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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
一章 王子と冒険者の出会い

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25.恋の春

 春になる頃には、魔窟のモンスターも大量発生する。

 ロヴィーサ嬢は兵を率いて魔窟のモンスター退治に出陣した。そこには僕も加わっている。

 兵を率いているのだが、元々ロヴィーサ嬢は兵士を戦わせる気はなかった。兵士たちには捕まえたモンスターを持ち出してもらったり、処理をしてもらったりするつもりなのだ。


 魔窟の入口から右側の道を通って行くと、蟹のモンスターのいる部屋に出た。そこにはまた蟹のモンスターが増えている。ロヴィーサ嬢は蟹のモンスターを仕留め、危険がないようにハサミを縄で縛ってマジックポーチに収納した。


 右側の次の部屋に入ると、腰くらいまでの水が溜まっているのが分かる。

 濡れるのに構わずロヴィーサ嬢が水の中に入っていくと、鮭に似た巨大なモンスターが襲ってきた。

 水中に逃げるのでロヴィーサ嬢も苦戦したが、攻撃してきたところを捕まえて大振りのナイフで止めを刺す。


 右側の三番目の部屋も同じく水が深くまで溜まっていた。ロヴィーサ嬢が中に潜ってみて、何か大きな貝のようなものを持って浮かび上がってくる。


「エド殿下、ホタテです」

「ホタテ!?」


 貝柱が大きくて美味しいという噂のホタテがこの部屋には生息していた。


 道を戻って左側の部屋に行くと、最初の部屋には鳥のモンスターが復活している。鳥のモンスターを倒して、二番目の部屋に行くと、以前食べたことのある豚のモンスターがいた。

 豚のモンスターもロヴィーサ嬢は軽々と仕留めて、次の部屋に向かう。


 次の部屋にいたのはミノタウロスだった。

 僕には牛肉にしか見えないのだが、一緒に来ていた兵士たちは巨大なモンスターの出現に怯えているので、ロヴィーサ嬢の戦いの邪魔にならないように下がっていてもらう。

 ロヴィーサ嬢はミノタウロスも仕留めて、無事に魔窟の探索は終わった。


「エド殿下、鮭のモンスターのお腹にはたくさん卵が入っていますよ」

「イクラですか?」

「そうですね」


 深い海のような目を輝かせて報告してくれるロヴィーサ嬢に僕は食べるのが楽しみで仕方なくなる。

 僕は鮭も食べたことがないし、イクラも、ホタテも食べたことがない。


「恐らく、右側の部屋が海産物、左側の部屋が畜肉の養殖場になっている気がします」

「右側は蟹、鮭、ホタテで、左側が鳥、豚、牛ですからね。魔窟で畜肉と海産物をどちらも手に入れられるなんて嬉しいです」


 大量の食材は兵士が運び出して、厳重に手袋やマスクをして下処理をして、ミエト公爵家に運び込んでいた。


「定期的に魔窟にミエト公爵様がいらっしゃるので、安心して暮らせます」

「またよろしくお願いします」


 所領の民もロヴィーサ嬢の活躍に満足しているようだった。


 春になったので、僕とロヴィーサ嬢は爺やと一緒に庭の家庭菜園を開墾した。ロヴィーサ嬢が土を掘り返して、僕と爺やで畝を作っていく。

 種を植えると、すぐにぽんっと芽が出た。


「マンドラゴラも野菜もよく育ちそうですね」

「香草も夏にはよく茂るでしょう」


 ロヴィーサ嬢と話ながら汗をかいて農作業をするのも楽しい。

 終わった後はシャワーを浴びてお茶を飲む。


「これから日差しも厳しくなってきます。家庭菜園の世話をするのは早朝がいいかもしれません」

「高等学校に行く前に家庭菜園の世話をしてから、出かけるのですね。ロヴィーサ嬢はお弁当作りも朝食作りもありますが、大変ではありませんか?」

「お弁当作りも朝食作りも、家庭菜園の世話も、好きでやっていることですから」


 好きでやっていることだからといって、ロヴィーサ嬢にだけ負担が増えていくのは僕はよしとしなかった。

 僕は決意してロヴィーサ嬢にお願いする。


「僕にも料理を教えてもらえませんか?」

「エド殿下が料理をなさるのですか?」

「僕は食べられるものが限られています。僕の子どもが魔族だった場合には、僕の子どもも食べられるものが限られます。僕がお腹が空いたときに自分でできない、子どもがお腹を空かせているときに僕は何もできない、そんな自分ではありたくないのです」


 将来のことも考えて、僕は料理を覚えておきたかった。

 ロヴィーサ嬢も魔族の血を引いているので、僕とロヴィーサ嬢の間に魔族の子どもが生まれる確率はかなり高いだろう。


「ご立派なお考えです。そうでしたら、協力致します」


 その日から僕はロヴィーサ嬢と一緒に厨房にも入るようになった。

 厨房の隣りにはモンスター由来の食材や魔族の国から輸入した魔力のこもった食材、家庭菜園から収穫した食材の入った、巨大な食糧庫がある。


「今日は角煮にしましょうか」

「角煮、ですか?」


 それはまだ僕が食べたことのない料理だった。

 ロヴィーサ嬢は厚切りの豚のモンスターの三枚肉に調味料を入れてお鍋でことことと煮込む。その間にコカトリスの卵の茹で卵も作っていた。

 角煮が煮えると、その汁にコカトリスの卵の茹で卵を入れて更に煮る。


 付け合わせはチンゲン菜とキノコの炒め物と、ワカメのスープだった。

 チンゲン菜もキノコもワカメも魔力の宿っているものを使っている。


 一緒に作りながら僕はロヴィーサ嬢を尊敬していた。


「ロヴィーサ嬢は料理が本当に上手なのですね」

「上手なのかは分かりませんが、料理をするのは好きですね」


 言いながらロヴィーサ嬢が角煮の肉を小さく切って僕の口に入れてくれる。脂が口の中で蕩けるようでとても美味しい。


「美味しいです」

「料理には味見が必要なのです。もし、他の人物にエド殿下の料理を任せてしまえば、味見をすることができず、どんな味か分からないままにエド殿下の食卓に並びます。味覚を発達させる時期のエド殿下は、それを美味しいと覚えてしまうかもしれない」


 それが嫌なのだとロヴィーサ嬢は話してくれた。

 味がしっかりと分かっているものでなければ僕に食べさせたくない。


「ロヴィーサ嬢にもこの角煮は美味しく感じられているのですか?」

「美味しいですよ。大量には食べられませんが、少しならば食べても平気です」


 ロヴィーサ嬢は味見をする程度ならば平気だし、味も美味しく感じられているという。

 モンスターの毒素がロヴィーサ嬢には効かない体質で本当によかったと思う。


 その日のお弁当は角煮饅頭だった。

 出来上がった角煮を更に饅頭の生地で包んで蒸す。

 手の込んだことを毎日してもらっているのだという感動に、僕は料理を始めてよかったと思った。


 高等学校でお弁当を食べに中庭に行くと、ヘンリッキがアルマスにお弁当を手渡す。


「いつもありがとうな。ヘンリッキのお屋敷の厨房の料理人さんにも伝えてくれよ。ものすごく美味しいって」

「公爵家の厨房の料理人だから当然さ」

「そういうのはよくない。感謝はちゃんと伝えないとダメだよ」

「そ、そうか。伝える」


 時々高慢になってしまうヘンリッキも、アルマスに言われると素直になっている。アルマスは僕たち三人の中で頼りになるお兄さんだった。


「もうすぐ誕生日なんだよな。誕生日会なんて、やったことないんだけど、エドヴァルド殿下やヘンリッキは誕生日は盛大に祝われるんだろう?」


 ヘンリッキは秋生まれなのでもう今年度のお誕生日は終わっていて、僕は夏生まれなのでまだお誕生日は来ない。

 アルマスがもうすぐお誕生日だということも、僕は初めて聞いた。


「アルマスのお誕生日には、ミエト公爵家でパーティーを開くか?」

「いいのか? 俺の両親も弟と妹も来たがるぞ?」

「全然構わないよ。ミエト公爵家は舞踏会も開けるだけの大広間がある」


 ただ気を付けないといけないのは、僕の食べるものを厳重に他のひとたちと分けなければいけないということだった。僕が食べるものは他のひとたちにとっては毒になりかねない。


「私も参加してよろしいですか、エドヴァルド殿下?」

「ヘンリッキも当然参加すると思っていたよ」

「光栄です」


 ヘンリッキも目を輝かせて喜んでいる。

 アルマスと僕と仲良くなってからヘンリッキは変わった。

 時々妙な発言をしてしまうこともあるのだが、注意されればすぐに改めるし、何より、アルマスととても仲がいいのだ。


 アルマスのお誕生日にヘンリッキはアルマスに告白するのではないだろうか。

 僕は恋の予感に胸がドキドキしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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