第二十五話*《二日目》エクストラ・スキル
オルとラウの二人に「癒しの雨」「洗浄の泡」「乾燥」の三スキルの使い方を教わったのだけど、この二人、なかなかのスパルタだった。
決して、決して! 私の飲み込みが悪いわけではないと思うのよ!
だって、「アイロン台召喚」と「アイロン仕上げ」は問題なく使えたもの。
新しく覚えたこの三つのスキルだって問題なく発動はできたのよ。
なのに!
なにがどう違うのか分からないけど、二人はなかなかゴーサインを出してくれなかった。
き、厳しすぎです、先生っ!
ちなみにスキルを使用するにはMP……マジック・ポイントとかマナ・ポイントと言われる、体力とは別に設定されたポイントを消費して行使できる。
フィニメモではマナ・ポイントの呼び方を採用しているという。
いくらこれがチュートリアルでも、スキルを使うとしっかりとMPを消費している。
だけどHPとMPは自然回復するので、あっという間に空になるということはない。でも、今回に関しては早いところ空になってくれた方が良かったかも。
『どうするでち?』
「……満足はしてないけど、このくらい使えていればいいとする?」
オルとラウはなにやらこそこそと話をして、何度かうなずくと同時にくるりと回って私を見た。
さっき会ったばかりのはずなのに、ずいぶんと息が合ってるわね! 仲良くなってくれてうれしいわ。
「んじゃ、ぼくがねーちゃんに教えるのは今回はここで終わり」
オルの言葉と同時に「チュートリアルクエスト・その二」完了、と目の前に出た後、その文字に被さるように「チュートリアルクエスト・特殊」と出た。
ま、まさかの連続っ?
それもだけど、特殊ってなんですか?
『次はあたちでち!』
先ほどはオルとラウの二人のダブルスパルタだったけど、今度はラウだけのようだ。
あれ? ラウが教えるってなにを?
『クァットゥオルから基礎を教えてもらったであろうでち』
ラウのたまに取って付けたような語尾が気になるけど、ここは突っ込まないでおこう。
「ラウ先生、引き続きお願いします!」
『うむ』
ラウは腰に手を当てると胸を張りだして私を見上げた。
かわいいとしか言えないのですが!
『それでは、リィナリティ』
「はい」
『スキル一覧を見るでち』
スキル一覧?
ラウにうながされて見てみると……。
なぜかスキルに「☆浄化」が増えてるのですが。
「あの、ラウ、なにかやった?」
『なにもしてないでち。それはリィナリティが頑張ったご褒美でち!』
ご褒美……? もしかして、さっきのクエスト?
「うん、ありがとう?」
確かに頑張った……のだと思うけど、それはスキルをもらうような頑張りだったかと言われると、微妙だ。
とはいえ、もらえたのだから頑張ったのだろう、うん、そう思っておくのが精神衛生上いい。
『そのスキルの使い方を教えるでち』
「浄化」というスキルはラウが広間に使っているのを見たことがある。あるけれど、なにをしていたのかさっぱり分からなかった。
というのも、使っている最中も使った後も、見た目では変わっているように見えなかったのだ。
『このスキルは、リィナリティが見てきたとおり、見た目では分からないでち』
そうですよねー。
私の目がおかしいわけではなくて、そういう類のスキルということね。
『でちが、「心眼」と呼ばれるスキルを持っている人には見えてしまうのでち』
心眼……?
それって共通スキルにあるものなのかしら?
取得可能スキル一覧のウインドウを開けて見てみるけど、それらしいものはない。検索をかけても該当スキルはゼロと出た。
「心眼ってどうやって覚えるものなの?」
『なにかのスキルをたくさん使えば出てくるはずでち』
ラウからの答えはとても曖昧なものだった。なにかのスキルって。
予想としては「鑑定」あたりのような気がしないでもないけど、このスキル一つだけってわけでもないかもしれない。
共通スキルを眺めてみて、それらしいスキルを片っ端から取ってみるか。
……取得ポイントが一ってのが罠のような気がしないでもないけど、とりあえずあやしそうな「瞑想」「深呼吸」の二つを取ってみた。他は様子を見て追加しよう。
「瞑想」は瞑想をしている間はHPとMPの回復速度が上がるものだ。
「深呼吸」はというと、「瞑想」を使用する前に使うとより回復量が上がるもののようで、セットで覚えた方がよいようだ。
ちなみに「瞑想」はどこでも使えるわけではなくて、戦闘中はもちろん、戦闘状態では使えない。どうやら使えるのはセーフゾーン内だけみたいだ。
スキル説明を見てみると、瞑想をしている間は行動不可のうえ、防御力も激しく低下すると書かれていたので、仮に戦闘中で使えたとしても、状況を見てから使わなければ危険なようだ。
それに対して、「深呼吸」はどこででも使える。「瞑想」の前に使うのはもちろんのこと、戦闘中にスキルを使う前に使用しても効果が上がるという。
試しに「深呼吸」を使ってみたのだけど、スキル名を口にしてから深呼吸をするまでに大きく息を吸うための予備動作が入り、それからようやく「深呼吸」になる。
そして、肝心の深呼吸だけど、ようやくスキルを使える段階になって使うと、まだるっこしさに気がつく。リアルで深呼吸をするときのことを思い出して欲しい。深呼吸をすると、息を大きく吸って、ゆっくり吐いてとやると、そこそこの時間が掛かる。これを戦闘中、しかもスキルを使うまえに毎度やるというのは現実的ではない。
となると、生産系やセーフゾーン内で使う洗濯スキルの前に使うのはいいかもしれない。
いわゆる「詠唱時間」と言われるモーションが大変に長いスキルということだ。たぶんだが、スキルレベルが上がってもこれは短くならないような気がする。
『説明を続けてもいいでちか?』
どうやらラウは私がスキルを取ったり、試しているのを待ってくれていたようだ。
「あ、大丈夫。続きをお願いします!」
毎度のことながら脇道にそれるなと思いつつ、ラウに続きをお願いした。
『では、続けるでち』
ラウはまたもや腰に手を当てて胸を張った。かわいいのだけど、このポーズはなにか意味がある?
「ラウ、さっきからそうやって胸を張ってるけど、なにかスキルと関係があるの?」
『ないでち!』
ないんかいっ!
『浄化というのはでちね』
「はい」
『基本は広範囲を綺麗にするスキルなんでち!』
範囲スキルということ?
『あとはでちね、穢れや罪を取り除くことも出来るのでち』
それなら、あの村長らしき人に使えば良かったのでは?
……と思ったけど、なにか悪いことをしたのかと言われると難しい。
村長らしき人はラウにはそれなりに返してはいたと思われる。ただ、天秤に掛けたときにラウ側が少しばかり重たくて、平等ではなかったというだけだ。
give-and-takeというのは、双方が納得したうえで成り立っていると思うのですよ。いわゆるWINWINな関係というヤツである。
だからこそラウも切れたんだと思うのよね。
村長らしき人は心の底からの悪人ではないと思いたい。
「穢れ……。えっ? も、もしかしなくても」
『さすがリィナリティでちね! 気がついたでちか』
「まさかデバフの解除が」
『できるでちよ』
洗濯屋はバフだけではなくて、デバフも出来るしデバフ解除も出来るって……。
楓真が知ったら、大袈裟だけど発狂しかねない。
「あれ、でも?」
この「浄化」というスキルなんだけど、一覧を見るとこれだけスキル名の前に意味深に☆がついているのよね。不思議に思ったけど、スルーしてた。
『☆がついているのは、特別なスキルなんでち!』
「まさか噂の……エクストラ・スキル?」
『そうでち!』
うわっ! なんかまた、知らない間にやらかしたっ?
そんな私の内心を知らないとばかりにラウが説明を始めた。
『「浄化」は空間に向かって使うと、そのあたり一体を綺麗にしてくれるでち』
「……ほ、ほうほう」
『味方に使えば、デバフ解除になるでち!』
楓真、すまぬ! また特大の爆弾を投げつけた!




