第二十二話*《二日目》新たな住人
洗浄屋に着いた。
ただの配達だったはずなのに、ものすごく時間がかかってしまった。
しかも配達先で突発クエストに遭遇するし、ラウとシェリを連れて帰ってきてるしで、なんというか、やらかし具合が半端ない。
「た……、ただい……ま」
別に悪いことをしたわけではないはずなのに、声が小さくなってしまう。
一方のトレースは、特に変わりがない。
小心者ゆえのこの挙動不審さよ。
小声にもかかわらず私の声を聞きつけたオルが部屋から飛び出してきた。
「ねーちゃん、お帰りっ!」
「ただいま」
オルは私に抱きつこうとして、腕の中にいるラウを発見すると、固まった。
「ねーちゃん?」
「えーっと、拾ってきた?」
『リィナリティ、あたちを拾ったってっ!』
「え……と。じゃあ、溺れてたのを助けた?」
うん、間違ってない。
『溺れてなど、ない、でちぃぃぃ!』
むちゃくちゃ思いっきり否定しているけど、じゃあ、なんだろう?
「池? 温泉? に浸かってたの?」
『そ、それも……違う、でち』
なんと説明すればいいのやら。
「その小っこいのは村長の屋敷の元・守り神。こっちのウサギ耳は、そこで働いていた」
トレースがすかさずフォローしてくれなかったら、いつまでもラウと漫才をしていたような気がするので、大変に助かった。
私たちの声にクイさんもやってきた。
トレースはクイさんにも簡単に説明をしてくれた。助かるわ。
「あぁ、シェリちゃんね。歓迎するよ」
『あ、あたちは?』
腕の中のラウは不安そうにクイさんを見ていた。
クイさんはニコニコとして、ラウに視線を向けると、
「もちろん、歓迎するよ」
『ほんとでちかっ?』
「リィナが連れて来たのだからね」
クイさん……。私を信頼してくれてるの?
「やらかしのリィナ……」
後ろでトレースがボソリと呟いているのを、聞き逃さなかった。
「ちょ、ちょっと! トレースっ!」
「事実を述べたまで」
「ぐ……ぐぬぬぬ」
NPCにまでそんなことを言われるなんて! でも、反論はできないこの悲しさよ。
「どうせあんたのことだ。フーマと同じように人助けをするだろうからね」
「人助けはいいことじゃないですか! それをやらかしたって、ひどい!」
「……まぁ、今回のはトレースが言うようにやらかしだけど」
「クイさんまで!」
「それはともかく、助けた人たちが行く当てがないのなら、ここに連れてくればいい。そのための洗浄屋だからね」
クイさんに流されたけど、それならそれでよしとしよう。
「うん、ありがとう。……でも、やらかしてないからね?」
やらかした自覚はあるけど! でも、建前としてはやらかしてないって思ってると思わせておこう、うん。
「リィナはこの先も色々と面白いことをしてくれるだろうからね。楽しみにしてるよ」
クイさん、お願いだから、そんなことを楽しみにしないでください!
それから私はゲームをしている時間が長くなっていることに気がつき、一度、ログアウトすることにした。
私がログアウトしている間に、シェリとラウの部屋を用意したり、今後のことを話し合っておいてくれるようだ。
『すぐに戻って来て、でち』
「すぐに戻るよ」
パソコンなどで出来るMMORPGではリアルとゲーム内とでは流れる時間が違うことが多々あるが、フィニメモはVRなのと、リアルすぎるためにあまりにも乖離しすぎるのはよくないという考えがあるらしく、リアル時間と一緒だ。だからリアル時間=ゲーム内時間となり、分かりやすい。だけど、この形態はゲームを進行していくうえで、デメリットもある。
二十四時間戦える廃人さまたちはともかく、普通に暮らしている人たちにとっては平日は決まった時間にしかログインできない。休みの日も用事があればそちらを優先するだろうから、下手すると平日より遅い時間からのログインになることもある。
今のところは昼と夜とで差異がある話はないが、それは始まりの村だけという話もある。
そのうち時間帯によって受けられるクエストが違ってきたり、日中あるいは夜にしか会えないNPCや夜にしか出現しないモンスターなども出てくるという。
そのあたりはプレイヤーが時間調整をしたりして工夫をするしかない。
「休憩してくるだけだから」
いつまでも離れないラウに苦笑していたら、シェリがさりげなくラウを引き取ってくれた。助かった。
そうして割り当てられている自室に戻り、ログアウトした。
◇
お昼を食べた後、休憩がてら少し母と話した。
母は楓真はまったく連絡をしてこないと愚痴っていたけど、私には連絡が来たと言ったら、今度、連絡が来たらこちらにも連絡するように! と強く言われた。
そんなこんなで休憩できたのかあやしいけど、準備をして、フィニメモへ。
あ、ログインする前に楓真には午前中の動画と母に連絡を入れるようにとメッセージを添えて送っておいた。きっと呻きっぱなしだろう。
……あれ、もしかしなくても、私のせいで時間を取られて連絡ができない? 午後の分は送るのは後にする?
それよりも「母に連絡するまで動画を送らない」と脅し? のメッセージを追加で送る?
ま、それもヤボってヤツか。
とにもかくにも。
私はログインして、見覚えのある天井を見て安堵して、それから階下へと向かった。
もちろん、ログインした瞬間から動画を撮っている。
「ねーちゃん、お帰り」
『待っていたでち!』
ちび二人組が私の姿を認めるなり、飛びついてきた。慌てて二人を同時になんなくキャッチできるなんて、びっくりよね。まぁ、この子たちが軽いから出来ることではあるけど。
二人はどちらが先に抱っこしてもらうかを争っていたけど、二人同時に抱っこはさすがに無理かしら?
「はいはい、二人とも、リィナが待ち遠しかったのは分かるけど、いきなり飛びついたら駄目でしょ」
クイさんが優しく二人にそう言ってくれて、ペリペリと剥がしてくれた。
それから、私がログアウトしていた間のことをクイさんが説明をしてくれた。
シェリとラウの部屋は同じ部屋となったようだ。それでいいのかと確認すると、シェリは一人部屋をもらうのはものすごく恐縮だからいいということだし、ラウはラウで一人は嫌だという。そういうことで、二人一部屋となったという。
それから、シェリとラウは洗浄屋で働くことになった。
ラウは言うまでもなく浄化の力を買われて持ち込まれた洗濯物を洗う……というより浄化する? らしい。シェリはというと、今まで村長の屋敷で働いていたので、雑務は得意とのことだった。
「それならよかった」
それはともかく、ずっと気になっていることがあったので、この際に聞いてしまえ! ということで、シェリに視線を向けた。
「シェリ、嫌だったり答えにくいことだったら言わなくていいんだけど。その、腕の傷……」
「あ……。これ、ですか」
シェリは恥ずかしそうに腕を後ろにやりつつうつむいた。
やはり聞いてはいけないことだった? でも、ずっと気になっていたのだ。
「まさか、あの村長とか言うヤツに?」
もしもそうだったとしたら、闇討ちでもしてやろうかなんて思ってしまうほど、腹立たしい。
実際に闇討ちなんてできないけど、だけど。
「そのぉ……。村長ではないです」
違うの? となると。
「同僚に?」
「それも違いまして。……わたし、ドジだからその、仕事をしていたら気がついたらこんなに傷が付いてまして」
それ、本当にそうなの?
真実を知っていそうなラウに視線を向けると、ラウはため息を吐いた。
『それは本当でち』
「え? そうなの?」
ラウは村長らしき人にシェリを助けてくれない云々と言っていたのは、なに?
『だけど、シェリはドジでもなんでもないでち! 本当は何人かでやる仕事をシェリ一人に任せていたのでち! こんなに傷ついてるのに、あいつはシェリ一人にやらせていたんでち!』
なるほど。
村長らしき人は今度見かけたら、抹殺だわ。
私は心にそう決めて、拳を握りしめた。




