10.エリアス兄上のお誕生日
エリアス兄上とエルランド兄上はお誕生日が近かったから、同じ日にパーティーを開いていた。
エリアス兄上も国王陛下になって、エルランド兄上と同じ日にパーティーを開くわけにはいかなくなった。国王陛下のお誕生日なのである。国で盛大に祝われなければいけない。
父上は母上を亡くしてから喪に服して、お誕生日も小規模に家族だけで祝っていたが、エルランド兄上はそういうわけにはいかない。
エルランド兄上のお誕生日は王城で盛大に祝われることになった。
僕もロヴィーサ嬢も正装を誂えてエリアス兄上のお誕生日パーティーに臨む。その後にはエルランド兄上のお誕生日パーティーもあるので、予定は詰まっていた。
王城に行くとエリアス兄上とユリウス義兄上が仲睦まじく寄り添っているのが分かる。
エリアス兄上とユリウス義兄上のキスの話も聞いたが、二人は本当に愛し合っているのだと僕は実感する。エリアス兄上とユリウス義兄上のような関係に、僕もロヴィーサ嬢となりたいと思っていた。
大広間に貴族たちが集まると、エリアス兄上が挨拶をする。
「私が国王となってから初めてのお誕生日会に来てくれて感謝する。私はまだ国王になったばかりで足りないところも多々あると思う。父上とユリウスの助けを借りて、これから国王として成長していきたいと思っている。これからもこの国を共に支えて欲しい」
エリアス兄上の挨拶に拍手が起きる。
「最愛のエリアスがお誕生日を迎えられるのもこの国が平和であるからこそ。今後ともこの国の平和と安全を守っていきたいと思います」
ユリウス義兄上もエリアス兄上に寄り添って挨拶をしていた。
大広間で立食パーティー形式だが、王家の食べるものには制限がかかっている。毒殺を警戒するために、テーブルが別になっているのだ。
僕がテーブルに近寄って行くと、先にダミアーン伯父上が料理を取っていた。
ダミアーン伯父上も国王陛下であるエリアス兄上の伯父ということで、王家のテーブルから食事を取っている。
そのことはそれだけダミアーン伯父上が僕たちと親しいことを示している。
「エドヴァルド、このサンドイッチ、なかなか美味しいよ」
「どれを取りましたか?」
「これだよ」
ダミアーン伯父上に教えてもらって、僕も同じサンドイッチを取る。齧るとメンチカツが入っているのが分かる。肉の食感の残るメンチカツはちょっと甘めのソースがよく合って、僕はあっという間に一個平らげてしまった。
「ダミアーン伯父上の言う通り美味しかったです」
「エドヴァルドは食べるのが早いな」
「美味しいとすぐに食べてしまうのです」
王城の料理は美味しいけれど、どこか味気ない。
ロヴィーサ嬢の料理の方が美味しいとどうしても考えてしまう。
次のサンドイッチに手を出すのを躊躇っていると、エルランド兄上がセシーリア嬢をエスコートしてテーブルのところまで連れてきた。
エルランド兄上の目はセシーリア嬢しか見ていない。
「セシーリア嬢、私のお誕生日にも来てくださいますか?」
「もちろんです。わたくし、エルランド殿下のお隣りに立たせていただけるのでしょうか」
「私の隣りに立っていただければ嬉しいです」
セシーリア嬢とエルランド兄上の仲もうまくいっているようだ。
ダミアーン伯父上が目を細めて二人を見ている。
「小さかったヒルダが子どもを二人生んで、エリアスは結婚、エルランドとエドヴァルドは婚約。私も年を取るものだな」
「ダミアーン伯父上は結婚を考えていないのですか?」
僕の問いかけにダミアーン伯父上が苦笑する。
「運命に出会っていないのでね」
僕はロヴィーサ嬢に出会ったときに運命だと思った。エリアス兄上もユリウス義兄上に出会ったとき運命だと思ったはずだ。父上と母上も、エルランド兄上とセシーリア嬢も同じく。
この世界には運命の相手というものが存在すると言われている。その相手は一目見れば分かって、その相手以外と結ばれることはできなくなるような強い絆を感じるのだという。
僕自身もロヴィーサ嬢に出会うまでは運命論に肯定的ではなかったが、出会ってしまったらもうロヴィーサ嬢のことしか考えられなかった。
「ダミアーン伯父上の運命のひとは、どこで遠回りをしているのでしょうね」
「早く出会いたいのだがね」
笑っているダミアーン伯父上に、僕は本当にダミアーン伯父上は運命と出会っていないのか懐疑的な目を向けてしまっていた。
アンニーナ嬢に熱心に口説かれたときに、ダミアーン伯父上はアンニーナ嬢の求婚をはっきりと断らなかった。
ダミアーン伯父上はアンニーナ嬢に何か感じたのではないだろうか。
僕がじっとダミアーン伯父上を見ていると、ダミアーン伯父上は不思議な笑みを浮かべていた。
エリアス兄上のお誕生パーティーが終わると、エルランド兄上のお誕生日パーティーが二日後に行われる。
あまりに近いのでダミアーン伯父上とセシーリア嬢は賓客として王城に泊っていた。
「この機会にセシーリア嬢を口説く!」
エルランド兄上は気合を入れているようだ。
もしかすると、この機会にセシーリア嬢とキスをするのかもしれない。
僕はひっそりとエルランド兄上を応援していた。
エルランド兄上のお誕生日パーティーのときに、セシーリア嬢はエルランド兄上の手に手を重ねて、隣りに立っていた。
「国王陛下であるエリアス兄上のお誕生日から私のお誕生日まで日がなくて慌ただしい思いをさせて申し訳ない。この度は私のお誕生日に来て下さってありがとうございます。去年は魔族の国に留学して魔族の暮らしを学んだ一年でした。今年はこの国のことをより深く知って、エリアス兄上の補佐となれるように勉強していきたいと思います」
そして、とエルランド兄上が続ける。
「研究課程を卒業した暁には、セシーリア嬢と結婚して、幸せな家庭を築きたいと思っています」
「エルランド殿下が研究課程を卒業されるのをお待ちしています」
幸せな婚約者同士の挨拶に僕が胸を暖かくしていると、貴族の中からひそひそと声が聞こえる。
「セシーリア様はエルランド殿下よりも相当年上とお聞きします」
「国王陛下は王弟殿下たちのお子を養子に迎えると言われている」
「ミエト家の王弟殿下が次の国王陛下の実父になるのでしょうか」
僕にとってはまだまだ遠い話だし、結婚もしていないのに、貴族の中では次の国王陛下を誰が産むかが問題になっている。
ロヴィーサ嬢の産んだ子どもが次の国王陛下になる可能性があることに関しては、僕も考えていたし、寂しくなると思っていたが、貴族の中ではそういう問題ではなくはっきりとした権力争いに繋がっているのだ。
話を聞いていると、難しい顔になる僕にロヴィーサ嬢が凛と顔を上げる。
「陰に隠れてセシーリア様のことを言うものは、王家に反逆の心ありと思われても仕方ありませんよ!」
水を打ったかのように大広間が静まり返る。
静かになった大広間でロヴィーサ嬢は優雅にエルランド兄上にお辞儀をした。
「出過ぎた真似を致しました」
「いいえ、すっきりしました。私が言わないのがよくないですね。セシーリア嬢が子どもを産める、生めないに関わらず、私の愛は変わりません。そのような下衆な考えでセシーリア嬢を貶めるものは、この会場から出て行って結構!」
エルランド兄上の強い言葉に話をしていた貴族たちは縮み上がって会場の端に逃げて行った。
エルランド兄上はロヴィーサ嬢に目礼をして、ロヴィーサ嬢も優雅に頭を下げていた。
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