第二十四話*《二日目》スキルを覚えよう!
なんだかとても長い間、このゲームをしているような気分なのだけど、まだ本サービスが開始されて二日目のお昼である。そもそも初日から濃すぎたのだ。
しかし、私はまだ、フィールドに足を踏み出しただけで、このゲームでの戦闘を経験していない。それなのにもうレベル十って……。
休憩に入る前は気がつかなかったのだけど、再ログインをしたからなのか、私の視界の端でなにやらぴこぴこと点滅しているものがある。
そこに視線を向けると、ポロンと音がして、目の前にウインドウが開いた。
……なになに?
新たなスキルの取得と既存スキルのレベルアップができます、と?
フィニメモでのスキルの取得方法はというと、経験値と一緒に獲得できるスキルポイントを使用して一覧にあるスキルを覚えるというもの。これは全職・全種族共通のスキルもあれば、職スキル、種族スキルと別れている。
このほかにエクストラ・スキルなるものが存在しているようで、こちらは条件を満たせば自動で取得となったり、スキルスクロールをどこかで手に入れて覚えるというもののようだ。そしてこのエクストラ・スキルはスキルポイントを消費しないで取得できるという。
ただ、かなり条件はシビアみたいだし、こちらも運営からは「あります」としか提示されていないため、まったく不明のようだ。
また、種族スキルはその種族でしか取ることができないけれど、職スキルは他の職でも条件さえ合えば取得することができる。ただ、本職が取得するよりもスキルポイントの消費が倍になるそうだ。
ソロで行こうと思っている人であれば、例えばだけど、ファイター系だけど回復スキルが欲しいとなれば、条件をクリアして、スキルポイントが倍でも取得をすれば、可能なのである。
せっかくのMMOなのだし、末期で人がいないという状況ならともかくとして、まだ始まったばかりで人がたくさんいるのにあえてソロで行こうなんて、それはそれで淋しいような気がする。
……と思いつつ、私の職はどうにも未だに不明な部分も多いし、パーティに入ってもまったく貢献できそうにないから、この職の真価が分かるまではソロ活動を余儀なくされそうではある。
というちょっと悲観的になるようなことは今は目をつぶって見なかったことにして、と。
それよりもスキルである。
既存スキルの強化は後回しにするとして、先に新規スキルを取ってしまおう。
スキル一覧を見ると、取得できるスキルがずらっと並んでいるために面喰らった。
全員が取れるスキルの数もかなりある。だけど今はこれも後回しだ。
種族スキルも後にするとして、と。
スキル表を見ていると、上にタブがあって切り替えられることに気がついた。
なので、職別スキルのみにしてみる。
すると、取得できるスキルはなんと三つのみ。
前にオルが使っていた「癒やしの雨」「洗浄の泡」「乾燥」の三つ。どれもスキルポイント一で取れる。
ま、まあ……そうよね? 「アイロン台召喚」と「アイロン仕上げ」だけだったら「洗濯屋」として片手落ち感があるものね。そもそもこの二つはどう戦闘に使えばいいのか分からないもの。
いやそれより、これら三つのスキルを先に付与しておかないと洗濯屋の意味をなさなくない?
……でもまあ、スキルの効果を思えば、最初から付与されていたら色々と詰みそうよね。
特に「癒やしの雨」。
スキルの効果がある間は継続的に回復されるけど、その分、ヘイト値が高いってしんどいわよね。レベルが低いと防御力も低いし、しかもマジシャン系なので装備も紙だし、体力もないからフルボッコされたら死ぬ。
トレインされていたモンスターに巻き込まれたときのことを思い出して、思わず顔をしかめてしまう。
あれは超痛かった……。
スキルを使う度にアレになると思ったら、レベル上げが憂鬱になって、ゲームにログインするのさえ嫌になって辞めることになりそうだ。
だからクイさんが「真実を知っても辞めないで」と言って説明してくれたのね。
それにしても。
この洗濯屋って、初期のレア職業ではなかった可能性がありそう。どう考えてもベリーハードな職だもの。
そんなことを考えながら、私はこの三つの新スキルを習得した。使い方をオルに教えてもらおう。
スキルポイントはまだあったので、既存のスキルも今の上限まであげておいた。
そしてスキル取得の画面を閉じようとしたのだけど、思っていたところではない場所に触れてしまったようで、全員が覚えられるスキル一覧が出てきてしまった。
そういえば、料理スキルや採取スキルというのはだれでも取れたんだっけ。ついでだし取ってしまうか。あ、あとは鑑定スキル!
こういう基本スキルに類するものは総じて取得ポイントは一のようだ。ということで、悩むことなく取得した。
……ちょっと待って?
そういえば運営が出していたフィニメモのPVには、ローブを着ているのに短剣を持っているキャラクターがいたような気がする。
このゲーム、初期の初期は最初から持っている武器しか装備できないけど、ゲームを進めていけば好きな武器を持つことが出来るようになると公式にも書かれていた。
だから剣を持った魔術師がいてもおかしくないし、杖を持ったファイターがいても……効率が良いか悪いかだとか、見た目だとかはともかく、そんな固定概念に囚われない武器の選択も出来るようになる。
ただ、魔術師が杖やロッドを持つのは魔力補正が武器にあるからだし、ファイターが職に寄った武器を持つのは、職の補正と職ボーナスがあるからだ。
でも、杖持ちファイターって面白いかも。
で、なんでこの話を出したかというと、共通スキルの中に武器種ごとの装備スキルがあったからだ。
なんだけど、スキルがなくても武器そのものはなんでも装備ができたはず。でも、それをより上手く使えるようになるには、武器種ごとのスキルを取った方がよいらしい。
洗濯屋はデフォルトの武器がないので、プレイスタイルによって決めればいいのではないか、と思ったのだ。
となれば、まだスキルポイントはあるのだから、どれかひとつ取ってしまうのもありかも。
と思ってスキル一覧を眺めてみたけれど、どれもしっくりこない。
……ま、まぁ、ここでスキルを取っても、肝心の武器がないのよね。手持ちのお金も少ないことだし、少し考えてみよう。
今は新スキルを使ってみるのが先だ。早速、オル先生に教えを請わねば。
オルを探して洗浄屋をうろうろすると、すぐに見つかった。
オルの普段の居場所はここなのか、あのタイルが敷き詰められた部屋になんとラウと一緒にいた。
でも、よくよく考えたら、オルは妖精族で、ラウは精霊? となると、仲良く一緒にいても不思議はない。しかも二人とも、似たようなスキルを持っている。
「二人とも、いいところにいた」
「なぁに、ねーちゃん?」
「あのね、オル。スキルを覚えたから、使い方を教えて欲しいの」
「うん! 大歓迎だよ!」
オルに手招きされたので部屋の中に入ると、ちょうど一区切りしたところだったみたいで、洗濯された後の品物が部屋の端に堆く積まれていた。
「これ」
「うん! ぼくとラウと一緒にね!」
『そうでち! リィナリティからした良い匂いは、ここの匂いだったでち!』
ラウにそんなことを言われた覚えがあるけど、洗濯物を洗った匂いだったのね、納得。
『あたちはここが気に入ったのでち!』
「それなら良かった」
どうなることかと思ったけど、オルとラウは意気投合してくれているみたいだし、安心だ。
シェリはどうなんだろう?
「シェリは?」
「ウサギのおねーちゃんは隣でクイにいろいろ教えてもらってるよ」
シェリも心配はなさそうだ。
「それじゃ、ぼくたちがおねーちゃんにスキルの使い方を教えるね!」
オルの言葉の後に目の前に「チュートリアルクエスト・その二」と浮かび上がった。
これ、やっぱりツッコミを入れた方がよいのかしら?
……それも無粋なので止めておこう。それにいちいち突っ込んでたら身が持たないわ。
だんだんと運営のスタイルが分かってきた。
とはいえ、適切なクエスト名はなにかと聞かれたら悩ましい。
「では、オル先生、ラウ先生、お願いします!」




