第九十四話*《十日目》衣装一新!
キースはいつまでたっても私から離れようとしないのだけど、どうすればいいのだろうか。
この状況が嫌なわけではなくて、とても恥ずかしいだけなので振り払うことも出来ないというジレンマ……!
となると、無心になるしかない!
とりあえずフェラムに問題のスクリーンショットを見せた。するとどこからか運営チームがわらわらとやってきて、スクショに熱い視線が。
『……なるほど。そして今、職がなくなったために職が書かれていた部分は空白になっている、と』
『はい。比較対象として、正式サービス開始一日目のスクショもお見せします』
動画も撮っていたけど、スクショもちまちまと撮っていたのだ。
スクショは楓真には渡してないけれど、楓真ならきっと動画からスクショっぽく画像を抽出するのは簡単だろう。……たぶん。
動画の編集ってものをやったことがないので細かいところは分からないのですよ。
それはともかく!
最初の最初は残念ながらスクショは残ってないのだけど、途中から重要そうなところはスクショを撮っている。動画もあるから遡って探せるけど、動画だから大変なのよね。
フェラムは私が見せている一日目と今日のステータスを見比べて、眉間にしわを寄せていた。
『なるほど、洗濯屋のステータス上昇は面白いですね』
『そ、そうなの?』
『攻撃力も魔力もステータス上では上がってません。防御系は上がってますが』
『ステータス上ではって?』
『ステータスのここの部分は、種族と選択した職で基本性能が決まります』
『へー』
『へーって、知らなかったのか?』
『まったく知らないわけではないですけど、気にしたことがなかったので』
ちなみにキースはずっと私を抱きしめている。いい加減、飽きてほしいのだけど、その様子はない。
『それで、攻撃力と魔力ですが、ステータスが上がった方がより武器の力を引き出すことが出来ます』
『ほうほう』
『同じ武器を持っても、プレイヤースキルもさることながら、このステータスも重要になってきます』
『両方を兼ね備えていると超つおい! ってことですね』
『端的に言えばそうです』
私のツッコミにフェラムは淡々と返してきた。
アーウィスくんみたいなのも困るけど、フェラムも絡みづらい。
『洗濯屋は防御系と体力……いわゆるHPですね。こちらはかなり増えてます。それと、MPですね』
フェラムの指摘に確認してみると、言われたとおりだった。
『ステータスの上がり方がタンクに似てるんですよね』
『タンク、ですか。洗濯屋はバッファーと聞いてます』
『バッファー……だとっ?』
あれ? 運営は知っていると思っていたんだけど?
『え? 知らなかった……んですか?』
『なるほど。だからミルムは削ったのか』
となると、AIが復活しても私の職が復活するとは限らないってこと?
いやでも、AIが復活すれば、システムさんと結託して復活させてくれそうではある?
それとも、洗濯屋の復活を諦める?
せっかくスキルの使い方も慣れてきたのに、諦められるの?
考えてみたけど、出た結論は。
──そんな簡単に諦められない! だった。
『ところで、フェラム。答えられる範囲で構わないのだが、どうしてフィニメモにはバッファーがいない?』
その質問は想定内だったのか、フェラムは薄く笑みを浮かべると答えた。
『いるのですよ、バッファーは』
『え?』
『誤解のないように先に言っておきますが、レア職ではありませんよ』
な、なんだってぇ?
『ただ』
『ただ?』
『条件が厳しいのは否めませんね』
そ、そうなのか。
『だから、システムが勝手に作った職がバッファーというのは解せぬ』
解せぬ、なんて言われても。ねえ?
『この話は配信するのか?』
『……え?』
『運営が知らぬと思っているのか?』
『フーマの、ですか?』
『そうだ』
『駄目というならしませんけど?』
『駄目……ではない』
『そうですか、よかったぁ』
フーマはいい感じに編集をしてくれるだろう。
そういえばずいぶんと前の話だけど、畑回はものすごく面白おかしく編集されていた。キースがいい感じに壊れキャラになっていて、思わずげらげらと笑った。
……あの時はまだ、ウーヌスとトレースは。
『はぁ』
思わず、ため息が洩れる。
『リィナ、大丈夫だ。運営チームには必ず勝つ』
『……うん』
『それはどうですかね?』
『余裕そうにしているが、あいつらが来たから、運営チームの勝ちはなくなったぞ』
キースが指さす先を見ると、見たことのないほど厳つい装備をまとった集団だった。
『ふっ、彼らは確かに強い。だがPvPになったらどうかは分からないぞ』
『基本はPvEと変わらない』
そうかもだけど、相手は中身入りなのだ。しかも運営なのだから、どんな卑怯な手を使ってくるのか、想像もつかない。
『それでは、我々もいい加減、準備をしますか』
かなり長い間、話していたような気がする。
キースはパーティを解散させた後、すぐに私を勧誘してきた。
『さて』
『あいにゃ!』
『くぅ。……マリーたちも来たな』
キースはなにかに耐え、それからマリーたちを勧誘した。
『一枠空くが、まぁ、いい』
前にパーティを組んだときは、ドゥオがいた。それが今は……。
『勝ってみんなを取り戻さないと』
『そうだな。あとはリィナの職な』
『……うん』
『あら、お姉さまの職』
『削除された』
『なんと!』
マリーは私の前に立つと、よしよしと慰めるように撫でてくれた。
明らかに私の方が年上なのに、マリーはしっかりしてるからか、頼りがいがある。
『そうですわ! お兄さま、お姉さま。こちらに着替えてくださいな』
そういって渡されたのは、青い防具?
『青……ではなくて、これ、もしかして』
『藍で染めてみましたの』
『ほう』
キースの藍い髪には合いそうだけど、私の紅髪に果たしてコレは合うのだろうか?
でも、せっかく作ってくれたので、着てみよう。
『……って、え、キースさん、もう着替えたのっ?』
『すぐに着替えられるぞ』
『そうなの? どうやれば?』
『インベントリに入れて』
『はいな』
『まず、インナーを選択して、着用を選ぶ』
言われるままに操作すると、上を着ているから見えないけど、変わったようだ。
『そうやって着替えれば、簡単にできる』
『ありがとにゃあ』
キースにやり方を教えてもらったので、着替えてみた。
インナーに、ペチパンツに細身のワンピース。さらにその上に腰丈のローブ。どれも藍色だ。
ワンピースは長袖で、襟元は鎖骨がチラリと見えるくらい。柔らかい生地でできていて、細身のデザインではあるけど、とても動きやすい。そしてスカートは足首くらいまでの長さがある。こちらも同じく柔らかめの生地で出来ているけど、フレアスカートだ。立っているだけだと分からないけど、動く度にヒラヒラと揺れてとてもかわいい。
腰丈のローブは薄手の布だけど、こちらはなにか特殊加工でもされているのか、動くと光をはじいてきらきら光っている。袖は幅広で、袖の先部分は白いレースが取り付けられていて、アクセントになっていた。
全体的に着心地もいいし、動きやすい。しかもスカートがヒラヒラ! ローブもヒラヒラ!
『お姉さま、予想以上にかわいいのです!』
スクリーンショットにして、自分の姿を見てみた。
な、なにこれ! 超可愛くないっ?
紅髪だからと思ったけど、藍色がいい感じに映えている。
『う、うん。マリーちゃん、これ』
『わたくしデザインです!』
『天才過ぎる!』
『うふふ、お兄さまとお姉さま、おそろいなんですのよ?』
キースを改めて見ると、先ほどまで着ていた若干動きにくそうな装備から変わっているのは分かっていたのだが、予想以上に似合っている。
マリーが言ったように、意匠など共通するものが多くあり、おそろいになっているのが分かった。
キースは私と同じと思われる生地で作られた藍色の長袖シャツの上に柔らかそうな藍色の革で出来た肩当てと胸当て。下もやはり藍色のズボンに上からひざ当てをつけていた。
『かなり動きやすいな』
『そのうえ、前のより防御力が格段に上がっていると思うのです』
私のは明らかに防御力が上がっていると思うけど、キースのもなの?
『クイさんにお願いして、布に特殊効果をつけてもらいましたのよ』
クイさんも洗濯屋なので、布に特殊効果をつけることが出来る。
『お目当ての効果がつくまでクイさんには頑張ってもらったんですの』
な、なんと、そんなことをしていたのかっ! マリー、恐るべし!
『わたくしもフーマさまとおそろいにしましたの』
フーマから日本に戻ると連絡が来て以来、音沙汰がない。とっくに日本に着いているはずなのに。
律儀な性格をしているので、連絡を忘れているのではなく、なんらかの理由でできないのかもしれない。
飛行機事故の話は聞かないので、藍野家の保護下に置かれているのだろう。
マリーの装備も前に見たのとは変わっていた。
前と同じく黒が基調なのは変わらないけど、ところどころに金色を取り入れている。
黒のレギンスにひざ丈の幾重にも重なったレースのスカート。固めの生地で出来ているようで、私のとは違ってヒラヒラしないけど、裾がマリーの動きに合わせて動く。
ますます可愛くなっているのですけど!




