第三十八話*【楓真視点】これをまとめて動画にしろ……だと?
ただいまの時刻、イギリス時間で朝の八時、日本はプラス八時間なので、夕方十六時。
俺の手元には、莉那から送られた一日目の午後から三日目の午前中の動画がある。
とりあえずここまでの動画を見て、どう編集をするのか考えるとする。
……ひととおり、動画を見た。ただ、もらったものを真面目に一から再生していたらいつまでも見終わらないので、適度に飛ばしながら、だが。
一日目の午後の動画だけでも処理を仕切れないほどの殺人的なやらかしでとんでもない情報量だったのに、さらには二日目の動画のやらかし具合がひどすぎる。
莉那は俺を殺す気なんだろうか。
……さて、と。
まぁ、動画の編集を思えばこれだけの素材があるのは嬉しい悲鳴ではある。
あるのだが、暴力的なまでのやらかしの内容すぎて、なんというか、お腹いっぱいなんだが。
……まずは整理してみよう。
フィニメモ正式サービス一日目。
午前中の動画は撮っていないため、なし。
しかし、話を聞いた限りでは、
・リィナの見た目がエルフではあり得ない紅髪(キース情報)
・レア職業の中の超レアらしい洗濯屋を引き当てる
・洗浄屋なる場所に連れて行かれる
・NPCに勝手に名前を付ける
・拠点(洗浄屋)をゲットする
軽く思い返しただけでこれだけあるのだ。
ちなみに一日目の午前中のことはキースからもたらされた情報も入っている。
さらには、一日目の午後は……。
ここから莉那は動画を撮り始めてくれたのだけど、これだけでお腹いっぱいになる。
・NPCに愛称をつける
・NPCが歓迎会を開いてくれた
・歓迎会で出てきた料理のレシピを教えてもらうためにNPCたちと一緒に材料を取りに行こうとする
・村から出た途端に襲われて初エンド
・もう一度チャレンジしたが、またもや死亡
・洗濯屋の役割を知る
細かくあげるときりがないのでおおざっぱにまとめたが、こんな感じか?
さらには二日目。
二日目は朝、昼、夜の三本ある。
これらの内容も濃すぎて、俺が知っているフィニメモとは違うように見えてしまう。
まずは二日目の朝というか午前中。
・洗濯屋のスキルが追加で判明
・クエストを受ける
・クエストで村長の屋敷に行く
・突発クエスト発生
・ブラウニーを助ける
・もろもろあってブラウニーと屋敷にいたウサギ獣人を洗浄屋に連れて帰る
箇条書きにしてみたが、どれもこれもパンチが効きすぎておかしくなる。
さらには、二日目のお昼。
・新スキルを取得
・エクストラ・スキルを取得
このふたつともまたもややらかし案件ではあるが、今までの数の暴力と言っても過言ではない数に比べれば、二日目のお昼は少ないと思えてしまう。
いや、内容を見たら、とんでもではあるのだが、すでに感覚が麻痺して「あ、ふたつなのか、少ないな」と思ってしまう自分がいる。
二日目の夜。
・キースが洗浄屋に来ていた
・二エンドはモンスターおびき寄せシールのせいだった
・洗浄屋のある建物はリィナが所有者と発覚
・キースにユニーク・クエスト発生
・キースとリィナ、フレンドになる
・NPCからお茶の淹れ方のレクチャーを受ける
・キースと花火を見に行く
ここでキースの登場。さらにとんでもなことが起こりそうで、すでに頭が痛い。
しかも二日目の夜、今までにない内容の濃さに俺はすでにどうすればいいのか分からず、お手上げなんだが。
これ、編集の仕方によってはリィナひとりが攻撃の的になりかねない。
というのも、キースは女性プレイヤーの間では激しく人気があり、過激な人たちが多い。
そのためにリィナはあのシールが貼られるという憂き目に遭うわけだ。
キースとフレンドになったとか、ユニーク・クエストでキースが見守る対象になったなんて知れたら……。
ん? 待てよ。
あのユニーク・クエスト、受領者と対象者に直接、間接にかかわらず、妨害をしたら最悪BANになるとあったか。
それを利用するか。
まずはこのユニーク・クエストを配信して……。
次に三日目の朝。
・畑に野菜を狩りに行く
・バイオレンス野菜
このふたつだが、大いに笑わせてもらった。
これはかなり面白かったので、ユニーク・クエストの後に配信してしまおう。
時系列で配信していたら、いつまでも終わらない。それくらいの量と質があった。だから受けそうなところだけピックアップすることにした。
それに、やらかし具合が半端ないので、中途半端に出すとなんだか色々マズそうなので、当たり障りのないものにしてしまおう。
その当たり障りがなさそうなところもたいがいがやらかし案件ではあるが。
とはいえ、せっかく提供してもらったし、使わないともったいない。
編集やら選定で土日が思いっきり潰れそうだけど、これはこれで楽しいから、問題ない!
すでにめぼしい観光スポットは一通り案内してもらって見たので、これから先、毎週末、部屋に引きこもって編集でも問題ない。
海外勤務は早くて一年と言われている。長期戦なのだ。
◇
そんなこんなで、ユニーク・クエストの回は形になった。
フィニメモ正式サービス後の初配信なので、俺ではなく莉那……リィナリティが動画を撮ることになった経緯を軽く入れたりとしていたら、思っていたより尺が長くなった。
ちなみにシリーズで配信をするのは決定なので、シリーズタイトルを『女神のフィニメモやらかし記』にしようとしたのだが、編集途中でキースから連絡があってタイトルを告げたら却下された。
まだタイトル画面は作ってなかったからよかったが、作って動画を合体していたら手間だった。
ということで、シリーズ名は無難に『フィニメモやらかし犯』となった。
あれ、これは無難なのか?
だけど、だ。
類友なのか、リィナの周りはやらかし属性ばかりが集まってる。
それがプレイヤーだけではなく、NPCもというのがなかなかに興味深い。
リィナがトレースと名づけた獣人くんだが、彼のことは覚えている。
最初に会ったときは満身創痍で毛に血がこびりついていて、フィニメモの再現度の高さにびっくりした。
なにもそんなところを生々しくしなくてもと思ったのだが、これもフィニメモのひとつの売りではあるし、変に手を入れられてマイルドになっても臨場感や緊迫感がなくなる。難しいところだ。
ちなみにプレイヤーが戦闘中などで傷を負ったときはそこまでグロくないように配慮がなされている。
毒を食らった場合は紫色の霧状のものが一定の時間間隔で身体から吹き出したり、麻痺は黄色い紐状のものが身体に巻き付いたりと、視覚で分かりやすくなっている。
その彼だが、三日目の午前中の動画までを見る限り、あいつもなにかやらかしそうだ。
あのウサギ耳のシェリもおっちょこちょいキャラっぽいし、トレースと二人できっと、なにかやらかしてくれるだろう。
二人の今後の動きに期待だ。
出来上がった動画を最初から最後まで流して最終確認をして……。
よし、これで問題なし、だ。
サイトにログイン、アップロード、と。
タイトルと詳細はあらかじめテキストにしてあるので貼り付けて……。
アップした端からAIが動画のチェックを始めてくれる。問題がある場合は「こことここがダメです!」とメッセージが出て公開ボタンが押せない。
このチェック時間はいつもどきどきする。
特にエラーメッセージも出ず、内容も問題がないようで、無事に公開ボタンが現れた。
念のためにもう一度、タイトルと詳細を確認して……。
「よしっ、いけっ! 俺の女神っ!」
意を決して公開ボタンをクリック。
少し間があって、「公開されました」とメッセージが出た。
早速、できたてほやほやのページにアクセスして、確認。
よし、問題なし!
これであの二人がなんの憂いもなくフィニメモをプレイできればいいなという祈りを込めて。
楓真もいろいろと末期。




