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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《二日目》金曜日

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第三十一話*【キース視点】少し予定は狂ったが、楓真姉に無事に接触できた

 フィニメモの初日は散々だった。


 本当はサービス開始日の木曜日と金曜日は有給を取る予定だったのだが、細々とした打ち合わせやそれに付随した資料作成やらの仕事がなだれ込んできたため、仕方なく木曜日の午前中だけ休みを取った。

 そこまではよかった。


 ログインすると、βテストの最終ログイン地ではなく、なぜか世界樹の村からになっていて、戸惑った。

 どのみち、ここに戻ってくる予定だったからよかったものの、どうしてここからなのか。

 そんなことを思いながら周りを見てみると、βテストの初日以上の人であふれていた。

 運営はアレだったが、βテストの評判が良くて十万ダウンロードコードは瞬殺だったとは聞いていたが、なるほど、事実らしい。


 そんな中で黄色のマーカーがいた。

 黄色のマーカーはβテストに参加して、ゲーム内でなんらかの貢献をした人に付与されたものだと聞いた。

 それはβテストのときのキャラを継続して使っても、正式版で新規で作っても付くということだった。

 だからどちらかだろうと思って近づくと……。


「あれは」


 エルフでは()()()()()真っ赤な髪の毛ではあったけど、整っているのになんだか地味な顔……というと怒られそうだが、スキャンしたままだと思われる楓真の姉が立っていた。

 オレも見た目に関してはなにもしてないからあまり人のことは言えないが、ゲーム内では出来るだけ格好よくあるいは可愛く見せたいからとスキャンデータを(いじ)るヤツが多いというのに、分をわきまえているのだろう。

 オレの中でますます好感度が高くなるのだが、……勝手にしてろと言われそうだが、この気持ち、どうしてくれよう。


 本当は遠目から見てゲームを始めたことを確認するだけに留めようと思っていたのだが、その手には見慣れないものが握られていたせいで、思わず近寄って声を掛けていた。

 思いっきり不審そうな表情を向けられて、そして、周りもオレたちに注目していることに気がつき、慌てて離れたのだが、遅かったようだ。


 下手に介入するとますますこじれて修羅場になるのは経験済みだ。

 それにしても、ゲーム内でもこれとは、本当に勘弁して欲しい。


 だが、すぐにすっとぼけた顔のNPCがやって来て、楓真姉を連れ出してくれた。

 あのすっとぼけた顔のNPC、見覚えがある。

 オレとフーマが助けて、世界樹の村に来ればいいと言った人間女性NPC。

 言っておいてなんだが、本当に来ているとは思わなかった。


 救出されたのを確認して、それからさてどこに行こうかと考えていたら、女性プレイヤーに取り囲まれた。

 ほんと、止めてほしい。

 屋根に飛び移って逃げたのだが、ここの建物は背が低くて助かった。


 この調子ではオレの野望が始まる前から(つい)えそうだ。


 そうこうしているうちにタイムリミットが来て、なにもできないままログアウト。


 午後は散々な打ち合わせで、またもやメンタルを激しくやられた。

 打ち合わせのはずなのに、どうして女性同士の言葉の殴り合いを聞かなければならなかったのか。こうも続くと女性不信に陥りそうだ。


 打ち合わせの後はゲッソリしながら業務をこなし、ようやく終業。迎えの車の中でグッタリ。

 家に帰って夕飯を食べ、ゆっくり湯船に浸かってどうにかリカバリーをはかった。


 気持ちはそれでだいぶ回復したが、午前中の悪夢はまだ引きずっていた。それでもβテストの時との差を知りたくて、とりあえずログインした。


 ログインをすると、フレンドの何人かから声を掛けられたが、どうやら全員、最後にログアウトした最寄りの村にいたらしい。なぜだかオレだけ世界樹の村のようだ。


 よくよく考えてみたら、最後はフーマと悪ふざけして、フィニメモの端っこを目指そうとか言って、なにもない荒野を鯖から切断されるまで走っていたような気がする。

 最終日ハイと言うヤツだな。

 改めて思い出すと、馬鹿としか言いようがない。


 あの辺りは下地はあるがまだ未実装の場所だったのかと思う。モンスターもなにもなく、地面のテクスチャーのみあった。だから帰還場所が初期村に設定されていたのだろう。

 運営もまさかβテストであそこまで到達するヤツがいるとは思わなかったのかもしれない。油断しすぎだ。


 プレイヤーの探究心は常に運営の予想を上回るのだ。

 現にβテストの一ヶ月間でその当時のカン(カウンター)スト(ストップ)であるレベル六十に到達したプレイヤーが何人いたというのだ。

 さらには、オレたちみたいな馬鹿がいるのも読めないとはな。


 まぁ、今回はそんな運営の手抜きがあって手間を掛けずにここに来れたから良かったのだが。




 ログアウトは正式版から運営が推奨し始めた宿屋でしていたため、いきなり女性プレイヤーに囲まれるということはなかった。

 βテストの最後辺りはほんと、あれも悪夢だった……。


 今にして思えば、βテストの初期は気楽で良かったものだ。

 楓真は動画を配信している関係で初期から有名であったが、声を掛けられる程度だった。


 ゲーム内での悪夢が始まったのは、βテストが折り返しになった後くらいか。

 楓真に言われるがままに検証動画や攻略動画につきあっていたのだが、楓真の編集が上手いからなのか、ゲーム内のオレは自分で言うのもなんだが、格好よかった。

 リアルでもあれだったら、きゃあきゃあ言われるのもうなずける。

 しかし、ここは仮想世界、ましてやゲームだ。

 それなのに……、いや、だからなのか。

 現実よりもひどい有様だ。


 いつもパーティを組んでいる女性たちはオレの普段の残念な言動と実態を知っているので特に変わることはなかったのだが、問題は動画でオレのことを知った女性プレイヤーだ。


 あの格好のよさは楓真の編集の腕ゆえだし、このゲームの見た目はだれも彼もがいい男だしいい女だ。

 たまにひねくれ者がいて、いわゆるブサメンなのもいたが、ネタキャラとしてみんなに扱われていた。


 だからとりたてて見た目で騒がれることはないだろうと楽観視していたのだが。


 あのプレイに見た目も加わって、完璧超人みたいで、リアル以上での騒ぎになった。

 とはいえ、オレたちも最初は内心で苦笑しつつ相手をしていたのだが、それがいけなかったのか。徐々に人が増え、セーフゾーンでは身動きが取れないほどの人だかりになることが多々あった。

 運営からも異例のお達しが出るほどだったのだが、それがさらなる拍車を掛け、結果、オレたちは人のいない場所、いわゆる辺境をめざすようになってしまった。

 そんな状況になってしまったので、離れていくヤツもそれなりにいた。


 βテストが終わり、正式版ではキャラクターリセットをしようかと思うまで、精神的に追い詰められた状況だったのだが、それをしなかったのは、色々あったが、やはりこのキャラに愛着があったからだ。

 あとは別にVRMMORPGがフィニメモだけではないからこのゲームを止めて、他のゲームをするという選択肢もあったのだが、それを止めたのは、楓真の海外勤務での脱落で代わりに姉が参戦したせいだ。


 楓真に姉のことを頼むと言われたが、言われなくてもする気満々であった。だが、公式に言われたのなら大手を振ってできるというものだ。

 それというのに──。最初からやらかしてしまった。


 下手に接触すると、楓真姉の迷惑になるのはすでに体験済みだ。

 だからどうやってと思っていたら、さすが楓真の姉といったところか?

 ゲーム初日にホームを手に入れたというではないか。


 βテストのとき、金を払えば血盟で週単位で使える各村にあるアジト、NPCが管理している砦でプレイヤー同士が競って手に入れる大型のアジトやアジト戦を通して入手できるアジトもあった。

 それ以外にも期間限定ではなく、永続的な家を購入できるようにするというアナウンスはあったが、楓真姉がゲットした店舗兼ホームは初めて聞いた。

 これはレア職業特典なのか、それともなにか条件をクリアしたからなのか。

 怪しいのは、楓真姉が使っているのが楓真のコードという点だ。

 βテストのとき、楓真とともにあちこちでNPCを助けるということをやっていたため、NPCとの繋がりができていた。

 現に楓真姉を助けたのは、あのすっとぼけた顔のNPCだった。


 楓真姉がホームを手に入れたと楓真から教えてもらったのは、サービス開始の翌日、朝の八時過ぎだ。


 金曜日はなにもないときは在宅勤務にしているし、可能な限り残業はしないようにしている。

 今日もなにごともなく仕事が終わったので、そそくさとVRのある部屋に移動して、フィニメモにログインした。


 洗浄屋なる謎の店に彼らがいると楓真から教えられ、楓真姉がいない間にコンタクトを取って、楓真姉を守ってもらうようにお願いに行こう。


 そう思って行ったのはいいのだが、懐かしさもあって話し込んでしまったため、楓真姉のログインとかち合ってしまった。


 計画が狂ってしまったが、これは改めて慎重に接触しなくて済むということだ。

 しかもすっとぼけた顔のNPCがどこまで把握しているのか分からないが、ユニーク・クエストまで出してきたし、ここをホームにしてもいいともお許しをもらえた。

 さらには花火に誘えたし、どさくさにまぎれて身体を密着できた。いいことづくめだった。

 一時期はフィニメモを止めようかと思ったが、続けていてよかったと思えた瞬間だった。





お巡りさん、この人です! とならないように。






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