第二百十五話*《三十二日目》大切にされているらしい
キースがいうように、巨大カエルはとっても美味しかった。いってみれば地域ボス並みである。
それゆえに、かなりの火力がないとたぶん倒せないし、しかも連戦。そしてなによりもぬちょぬちょでぬめっとしているのは耐えられない。
『キースさんが情け容赦ない件』
『反論なしだな』
『……藍野は伴侶に優しいというのは嘘だったの?』
『だれも優しいとは言ってないぞ。大切にはするが』
『……大切にされてる?』
『されてるにゃあ』
え、されてるの? と疑念の視線をキースに向けると、なぜか微笑まれた。
『檻の中に入れて、大切にしてもいいんだぞ?』
『エンリョイタシマス』
『リィナリティ個人を尊重して、やりたいことをやらせてくれてるのだから、本当に大切にされてるにゃあ』
ソウイウコトですか。
『って、フェリス、キースさんのこと、詳しいのね?』
『違うにゃあ。フェリスは檻に入れられて大切にされていたことがあるから、分かるだけにゃあ』
フェリスは水色の猫だものね。珍しがられてそうされていたとしても、不思議はない。
『フェリスは今はリィナリティの首で幸せにゃあ』
フェリスの言い方は誤解を生みそうだけど、フェリスが幸せならいいとしよう。
というか、私の首ってなに?
そしてそれが幸せって意味がわからない。聞いても分からないだろうから、スルーするけど。
『さて、カエルの次はなんだろうな』
『カタツムリ、カエルとぬめぬめ系で来ましたから、次もぬめぬめだと思うのですけど、分かりませんっ!』
『出てからのお楽しみ、と言うこと……でぇっ?』
前を歩くキースが珍しく驚いている。
はて、キースが驚くほどのモノとは、なんだろう。
キースの背中にしがみつき、視線をたどって地面を見る……と?
地面には水が溜まっているが、水たまり程度だ。
水の中には海藻っぽいものが色とりどりにゆらゆらと揺れている。
急に出てきた水にキースが驚くとは思えない。
ということは、水中に他の要因が……。
と覗き込んだ途端。
『ふぎゃあっ!』
『リィナっ!』
『『乾燥』っ!』
水しぶきが思いっきり上がり、私たちを襲ってきた。私はとっさに『乾燥』を詠唱していた。
私の意図としては、水がかかる前に飛んできた水を『乾燥』で蒸発させてしまおうと思ってだったのだが……。
「ふにゅぅ」
水は意図どおりに蒸発してくれた。が、水たまりと共にモンスターまで『乾燥』してしまっていた。
水たまりの中にはなにがいたのか『乾燥』で吹き飛ばしてしまったため、分からない。
『あちゃー、やりすぎましたね』
『リィナリティさんは不意打ちに弱いですね』
イロンがツッコミをしてきた。
知ってる。不意打ちされると自分が激しく反応するっての、とっても知ってる!
だけど、言い訳をする。
『とっさに反応できているだけマシだと思うのですよ!』
『そうですけど、もっと力が付いてきたら、不意打ちで力加減が出来なくて、世界ごと『乾燥』してしまいそうで心配です』
『いやいや、それは考えすぎでしょ』
『リィナリティさんのポテンシャルは無限大なのですよ!』
ポテンシャルってなに。
しかも無限大って……。
『いろいろツッコミどころがあるけれど、世界ごと『乾燥』って、不可能でしょ』
『いや、可能だな。世界も水分を含んでいるから、すべて『乾燥』させた場合、世界がなくなるな』
『えぇ? そんな恐ろしいこと、するわけないじゃないの!』
『とっさの時、どうなるか分からないよな?』
『ぅぅぅ……。そうなりそうだったら、キースさんが止めてください』
『分かった』
不測の事態でもしもが起こってしまうかもしれない。その時のために、少しでも打てる手段を確保するのは大切。
そうならないことを祈るばかりだけど。
ま、まぁ、それは置いといて、と。
『水たまりの中にいたのは、なんだったのでしょうか』
『水たまりとはいうが、思っているより深そうだぞ』
空っぽになった穴を覗くとキースが言うとおり、思っていたより深かった。
『水槽くらい?』
『大型水槽くらいだな』
そして通路を見ると、似たような穴がポコポコと空いていた。
『中身がナニかは知らないけど、穴の中を片っ端から『乾燥』させますっ!』
『大雑把だな』
『モンスターがなんであれ、私の血肉になればいいのです』
どうせ見た目がぬめっとしているのなら、見なくていい。
ということで、穴という穴に『乾燥』をかけて、すべて蒸発させて、こちらも全滅させた。
『うん、カエルには劣りますけど、こちらも美味しいですね』
『リィナも情け容赦ないな』
『キースさんを見習いました』
『藍野魂か』
相変わらずたまに口にする言葉が謎だし、恋心は少し減ったけれど、麻人さんといると楽しい。
『末永くよろしくお願いします』
『当たり前だな』
お互いに顔を見合わせ、思わず笑った。
◇
そんな感じでちょっといちゃいちゃしつつ狩りをしていた。
先ほどの水槽もどきの後は、タコとイカがケンカをしながら絡んでいるのが現れた。
速攻で『乾燥』である。
すべてのタコイカを倒して、次のエリアに進もうとするキースを呼び止めた。
『キースさん、ストップ』
『なんだ?』
『私のお眠タイマーが就寝時間だと告げてます』
キースは時間を確認して、気がついたようだ。
『腹時計みたいなものか?』
『そうかもです』
『どうやらここのダンジョンはモンスターが気持ち悪くてあまり人が来ないみたいで、攻略情報が少ないみたいだな』
『そうなのですね』
『なので、明日も来よう』
え? この気持ち悪いダンジョンに明日も?
『キースさん、本気ですか?』
『本気だ』
ここに来なければフィールド狩りになる。
ニール荒野は飽きた。
ということは、ここしか狩り場がない。
『……分かりました。ぬめぬめしてるから正直やですが、明日もここに来ましょう』
『では、ログアウトするか』
◇
ログアウトしてきました。
毎日ギリギリまで遊んでいるので、今日もとっても眠たいです。
「莉那、まだ意識はあるか?」
「……かろうじて」
「明日なんだが、午前中は上総に呼ばれた」
「上総さんに……」
「なので、フィニメモは午後からだ」
「ふぁい……。あの、ここで寝てもいいですか?」
ちなみに、どうにかヘルメットを外すことは出来たけれど、眠すぎてVR機から出られていない。
「莉那、もう少し頑張ってくれ」
「もう……、無理、です……」
「この部屋にもベッドを用意しておいた方がよいのか?」
「その方向で……」
そう返事をした後、記憶がない。
毎度のことながら、限界を知らない子どもかよ! と自分でも思わなくもない。
それにしても、なんで電池が切れるかのように眠くなるのか。
仕事の時は平気なのに、不思議だ。
実家でフィニメモをしていても寝落ちしていた。
麻人さんと一緒でもそうだ。
共通するのは、リラックスできる環境で、気を張っていないせいかもしれない。
ゲーム内で寝落ちしてもリアルの身には危険がないから余計に気が緩んでいるのかもしれない。
本当に危険がないかは知らないけど、麻人さんのことを信頼しているのだな、ということが分かった。
本人に言ったら変に喜ぶから言わないけどね!




