第五十七話*《四日目》「やらかしの女神」の称号
正式サービス四日目の夕方、フィニメモにログインしました。
台所に行くと、なぜかお葬式ムードなウーヌスとトレースがいた。
あれ、お店、まだやってる時間だよ、ね?
「あの、お店でなんかトラブった?」
そう聞くと、ふたり同時に全力で首を振った。
あれ、違うの?
「お店はおかげさまで順調ですよ」
「そ、それならよかった? あ、そうだ! 野菜を狩りに行ったとき、農家組合にいくばくか払ってるって話と、ここの家賃代、あなたたちへのお給料のこととか聞きたいと思っていたのよね」
なんかバタバタしてそれどころじゃなかったから、今のうちに聞いておこう!
「先ほどもいいましたが、お店は順調どころか、手が足りないくらい繁盛してます」
「ありゃ、それ、私も手伝ったほうがよいってこと?」
「そこは大丈夫です」
とはいえ、オーナーの私? はこんなにのんきにしていていいのかしら?
「リィナさんはむしろ、ムカつきますがあの男とともにさらに強くなっていただきたく」
ま、まぁ、それはそうなのかもだけど。
ウーヌスからしたら、キースって嫌なヤツなの?
「ウーヌスとトレースはキースのこと、嫌いなの?」
「嫌いですね」
「あいつ、リィナといちゃつくから嫌いだ」
「そりゃどうも」
「うわっ、キースさんとマリーと伊勢と甲斐っ」
キースは台所に入ってくるなり、私の後ろに回ると腰に腕を回してきた。
「リィナ、ただいま」
「にゃっ! キ、キース、さんっ!」
「フーマからお許しが出たからな」
「いやそれ絶対に出てない!」
フーマめ、なにが言っておくだ! 悪化してるぞ!
「殺意」
「リィナさんもなぜその男には甘いのですか」
トレースとウーヌス、不穏ですNe☆
「なんだろうね?」
それは私にも分かりません!
「お姉さま、約束のもふもふですわよ」
さらにマリーが混ざってきて、カオス。
後ろにキース、前にマリーと兄妹に挟まれて、もふもふを堪能。
「至福だにゃ」
……な、なぜ語尾が猫っ?
「お姉さま、かわいい」
そう言ってマリーが抱きついてきたので、語尾が猫問題はいいとする。いや、むしろマリーがかわいいと言ってくれて抱きついてきたので、よし!
それにしても、この兄妹の親愛表現はどうなんだ?
「あ、そうだ! フーマから伝言を言付かっていたの! マリーちゃんに『約束守れなくてごめん』って」
マリーはなぜか私の肩の辺りに頬を擦り寄せながら返事をした。
「フーマさまとは先ほど、直接お話をして、謝罪されましたわ」
「直接言えたんだ、それならよかった」
楓真、すごく気にしてたもんね。良かった、良かった。
「ふふ、そんなにわたくしのことに心を砕いてくださっていたなんて、とても嬉しいですわ」
楓真は出来る男だからね。
こんなにかわいい子に親愛されてるのなら、それくらいはするだろう。なんたってあいつは陸松家の男子だからね! 父の過剰な愛情表現は血が成すことだ。
「お兄さまも触ってもよろしくてよ? 特別に許可してあげますわ」
ん?
「あれ、マリーちゃんに勝手に触ったけど」
「お姉さまとフーマさまは別ですのよ」
そ、それならセーフなのか。
「みなさんがお揃いになったので、話しますね」
ウーヌスはさっきの不穏発言から一転して、このカオスな状況にもかかわらず、いつもの真面目な表情で口火を切った。
「座って聞いた方がよい?」
「いえ、そのままで」
分からないけど、キースが背後でウーヌスに圧力でもかけているのだろうか。ウーヌスの顔が心なしか引きつっている。
「まず、この洗浄屋の建物ですが、賃貸ではございません」
「……へっ?」
「リィナさんが所有者とお伝えしたかと思いますが?」
「えっ? な?」
所有者と言われても、この建物を所有するためにはお金が必要だと思うのですけど?
……ここはいくらリアル寄りとはいえ、ゲーム内だ。なんらかの不思議パワーが働いた、そう考えよう。
でも激しく不公平感が。
「リィナさんが気になさっていることは分かります。どうして自分だけ最初からこのように優遇されているのか、と」
「はい」
「それは、あなたが最初のユニーク職をゲットしたからですよ」
…………………………?
「ちょ、ちょっと?」
え、待って待って待って!
ログイン前の紅髪と紅瞳のやらかしから始まって、ログインした瞬間についたと思われるこの職からして……。
「最大級のやらかしっ?」
「……だな。おめでとう、リィナ。やらかしの女神の称号を与えよう」
「な、なに言ってるの、キースさんっ!」
キースが私のことをやらかしの女神と言ったからなのか、システムからメッセージが届いた。
【おめでとうございます。
リィナリティさんは今までの偉業が世界に認められ、
『やらかしの女神』の称号が贈られました】
「うわっ! なにこれっ! なんでシステムまで悪乗りしてるのっ? なによ、やらかしの女神って! というか、キースさんもシステムと結託しないでくださいっ!」
「してないぞ? むしろ、システムの悪乗りを助長させたのはリィナだ」
「だから前に言ったではないですか。この世界はだれからもの手を離れた、と」
「え、でも、運営が」
「神が作った世界ではありますが、一度、形になり動き出せばだれも制御することができない世界になります」
フィニメモはゲームだけど、そうではないということ?
ウーヌスがなにを言っているのかまったく分からない。
「まぁ、あなたほどシステムとの親和性が高い人もなかなかいませんけどね」
「……はいっ?」
「私たちはあなたがこの世界の真実を暴くことを期待しています」
ウーヌスの口から出てきた言葉の数々は暴力的だったけど、そのことについて詳細は語られない。
次々ととんでもないことを聞かされたのだけど、どう処理しろと?
「あなたはあなたが感じたまま、心のおもむくままでいいのです。なにも構えることはありません。自然体でいれば、世界はおのずとあなたにその姿をさらすでしょう」
うん、分からん!
キースといい、ウーヌスといい、やらかしだと言う割には止めない。むしろもっとやれと言っている?
「リィナはリィナさ」
クイさんがやってきて、みんなにお茶を淹れてくれた。
キースとマリーは私から離れて席についたので、私も座った。
「洗濯屋はユニーク職、ということはだ」
「NPCには何人かの洗濯屋はいますが、プレイヤーはユニークというだけあり、一人しかなれませんし、もし、リィナさんがなんらかの事情で削除しても、今後、この世界にはプレイヤーの洗濯屋が現れることはありません」
ユニーク職なんて初めて聞くけど、本当にユニークなのか。
「リィナさんが洗濯屋になったのは、この世界の意思。あなたはこの世界を冒険することで、世界があなたになにを期待しているのか、わかるかと思います」
ですが、とウーヌスが続ける。
「そんなに重たく感じることも、構えることもありません。あなたはあなたのまま、ありのままでいいのです。それを世界が望んでいるのですから」
ウーヌスの言葉は矛盾をはらんでいるけど、特に気にしなくてもいいってことね。
「うん、分かった」
「それでいいです」
しかし、ウーヌスはいつもこうして重要なことを伝えてくるけど。
「ウーヌスはその」
「何者なのか、と言いたいのか?」
キースのフォローに無言でうなずく。
「そんな大した存在ではありませんよ。私はあなたたちに世界の──システムのと言った方が分かりやすいですか? 意思を伝える役目を担ってるだけです」
「良く分からないけど、世界に……システムに意思があるってことね?」
「そう思っていただいて問題ありません」
これは運営が意図してたものなのだろうか?
さすがにしてないか。
だってウーヌスの今までの言葉を統合すると、フィニメモは運営が制御できないところに来ているということだ。
簡単なバグを直すことはできるだろうけど、世界の根本を修正しようと思っても、根付いてしまってできないという話になる。
その覚悟をなくして世界を作るなということか?
「あとは……農家組合には洗濯屋の収入を割り当てていますし、私たちはきちんと働いた分のお給金をいただいてます。あとはなにか質問は?」
「あの、さっき、NPCに何人か洗濯屋がいるって言ってたけど」
「あぁ、それはあたしさ」
「クイさんが?」
「オルとラウは洗濯屋ではなく、そういう種族と思っていて構わない。ラウはブラウニーだから、家の清掃全般のことができるってわけさ」
なるほどね。
「なので、洗濯屋となると、ここではあたしだけだねぇ」
「私はリィナさんにシステムの意思を伝える者」
「俺は……なんだろな? そいつに助けられたからここにいる」
「命の恩人をそいつ呼ばわりか」
「おまえはリィナを独り占めしようとするからだ!」
なんだか良く分からないけど、そういうことらしい。
うんこれ、またもや楓真が悩む案件ですNe☆




