見える魔法の髪飾りをつけていて、僕は帽子を目深に被っていて、どちらも冒険者として行動するときの服を着ていたので、目立つことはなかった。

 個室席に入ると、爺やが僕のために水筒を出してくれて、冷えたフルーツティーを蓋のコップに注いで渡してくれる。

 甘酸っぱいフルーツティーで喉が潤って、僕は一息つく。


「海までは一時間ですよ。エド殿下は泳ぎたいですか?」

「泳ぎはあまりしたくないです。波打ち際を歩くくらいならいいかな」

「それでは二人で波打ち際を歩きましょうね」


 水着を着て泳ぐのはちょっと抵抗がある。ロヴィーサ嬢の水着姿を見せたくないという気持ちもあった。

 一時間の列車の旅はあっという間で、僕とロヴィーサ嬢は海辺の町についていた。


 海辺の町でロヴィーサ嬢と僕が一番にしたのは、サンダルを買うことだった。


「靴では水辺は歩けませんからね」

「ロヴィーサ嬢、この花柄のサンダルはどうですか?」

「冒険者の格好には似あいませんわ」


 僕はロヴィーサ嬢に可愛いものを身につけて欲しかったけれど、ロヴィーサ嬢はがっしりとしたシンプルな作りのサンダルを買ってしまった。僕も同じようなサンダルを買う。


 海に行くと、砂浜が白く照り返しが眩しかった。

 サンダルを脱ごうとすると、爺やが止める。


「砂が焼けていてとても熱いですよ」

「そうなんだ……それじゃ、サンダルを濡らして歩くの?」

「水際でサンダルを脱ぐのです。濡れた砂は熱くありません」


 爺やに教えてもらって、僕は水際に行ってからサンダルを脱いだ。サンダルを片手に持って、ロヴィーサ嬢もサンダルを片手に持って、余った片手を繋ぐ。

 波が足元の砂を乱しながら、足を濡らしていく。


「海の水は意外と冷たいのですね」

「気持ちいいです」

「歩いているだけでも楽しいですね」


 ロヴィーサ嬢と手を繋げているので僕は浮かれ気分になっていた。

 歩いていると、遠くから悲鳴が聞こえる。

 ロヴィーサ嬢が素早くサンダルをはくのに、僕も倣った。


「クラーケンだ! クラーケンが襲ってきた!」


 叫び声が聞こえて海水客が逃げる中、ロヴィーサ嬢はそれを逆流して浜辺に上がってきている巨大な影に飛び付いた。

 大振りのナイフを構えて、クラーケンに飛びかかる。


 クラーケンは大きな蛸か烏賊の化け物とされているが、そのクラーケンは烏賊だった。


「烏賊焼き!」


 バーベキューとは火を起こして網の上で食材を焼く。烏賊を焼いたら美味しいのではないだろうか。

 僕は烏賊を食べたことがない。

 活きのいい透き通るような身の烏賊を見ているだけで涎が出てきそうになる。


 クラーケンの長い脚に攻撃されそうになって、ロヴィーサ嬢が逆にそれを切り落としている。

 イカゲソだ!

 天ぷらにしても美味しいと父上と姉上と兄上が言っていた。


 最終的に砂浜に投げられて、真っ二つにされたクラーケンはまだ足は動かしていたが、逃げることはできなくなっていた。

 ロヴィーサ嬢がクラーケンをさばいて、身と脚だけにしていく。


「クラーケンを倒したのか?」

「どこの冒険者だ?」


 海水浴に来ていたひとたちの中から声が上がって、ロヴィーサ嬢が処理を終えたクラーケンの身と足をマジックポーチに収納して宣言した。


「わたくしは、ミエト公爵家のロヴィーサ・ミエト。SSランクの冒険者です」


 ロヴィーサ嬢の宣言に歓声が上がる。


「ありがとうございます、ミエト公爵様!」

「助かりました、ミエト公爵様」

「浜辺の平和を守ってくださってありがとうございます」


 他の領地でもロヴィーサ嬢の名前は広がりそうだ。


 クラーケンを狩ると、爺やが予約しておいてくれたコテージに行く。

 コテージの前にはバーベキューセットが置いてあった。煉瓦で組んだ焼き場に、炭を入れて火を焚いて、上に乗せた網の上で食材を焼く。


 爺やが火の準備をしてくれている間に、ロヴィーサ嬢は食材とたれの準備をしていた。

 ニンニクや胡麻を混ぜた醤油たれと、柑橘系のさっぱりとした塩たれの二種類があった。


 ロヴィーサ嬢がバーベキューの網の上で肉やクラーケンを焼いて行く。塩コショウがされた肉やクラーケンは、それだけでも美味しそうだ。


「僕は烏賊を初めて食べます」

「美味しいものですよ。たっぷりありますから食べてください」

「いただきます」


 焼けたクラーケンを塩たれにつけて頂く。

 こりこりとした食感と、烏賊の味が口の中に広がってとても美味しい。


「美味しいです」

「実は、わたくし、こんなものも用意してきました」


 ロヴィーサ嬢が取り出したのはおにぎりだった。魔族の国から輸入されたお米で作られていて、魔力が籠っている。


「ご飯が欲しくなる味だと思いました! さすがロヴィーサ嬢」

「いいえ、見ていてください。これをこうするのです」


 おにぎりをそのまま食べようとする僕を止めて、ロヴィーサ嬢は醤油とみりんと味噌を混ぜたたれをつけて網の上で焼いてしまう。

 香ばしい匂いに僕は唾を飲み込む。


 焼き上がったおにぎりは外側はカリカリで、中はほっこりでとても美味しい。熱々だったので、僕は吹き冷ましながら食べた。


「エドヴァルド殿下のお母上は海がお好きでした」


 焼きおにぎりを食べながら爺やがぽつりと呟く。


「魔族の国では、王家の別荘が海沿いにあって、その別荘に行くのを毎年楽しみにしておりました」


 僕が知らない母上のことを、爺やが話してくれる。

 爺やは母上と一緒に魔族の国からやって来たのだが、僕が生まれてすぐに母上を亡くしているので、母上の思い出を語ることはなかった。


「母上の見た海と、この海は同じなのかな」

「海は繋がっております。きっと同じでしょう」


 しみじみと僕と爺やは海を見ながらバーベキューを楽しんでいた。

 僕と同じものをロヴィーサ嬢も食べていたが、全く問題はなさそうだった。


 曾お祖父様が魔族のロヴィーサ嬢でこれならば、母上が魔族のヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上はもっと平気だろう。

 このことに今まで気付かなかった僕も間抜けだった。


「ロヴィーサ嬢美味しいですか?」

「とても美味しいです。烏賊は新鮮でぷりぷりだし、他の食材も焼き立てで」


 僕のお誕生会でも僕のための料理を持って行っても問題はなさそうだ。

 ちょっと憂鬱だったお誕生会の暗雲が少し晴れそうな気がしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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